機能性表示食品市場の読み方(2):
店頭の棚をめぐってマーケティング合戦が勃発する

前回は、トクホよりもマーケティングコスト抑えられる機能性表示食品における価格の優位性について話がありました。引き続く今回は、機能性表示食品市場を取り巻く流通面について意見交換となりました。

  • U-Site編集部
  • 2015年9月18日

左:株式会社イード リサーチ事業本部リサーチ事業部の田村嘉康、右:株式会社シードプランニングの奥山裕子氏。機能性表示食品制度に関する意識調査をもとにした対談(インタビュー実施日:2015年5月20日)。
左:株式会社イード リサーチ事業本部リサーチ事業部の田村嘉康、右:株式会社シードプランニングの奥山裕子氏。機能性表示食品制度に関する意識調査をもとにした対談(インタビュー実施日:2015年5月20日)。

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初期より7製品を申請したメーカーも

田村:機能性表示食品は、病気に対しての効果・効能を表記できる制度ではないため、直接効能を伝えられず、機能の表現がとても難しいところです。しかし、ここが、マーケティングのやりがいでもあります。ところで、森下仁丹は、7製品(2015年5月20日時点)を申請していますが、これは最多ですよね?

奥山:森下仁丹は申請数も多いのですが、機能性表示食品の新しいブランドとして、「ヘルスエイド」を立ち上げました。このブランドからは、ビフィズス菌、ローズヒップ、ビルベリー、ヒアルロン酸の成分を使った機能性表示食品など合わせて7製品を展開します。これまで食物繊維や腸内細菌に着目した食品は、予防医学の先を行く先制医療の中で利用することが多かったのですが、今後はこうした分野も機能性表示食品として広がっていくかもしれません。

森下仁丹のビフィーナは、ビフィズス菌を有効成分とした食品で、ビフィズス菌の含有量や食品の形状を変えて顆粒タイプやカプセル状、錠剤タイプと、摂取方法にあわせて選べるようにしています。顆粒タイプならばヨーグルトのトッピングとして食べるなど摂取方法のバリエーションを増やせます。

田村:こうした食品例を見ると、短時間で製品開発をして発売するためには、マーケティングコストをかけずに誰もが知っている機能から投入しているような傾向がみられます。

奥山:今は、既存のトクホとかすでに流通している製品に関して、食試験がすでに通過しているもの、もしくは学術的論文があって申請しやすいものが中心となって機能性表示食品が登場しています。これから各社から製品が出始めますが、機能性表示食品が売れるというデータが出てくれば、今まで以上にマーケティングコストをかけて製品開発をしていくことでしょう。

実際、どのメーカーも着目している成分があって、これを使った製品をいつ出そうかとタイミングを見計らっています。市場の伸びや他社の出方を見ながら製品投入の準備をしているのが現実です。今後は一気に出てくることでしょう。

販売現場には機能性表示食品に対応する変化が現れる

田村:6月中旬から生活者向けに、機能性表示食品の製品が発売となりますが、機能性表示食品の登場によって、生活者のライフスタイルに変化が現れるでしょうし、スーパーやドラッグストア、コンビニエンスストアなど実店舗すべてに変化が起きそうです。健康食品分野で先行している米国事例はどんな傾向でしょうか。

奥山:日本より20年先をいっている米国では、スーパーでもなくドラッグストアでもなく、サプリメント専用のストアがあります。そこでは、サプリメントだけではなく、オーガニックやナチュラル系の食品も店頭に並んでいます。

日本では漢方の専門店は多数ありますが、サプリメントの専門店は少ないのが現実です。日本のサプリメント専門店の代表的な店舗というと、HEALTHY-Oneがあげられます。店頭には栄養士がいて、いろいろな症状にあったサプリメントを調合してくれます。また、メイクアップアーティスト植村秀氏が設立したイムダインの店舗が六本木ヒルズにあります。イムダインもサプリメント専門の店舗で、美容や健康のサプリメントを扱っています。

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­田村:サプリメント専門店は、六本木など比較的富裕層が多いところを狙って出店しているのでしょうか。また、サプリメント専門店で売っている製品は、ドラッグストアで購入できるものとは違うようですがどういった製品を扱っているのでしょうか。

奥山:企業によって考え方は違いますが、HEALTHY-Oneは全国に店舗があり、路面店もあれば百貨店で見かけることもあります。百貨店への出店は営業戦略かもしれません。さらに、サプリメント専門店が店頭で販売するサプリメントは、メーカーが販売しているものではなくて、自社のオリジナルです。サプリメント専門店はメーカーとしての側面も持ち、自社で流通機能を持ちながら、店舗でカウンセリングをして、症状にあったサプリメントを調合するスタイルを持っています。

田村:相談にきたお客さんに合わせたものを調合して販売するスタイルは、日本の漢方専門店と同じスタイルですよね。アメリカのサプリメント専門店では広まっている販売方法ですが、国内でも今後広まる販売スタイルになりますかね。

サプリメント専門店とコンビニの棲み分けはより明確に

奥山:サプリメント専門店が出てきて、少なくとも5年は経過しています。この間、実店舗の推移は、増えたり減ったりしていて、サプリメント専門店の店舗数が爆発的な勢いで伸びている状況ではありません。しかし、サプリメント市場が停滞しているわけではなく、ドラッグストアでもコンビニエンスストアでもサプリメントを購入できるので、市場は広がっています。店舗チャネルの違いは購買層の違いで、サプリメント専門店はドラッグストアやコンビニエンスストアとはちがうお客さんが利用するだけです。米国でもチャネル別販売のスタイルになっていて、ドラッグストアでサプリメントも買えれば、専門店でもサプリメントを相談できる。こうした棲み分けはどんどん増えていきそうです。

