タブレット市場を読み解く(3) キャズムの乗り越え方

タブレットが直面している市場の深い溝(=キャズム)。この溝をはさむアーリーアダプターとアーリーマジョリティは、性質や志向が大きく異なっています。両者の特徴を見ながら、溝の乗り越え方を考えます。

  • U-Site編集部
  • 2015年10月14日

前回の記事では、タブレット型端末の市場は今「キャズム理論」で言うところの「深い溝=キャズム」に差し掛かっていることを見てきました。タブレットが市場のメインストリームに達するには、このキャズムを乗り越えなければいけません。今回は“アーリーアダプター”と“アーリーマジョリティ”の性質・志向の違いを具体的に見ていくことで、キャズムの乗り越え方について考えてみたいと思います。

前回記事:「タブレット市場を読み解く(2) タブレットの普及を阻む深い溝

【1】キャズム3

アーリーアダプターとアーリーマジョリティは情報感度が違う

アーリーアダプターとアーリーマジョリティの1つめの大きな違いは、新しい技術≒ハイテク製品に対する関心と理解度でしょう。「情報感度」と言って良いかもしれません。アーリーアダプターは自ら積極的に情報収集を行います。この層は、一旦タブレットに興味をもったら、まとめサイトや価格比較サイト、ITガジェット系サイトなどで進んで情報収集をし、理解を深めると考えられます。(そもそも普段からこういったサイトに慣れ親しんでいるため、自発的にタブレットに関心を持つ確率も高いと言えるでしょう。)まだ一般的な評価が定まっていない段階でも、自らが良いと判断した新製品は積極的に取り入れます。むしろ、一般的な市場より先んじてそれを取り入れることを好みます。

一方のアーリーマジョリティは、どちらかというと受け身なタイプであり、情報収集にもやや消極的です。例えタブレットに関心を持っても進んで情報収集する人はアーリーアダプターに比べて少なく、情報収集をしたとしても、アーリーアダプターのようにその情報をよく理解し、主体的に判断しようとする人はわずかだと考えられます。

以前イードで行ったタブレットに関する調査で、「タブレットに関心がある人(ただしタブレット非保有)」に「購入にあたっての懸念点」を聞いたことがあります。最も多かったのが「価格」に関する懸念でした。アーリーマジョリティは価格も重視するので、ある意味想定内の結果とも言えそうですが、具体的な金額ではなく「料金体系がよくわからない」という漠然とした不安を抱えている人が多くいました。また「月々の通信料/ランニングコスト」という回答も多く、Wi-Fiタイプを購入すれば月々の通信料はかからないということを知らない人も一定数いるようでした。

これらの人が的確な情報収集を行い、自主的に不安を解消する可能性は低いと考えられます。販売側が積極的にアプローチをしないと、漠然とした不安を抱えたまま、「何となく関心はあるけれど…」という状態に留まってしまい、購買につながらなくなってしまうのです。

つまり、アーリーアダプターと同じチャネル・同じ方法では、アーリーマジョリティにはリーチできないと考えられます。より積極的に、よりわかりやすくアプローチする必要があると言えるでしょう。アプローチの仕方の違いを理解し、的確に実行することが、キャズムを乗り越える一つのポイントとなりそうです。

【2】キャズムをはさむ層

アーリーマジョリティが求めるのは「進化」であり、「変革」ではない

次の大きな違いは、変化に対する柔軟性にあると言えるでしょう。アーリーアダプターは、新しいハイテク製品を取り入れることで自らの行動様式を変える必要があっても、特に抵抗を感じることはありません。むしろ、変わることにこそ可能性があるとポジティブにとらえている節があります。

一方アーリーマジョリティは、現在の行動様式を変えることにやや抵抗を覚えます。ムーア曰く、「彼ら(※アーリーマジョリティ)は、古いやり方と新しいやり方のあいだの不連続性をできるかぎり小さくしようとする。彼らが求めているのは進化であって、変革などではない。必要なのは、現行テクノロジーの変化であり、テクノロジーの世代交代ではない。」(『キャズムVer.2』、ジェフリー・ムーア、翔泳社)

