タブレット市場を読み解く(1) 利用率が高いのは意外な層
この数年、普及が進むタブレット。総務省が出しているデータを読み解くと、タブレット利用率が最も高いのは、意外な層であることがわかりました。また自主調査から、タブレット利用に関して、イメージと実態のギャップが浮き彫りになりました。
この数年、普及が進むタブレット型端末。この連載では、2回に分けてタブレット市場を読み解いていきたいと思います。今回は、総務省が実施している『通信利用動向調査』のデータと、イードが企画・実施した実態調査のデータを元に、考えていきます。
タブレット利用率が高いのは意外な層
総務省が毎年実施している『通信利用動向調査』のデータを見ると、まず目をひくのが、この数年のPC利用率の減少と、スマートフォン利用率の大幅な増加です。平成26年のデータでは、スマートフォン利用率(56.9%)よりまだ自宅PC利用率(64.6%)の方が高いものの、逆転するのは時間の問題と言えそうです。よく言われているように、今後、スマートフォンがインターネット接続のメインツールとなっていくことは、このデータからも明らかでしょう。
このようにインターネット接続環境が大きく変化する中、スマートフォンほどではないにしろ、徐々に利用率を伸ばしているのが「タブレット型端末」です。『通信利用動向調査』に「タブレット型端末」の項目が追加された平成23年と比べると、平成26年の利用率は3倍以上となっています(5.3%→17.9%)。
この利用率上昇の背景には、どのような事情があるのでしょうか。どのような層が、どういったニーズを持ち、この上昇を後押ししているのでしょうか。
ここに興味深いデータがあります。前出の『通信利用動向調査』のタブレット利用率を、年代別に集計したのが以下グラフです。
これを見ると、「6~12歳」が大幅に利用率を伸ばしており、今や3割以上の小学生がタブレットを使っていることが分かります。この背景には、「学習用タブレット」の普及が考えられます。通信教育での導入に加え、学校や塾での普及も進んでおり、今後も更に伸びることが予想されます(文部科学省では、「2020年度までに児童・生徒1人1台の情報端末整備」を目標に掲げています)。この層がタブレット市場を牽引する存在であることは間違いないでしょう。
ただし、学習用タブレットは通信教育事業者や学校・塾から付与・貸与されたり、機種を指定されたりするケースが大半です。つまり、「6~12歳」はあくまでタブレットに付帯したサービスの利用者であって、“タブレット端末”の実質的な購入者(選定者)は業者や行政です。こういった意味で、学習用タブレットは「B to B to C 市場」であり、タブレット市場を読み解く場合、「B to C 市場」とは分けて考える必要がありそうです。
「自宅でくつろぎながら」タブレットを使う人が多い
では、タブレットユーザーは、タブレットをどのように活用しているのでしょうか。
株式会社イードはタブレットに関する自主調査を実施し、タブレットの利用実態を調べました。
調査概要
- 調査期間
- 2015年7月21日~8月13日
- 方法
- Webアンケート調査
- 回答者
- タブレットを保有している、20代以上の男女
- 回収
- 性年代で均等になるように回収
- 集計
- 保有者の性年代構成比を、総務省「通信利用動向調査」の構成比にあわせるようウェイトバック集計
- 有効回答数
- 1,116サンプル
タブレット保有者にタブレットの利用用途を聞いたところ、最も多かったのが「自宅でインターネット検索やサイト閲覧をする」というもので、タブレット利用者の、実に8割弱がこのような使い方をしていることがわかりました。そこにはどのようなニーズがあるのでしょうか。
自由回答を見ると、以下のような意見がありました(以下抜粋)。
【1】PCより気軽にネット接続できる
- 部屋にいるとき、大きな画面で内容を確認したいけど、パソコンを立ち上げるほどでもないときに使う(33歳女性)
- タブレットはスマホ画面では見にくいけど、デスクトップPCだとめんどくさい時に使う。特にネット。寝転びながら使えるので便利(34歳女性)
【2】タブレットはゆっくりくつろいで、余暇のツールとして使う
- スマートフォンは常に持ち歩き、常に情報を得たり発信したりとタイムリーになくてはならない存在として使用しているが、タブレットは自宅での余暇に、自分の知りたいこと、見たいもの(イラストや動画など)を大きい画面で見たいときに使っている(23歳女性)
- 屋外に持ち出し電話をかけたりするのはスマホ。屋内でゆっくりネットサーフィン等するのはタブレット(29歳女性)
【3】外に持ち歩くのはスマホ、家ではタブレット
- タブレットは自宅で使用。スマホは移動中、移動先で使用(36歳女性)
- 自宅ではタブレットを利用している。持ち歩くのが面倒なので、自宅以外ではスマートフォンを利用している(35歳女性)