田村:専門店とドラッグストアの差別化要素はオーダーメイドサプリメントというところにありますが、これからは、ドラッグストアでもカウンセリングに対応する店舗も増えていきそうですよね。しかし、カウンセリングサービスを実施するにはカウンセラーがいてこそ成り立つので、人件費のことを考えるとどこでもカウンセリングを受けられるという世界にはならないかもしれません。

奥山:かつて医薬品の販売でも同じでことが起こりました。コンビニエンスストアで医薬品を売るためには薬剤師が必要です。しかし、薬剤師の数が足りないのでコンビニエンスストアで医薬品を売るのは難しかったのです。そこで、登録販売者の資格を持つ人がいれば第二類医薬品まで売れるようになりました。しかし、店舗では登録販売者の資格を持つ人の給与面での待遇に反映しにくいので、登録販売者があまり増えなかったという事実がありました。コンビニエンスストアがドラッグストア化していかない理由はこうした背景もあります。

おそらく、コンビニエンスストアでサプリメントを売るのであれば、専門店と同じサービスではなくコンビニエンスストアならではの売り方を考えるべきです。それは、ダイエットサプリをお弁当の隣で売ったり、食べたお菓子が帳消しになるようなサプリメントをお菓子と一緒に売ったりということでしょう。

田村:一種のカテゴリマネジメントでしょうね。パンを買いにきた人は牛乳を買ってバターも買う傾向があるように、健康のことに関するカテゴリマネジメントもいよいよ出てくるかもしれません。健康分野でのチャネルマネジメントも同様です。

流通の店頭は、どんどん変化していきそうです。生活者にライフスタイルの中で機能性表示食品をとらえてもらう戦略は増えるでしょう。これまでのカテゴリマネジメントでは、食べものの隣に明らかに食べものではないものを置かなかったのですが、サプリメントならそれができます。

すでに店頭ではトクホ専用の棚があるので、これからは健康に関する棚ができるかもしれません。また、健康エリアの中ではカテゴリ分けした機能性表示食品の棚も出てきそうです。

田村:これからはそうなっていくかもしれません。そのためには、生活者が健康食品を選ぶ段階で「自分には何が必要か」という理解が深まっていることが大切です。それにはメディアや専門家を通して、自分の健康維持に必要なものの理解が深まる方へ世の中が進んでいくとは思います。

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健康と食事には密接な関係がある と誰もが感じている

田村:ここから先は、データ中心です。今回の調査のポイントはどのあたりでしょうか。

奥山:調査で着目したいのは、健康と食品素材、もしくは健康と食事に密接な関係があると、ほとんどの人が感じていたことです。全体の9割ぐらいが食事で健康になると思っていました。年代でいえば、60代の人はサプリメントの摂取もしますが、できるかぎり食事から栄養素をとりたいというニーズもすごく高かったのです。通常の食事で健康になりたいという希望は、食品で機能を訴求して健康に訴える機能性表示の制度が解決してくれます。

田村:60代以降の高齢者は、サプリメントに馴染みがないということではありませんか?

奥山:サプリメントから手軽に栄養素を摂取するのではなく、自然に食事の中から摂取していきたいという意見が多いのです。これからは機能性野菜というものも着目されるかもしれません。

サプリメントの認識は、年代によって傾向が異なります。以前はサプリメントを飲みながら食事をしていた人もいましたが、その傾向が変わりました。かつてのようにサプリメントをあびるように摂取しなくなったのは、メディアの影響もあるでしょう。健康番組が流行っていたときはサプリメントに焦点が当たっていたので、サプリメントを摂取する傾向がより強かったようです。

そのころからの傾向ですが、サプリメントと食品にはメディアが強く関与しているかもしれません。テレビ番組で放映されたお店には人が押し寄せるなど、健康の効果がわかると皆が飛びつきます。機能性表示食品のパッケージにもこの成分が体にいいということがわかるように書いておけば、テレビで影響が出たように店頭でも反響が出ます。

田村:機能性表示食品の制度では、広告での誇張はメーカーの責任となるため、表現に関しては特に注意が必要となります。しかし、生活者が正しく理解できるようヘルスベネフィットを伝えることができれば、それは生活者の理解を深めることになるため、結果、製品がより売れていくことに繋がると感じています。

奥山:これまでの生活者は、テレビ番組の影響で、成分と効果に関しての知識はすでに持っていて、十分理解した上で製品を買いに行く行動でした。しかし、健康食品の中には、体によさそうだけれども、どんな有効成分が入っていてどんな効用があるかわからないものがあります。こういうものこそ機能性表示食品として売り出せば、ニーズの掘り起こしが確実にできます。効用を説明することで生活者の理解が深まれば、購入が進んでいきます。

例えば、クレソンには栄養素が多数含まれているのですが、みなさんがクレソンに対する認識は、つけあわせの葉としての印象しかないですよね。しかし、クレソンは生命力が強くて繁殖力も高い素材だと生活者に浸透すれば、付け合せであろうとも、クレソンを食べてみようという方はでてくるものです。

(2015年12月3日追記: この対談記事は、当初、3回シリーズとすることを予定しておりましたが、都合により2回で完結とさせていただきます。ご了承ください)