タブレットはスマートフォンの進化版でもPCの進化版でもありません。スマホともPCとも違う性質を持つ、新しいカテゴリーの製品であると言えます。私たちはタブレットを使う際、スマホやPCを使うときとは異なる手順や行動をとることとなります。つまりタブレットは、私たちが慣れ親しんできた行動様式を変える(=変革を起こす)、「不連続なイノベーション」であると言えます。

アーリーマジョリティは別名「実利主義者」と呼ばれます。この層はこのように行動様式を変えるリスクを払った上で、また相応の価格を払った上で、それに見合った価値がタブレットにあるのか慎重に見極めようとします。

現段階では、「スマホとPCがあるのにさらに持つ必要があるのか?」等、タブレットを持つことのメリットを具体的に感じていない人も多いようです。アーリーマジョリティ層が、リスクとコストに見合うと思える具体的なメリットを見いだせるかどうかが、キャズムを越えるカギとなるでしょう。

【3】特徴

アーリーマジョリティは「クチコミ(先行事例)」を重視する

続いての違いは参考にする情報の違いです。アーリーアダプターはどちらかというとビジョン先行派であり、一次的な情報から主体的に判断しますが、アーリーマジョリティは先行事例(クチコミ)を重視し、市場の評価を慎重にうかがう傾向があります。

アーリーマジョリティが最も重視するのは同じアーリーマジョリティの評価ですが、そうなると「アーリーマジョリティを獲得するにはアーリーマジョリティの先行事例が必要」というジレンマに陥ってしまいます。これを突破するには何らかの工夫が必要となってきます。

1つは現ユーザーのアーリーアダプターに対して改めてタブレットの価値を訴求して、利用頻度と理解を促進することで、クチコミの質の更なるアップを目指すという方法です。元々アーリーアダプターは発信型の人が多いので、層は違えども、やはり影響力は大きいと言えるでしょう。

もう1つは、最初は利益度外視で浸透を進めたり、ターゲットを絞り込み、ニッチ市場を攻めることで一点突破を目指したりして、まずは一定数のアーリーマジョリティを獲得することを最優先課題とするという方法です。

いずれにしろ、キャズムを越えるにあたりクチコミの活性化は必須となってきます。「購入にあたっての懸念」として「価格」を挙げる人の割合が多かったのは、価格に対してシビアというだけでなく、「価格に見合った価値を得られるか分からない=タブレットから得られる価値を十分に理解できていない」人が多いという見方もできます。クチコミを通じてこの価値を理解してもらうことは、重要な項目であると言えるでしょう。

まとめ

今回はアーリーアダプターとアーリーマジョリティの性質・志向の違いに着目し、キャズムの乗り越え方について考えてみました。

  1. 自ら積極的に情報収集を行うアーリーアダプターに比べ、アーリーマジョリティはやや受け身な姿勢をもつ。アーリーマジョリティまで情報をリーチさせたい場合、より積極的に・よりわかりやすく訴える必要がある。
  2. アーリーアダプターが自らの行動様式を変えることにあまり抵抗がないのに対し、アーリーマジョリティは抵抗を感じる。まずここに壁があることを理解する必要がある。
  3. ビジョン先行型のアーリーアダプターに対し、アーリーマジョリティは「実利主義者」であり、商品/サービスのベネフィットが支払うコストに見合ったものであるかどうか、慎重に精査する。アーリーマジョリティがタブレットを持つことのメリットを具体的に感じられることがポイントとなる。
  4. アーリーマジョリティは先行事例(クチコミ)を何よりも重視する。クチコミ市場の活性化は最重要課題であると言える。

タブレットがキャズムを乗り越え市場のメインストリームに到達し、順調に普及が進んでいくのかどうか、今後の推移に注目していきたいと思います。

株式会社イード リサーチ事業部では、このようなセグメンテーションを応用した分析も行っております。
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