MaaS受容性調査(番外編):自由記述に見る、移動関連サービスの課題と可能性

モビリティ業界に詳しいイード社員とMaaSに関する簡単な座談会を行ったところ、「Googleマップの利便性」「電車の予約・決済アプリのニーズ」「路線バスの課題」「広告×移動手段の可能性」といった内容が出てきました。

  • U-Site編集部
  • 2019年12月20日

貞平(左)と吉田(右)

今秋、イードでは「MaaS受容性調査」を実施しました(結果を紹介した記事:第1回第2回第3回)。その中では、回答者に「移動に関するサービスについてのアイディア」を自由記述で記載してもらいました。そこで挙がったコメントを見つつ、求められているMaaSサービスについて考えるため、イード社内で特に「車好き」として知られ、モビリティ業界の知識が豊富な2人に話を聞いてみました。

貞平 リサーチ事業部チーフコンサルタント。自動車業界の調査を長年手掛け、車に関する知識が豊富。

吉田 5G/MaaSビジネス開発部コンサルタント。自動車関連のイベントに多数足を運び、レポートを作成・販売しており、国内外のモビリティ業界に詳しい。

三浦 リサーチ事業部リサーチャー。聞き手。

Googleマップがあれば事足りる?

三浦:早速ですが、いくつかコメントを見ていきます。まず「移動先を検索するといろんな移動手段のサービスで費用を一覧で比較できるサービスがほしい」(男性30代)という意見がありました。でも、これは基本的にはGoogleマップとかNAVITIMEとかすでにできることですよね?

貞平:そうだね。

三浦:もっと一覧性がほしいということなのかな?

三浦:続いて「目的地のルートと一緒に使う交通手段の混雑予想などを表示してほしい」(女性10代)という意見がありました。。

貞平:それもGoogleマップでできるよね。混雑状況を色でお知らせしてくれるし、リアルタイムで知らせてくれる。

三浦:それは道路の混雑状況ですよね?

貞平:そう。Googleマップじゃ電車の混雑具合は分からないかな。

吉田:今は、電車の混雑率も表示されるようになりましたよ。統計的なデータを使って。車両ごとには分からないけど。

三浦:なるほど、電車の混雑率が分かるのは便利ですよね。

貞平

三浦:Googleマップに関して言うと、「Googleマップにすべて連動してほしい」(男性40代)という意見もありました。これはどうでしょうか?

貞平:今もう一部の情報はGoogleマップに紐づいているよね。例えばお店調べるとき、僕はいつもGoogleマップで調べてるよ。Googleマップの音声検索で検索すると経路も出て便利だし。電車・歩き・バスとかの選択肢が出てきて選べる。あとGoogleマップが優秀なのは、例えば「今から行っても営業時間内に着けないですよ」とか「今日は定休日ですよ」とか言ってくれるところ。

三浦:そんな情報まで出てくるんですね。さすがGoogleマップ。こう聞いていると、Googleマップはかなり使えますね。逆にGoogleマップのダメなところはありますか?

貞平:たまにすごく狭い道を案内してくるところかな。車載ナビは細い生活路はなるべく案内しないようになってるけど、Googleマップはそうじゃない。

三浦:それはなぜなんでしょう?

貞平:たぶん、Googleストリートビューカーが通れるなら、車が通れるっていう判断なんじゃないかな。こないだ見たGoogleストリートビューカーは軽自動車のアルトだったから、すごい細い道でも行けるというふうに判断しちゃうのかも。

三浦:なるほど、面白いご意見ですね。他にGoogleマップのダメなところはありますか?

貞平:すべてが理想どおりに進む前提で提案してくるところ。乗り換えがスムーズにいかないこともあるし、道路が混んでるときもあるから、そういうときは提案されたスケジュールからズレちゃう。でも渋滞情報は見れるし、都度修正はしてくれるから、言うほど不便ではないけど。

三浦:そうなんですね。他に“Googleマップにこういうサービスがあったらいいのに”っていうのはありますか?

貞平:うーん、何だろう…カーナビに目的地やデータを送ってほしいとか?

吉田:そういうサービスはもうあるんですよ。NaviConっていう、スマホとナビを連携する機能。でも、機能はあるんだけど、使われていない。イードでやってるナビ調査でこのあたりの利用率を聞いたデータがあるんですけど、使っている人はすごく少ない。たぶん面倒だし、そもそも知らない人が多いのでは?

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NaviCon

貞平:まあ、Googleマップで調べたら行きたいところの電話番号が出てくるし、それで簡単にカーナビで目的地設定できるから、そもそも連携するメリットはあんまりないのかもね。

吉田:そう、電話番号で簡単に設定できるから、連携する必然性があまりない気がします。
でも困るのが、フリーダイヤルのとき。フリーダイヤルだと目的地設定ができない。
あとこないだ困ったのが、目的地じゃなくて事務所の電話番号だったとき。イチゴ狩りに行こうとして電話番号で目的地設定したら、事務所に着いちゃって…。そうなると、もうハナから車載ナビに案内してもらわなくていいじゃんって思うようになる。もうGoogleマップでいいじゃんって。

三浦:なるほど。じゃあ、Googleマップがあれば結構事足りている感じですね。でも狭義のMaaSの「検索・予約・決済」で考えると、「予約・決済」ができないから、そこが弱点?

吉田:でも、そもそもそんなに予約が必要な乗り物に乗らないですよね、普段。

三浦:確かに。新幹線くらい? あとタクシーか。

吉田:タクシーはGoogleマップで予約・決済はできないけど、配車サービスと連動してるから、そんなに不便ではないかも。

SBB(スイス国鉄)のアプリは検索・予約・決済ができる

吉田:スイスではSBB(スイス国鉄)のアプリがあって、それは予約も決済もできます。事前にアプリで予約をすると、QRコードの電子チケットが発行される。改札もウォークスルーできる。

図
SBB

三浦:え、じゃあそのチケットはどうやって確認されるの?

吉田:車内で車掌さんにQRコードを見せて、読み取ってもらうんです。それがないと追い出されちゃう。こないだニュースでやってましたよね、スウェーデンで妊婦さんが追い出されて問題になった事件。

貞平:ヨーロッパは信用乗車方式が多いよね。

吉田:そうなんです。短時間では車内で切符をチェックされないこともあって、不正乗車をすることも比較的容易。

貞平:決済システムは最新かもしれないけど、いちいち切符をチェックするのは逆に手間がかかっている感じがするよね。SuicaとかPASMOとかがある日本の方が便利な気もする。

路線バスは情報案内において改善の余地がある

三浦:続いて、「バスについて、現在地がわかるようになってほしい。乗車場所がわかりづらいので分かりやすいサイトなり、アプリがほしい。混雑状況がわかるとなお良いと思う」(女性30代)、「バスは便利そうだが乗り慣れないと路線や仕組みがわかりにくくて、利用に不安がある。電車のようにわかりやすい乗換検索が欲しい」(女性30代)という意見もありました。バスに関するコメントは結構多かったです。

吉田:確かにバスはバス停や到着時間が分かりづらいので、改善の余地があると思います。バスを利用するのに経験値が必要なので、バスがローカルの人の乗り物になってしまっている。山手線円外では電車は放射錠状に広がっていて縦移動がしづらいのでバスに乗れたら便利だと思うこともあるんだけど。

貞平:バス停は分かりづらいよね。

吉田:Googleマップでバス停を案内してくれるけど、間違っているケースも結構あるんですよ。方面によって乗り場が変わったりすることもあるから、そこまでカバーできていない。あと駅とバス停が近すぎて、駅構内にバス停があるような案内されたこともあって、あんまり信用できない。

貞平:でも年々精度が上がっているし、今後良くなっていくんじゃない?

吉田:そうかもしれないですね。「バスは面倒」っていう先入観があってあんまり使っていないけど、使ってみたら意外に使えるんじゃないかな、とも思っています。

吉田

三浦:バスは、各社がそれぞれアプリとか個別のサービスを展開していたりするけど、なかなか統一のプラットフォームができないことも使いづらい要因になっているのかなと思います。

吉田:それはあるかもしれないですね。あと、分散交通を推進しよう、電車一極集中はやめようと言われているけど、電車とバスが別会社だから、なかなかうまくいっていない。混雑解消のために電車以外の交通手段の利用を促すといいと思うのに。

移動手段×広告の可能性

三浦:「コストのかかる移動はしたくない。地域バスに広告を多く入れて広告料で運用するなど、徒歩では少し遠い場所へ行くときの手段が無料で活用できるとありがたい」(女性40代)という意見がありました。また、アンケートでは「タクシーは高い」と思っている人が多いという結果が出ていたし、「安くしてほしい」というコメントも多く出ていました。これに関してはどうでしょうか。

吉田:nommoc(ノモック)っていう、無料で使えるタクシーがあるんですよ。いろんな広告を見ることで、無料で使える。プルームテック(加熱式タバコ)が体験できるというのもありました。無料だから人気だったけど、今は一時休止しています。僕も何度か乗ろうとしてトライしたけど、一度も乗れなかった。

図
nommoc

貞平:イタリアでは広告つきの安いカーシェアがあったと思う。車体に広告が入っているやつ。

吉田:日進レンタカーもやってましたよ。黄色で、でかでかと社名が入っているやつ。ちょっと恥ずかしい感じ。

三浦:無料ではないんですね?

吉田:無料のレンタカーはないんじゃないかな。nommocみたいに、0円タクシーはたまにあるんですけど。前にどん兵衛タクシーっていうのがあって、MOVアプリ(タクシー配車アプリ)で呼べたら無料だったんだけど、確実に呼べるわけではなかった。

三浦:広告を入れて移動手段を安くするっていう可能性はどのくらいありそうでしょうか?

吉田:0円タクシーはニュースになった時点で価値があるけど、やりすぎると陳腐化して広告としてあんまり価値がなくなってくるんですよね。そういうことをやろうとしているベンチャーもあるけど、継続的なビジネスモデルになるかっていうと結構難しくて、苦戦しているんですよ。

三浦:でも、車内で何かを体験させるっていうのは何か可能性がありそう。

吉田:そうですね、nommocでのプルームテックみたいな体験型はアリだと思います。おかしの試食とか、VRでコンテンツを流すとか…。(実際にハーゲンダッツをスポンサーにつけ再開しました:12月17日時点)

まとめ

今回、以下のような話が出ました。

  • Googleマップは「検索」アプリとしてかなり有能。「予約・決済」機能はないが、そもそも交通手段を予約する機会が少ないので、それほど不便さは感じない。
  • 電車の「決済」に関しては、日本ではSuicaなどの交通系ICカードが普及しているので、(アプリ上でできなくても)不便さをあまり感じない。
  • 路線バスはバス停や到着時間などの情報案内において改善の余地がある。
  • 広告を入れて移動にかかる費用を安くするという取り組みはあるものの、継続的なビジネスモデルとしてはまだ成立していない。

※今回は一部のコメントしか紹介できませんでしたが、アンケートでは様々なコメントが集まりました。ご興味のある方は、ぜひお問い合せください。

これまで4回にわたり、東京23区居住者を対象に実施した「MaaS受容性調査」の結果を紹介しながら、求められる都市型MaaSとは何かを考えてきました。東京23区は高い水準で公共交通手段が発達しており、交通系ICカードや乗り換え案内アプリなど便利なツールも充実していますが、「移動の快適性」にはまだ課題がありそうだということが分かりました。また自家用車への依存度が低いことから、自家用車以外の移動手段をスムーズに受け入れる素地がありそうだということも分かりました。このように地域の実情を理解し、生活者の目線に立って移動ニーズを考えることが、都市型MaaS実現の第一歩となりそうです。

イードは今後も生活者の目線からMaaSについて考え続け、より良いサービスが実現されるよう、みなさまのお手伝いをさせていただきたいと思います。

MaaSレポート販売のお知らせ

株式会社イードでは、生活者の視点から「必要とされているMaaSとは何か」を探るため、アンケート調査を企画・実施しました。初回となる今回の調査では、都市型MaaSをテーマに、東京23区在住者を対象としました。この調査結果をまとめたレポートを販売いたします。また、今後、地方型MaaS、観光型MaaSをテーマにした調査も行う予定です。

なお、本調査結果の一部は、第46回東京モーターショー2019で開催されたシンポジウム「CEATECリレーカンファレンス 生活者が求めるMaaSとは何か」(主催:一般社団法人 日本自動車工業会、共催:株式会社イード)で紹介いたしました(シンポジウムの模様)。

このレポートにご興味のある方は、以下のボタンから、弊社のWebサイト(iid.co.jp)で価格などの詳細をご確認の上、お問い合わせください。

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イードについて

株式会社イードは、日本最大級の自動車情報サイト「レスポンス」や、長年自動車業界の製品開発をサポートしてきたリサーチ事業、自動車業界のトレンドCASE・MaaSをテーマにキーマンが登壇するセミナーを多数企画・開催するイベント事業などを抱えており、自動車業界への複合的な知見を有しています。

これらの知見を活かし、来るべき新時代のモビリティについてみなさまと一緒に考え、より良いサービスの実現につながるようサポートいたします。