上記を整理すると、タブレットは「PCより気軽にネット接続ができ」、「メールや電話等、スマホのように即時的な情報受信はしないので、ゆっくり使える」、「場所の制約を受けないが、外に持ち出すのは面倒」という特徴があり、これが「家でくつろぎながらネットをする」という用途にフィットしていると言えそうです。この特徴を生かして、「ベッドでゴロゴロしながら」「リビングでくつろぎながら」「台所で」など思い思いの場所で、タブレットを利用している人が多いようです。
タブレット利用のイメージと実態のギャップ
一方、外出先や移動中に利用する人は、自宅ほど多くはありませんでした。これはどういうことでしょうか。
ここに注目すべきデータがあります。以下は、タブレット保有者に聞いた「タブレットでしていること」と、タブレット非保有者(ただし興味あり)に聞いた「タブレットでしたいこと」を比較したグラフです。
タブレットでしたいこと(=イメージ)としては、「自宅」での利用より、「外出先」「移動中」での利用の方が高い割合となっています。漠然と、『タブレットを買ったら、外で使ってみたい』と思う人が多いようです。しかし、タブレットでしていること(=実態)では、「外出先」「移動中」の利用率はイメージよりも低くなっています。
このギャップはなぜ生じているのでしょうか。
自由回答では、以下のような意見がありました(一部抜粋)。
- タブレットも本来は外出時の仕事用で購入したけど、スマホでメールも送受信&データも確認できるので、持ち歩くことがなくなった(34歳女性)
- タブレットは思っていたよりも重く持ち歩くのが難しいため、今は家で使用するのがメインの使用法となっている(35歳女性)
つまり、大きく分けて以下の2つの要因が、実際のタブレットの外での利用率を下げていると考えられます。
- タブレットが重くて、持ち歩くのが億劫。(Wi-Fiタイプの場合)外でのネット接続が面倒。
⇒ 利用時のハードルが、思いの外高かった - 大概のことはスマホで事足りる
⇒ タブレットである必然性(メリット)があまりなかった
そして、タブレットの特性をうまく生かした「自宅でのネット利用」にシフトしていったと考えられます。
30代サラリーマンにとって、タブレットは電車通勤の必需品?
利用用途をさらに性年代別で見ていくと、男性20代は、自宅・外出先・移動中と、あらゆる場所で「動画を見る」「SNSの閲覧や投稿」を積極的にしていることが分かりました。日常の隙間時間を、タブレットを活用することで上手く楽しんでいる様子がうかがえます。
一方、男性30代は半数以上が「移動中」に「インターネットサイト検索・サイト閲覧」を行っていることが分かりました。これは主に、ビジネスマンの通勤途中のニュースチェックや情報収集を指すと思われます。一昔前に新聞や雑誌が担っていた役割を、タブレットが果たしているとも解釈できそうです。
女性20~30代は、「自宅で動画を見る」率が高くなっていました。自由回答では「子ども(幼児)と一緒にYouTubeを見る」という回答も散見され、このような利用方法は“2人以上で画面を見られる”というタブレットの特性を活かした方法であると言えるでしょう。
なお「その他」の自由回答では、「電子書籍」と「ゲーム」が多くあがっていました。
Wi-Fiモデル vs セルラーモデル
保有しているタブレットのタイプをみると、最も多いのは「Wi-Fiモデル」で、7割を占めました。docomoやau、SoftBankと契約するセルラーモデルは2割程度。格安SIM業者(MVNO)と契約するSIMフリー版を使っているのは、7%でした。
どのタイプのタブレットを使っているかによっても、タブレットの活用傾向は異なります。
当然・・・と言うべきか、外出先や移動中での利用が多いのは「SIMフリー版」ユーザーと「セルラーモデル」ユーザーです。これらのユーザーは、当初から外での利用を具体的に想定していたため、あえて「Wi-Fiモデル」ではなく、これらのタイプを選んだとも考えられます。また「SIMフリー版」ユーザーが「セルラーモデル」ユーザーより活用度合が高いのは、「SIMフリー版」ユーザーのITリテラシーの高さによるものであるとも言えそうです。
一方「Wi-Fiモデル」ユーザーは、自宅での利用が主です。元々家での利用しか考えていなかったからWi-Fiモデルを選んだというケースと、前述したように、”元々外で使うことも考えていたが、持ち歩くには重いし、接続が面倒なので、結果的に外では使わなくなった”というケースの両方が考えられそうです。
まとめ
今回、タブレットをめぐる以下の状況が確認できました。
- 学習用タブレットの普及により、子ども(特に小学生)の利用率が急速にUPしている。政府の方針もあり、今後もさらに利用率は伸びると見込まれる。
- タブレットの利用方法で最も多いのが、「自宅でインターネット検索や、サイト閲覧」をすること。
タブレットは「PCより気軽にネット接続ができ」、「メールや電話等、スマホのように即時的な情報受信はしないので、ゆっくり使える」、「場所の制約を受けないが、外に持ち出すのは面倒」という特徴があり、これが「家でくつろぎながらネットをする」という用途にフィットしている。 - 購入前は「外出先・移動中でも使いたい」というイメージを持っているが、実際の外での利用率は自宅利用に比べると低い。「利用時のハードルが、思いの外高かった」「外でタブレットを使う必然性(メリット)をあまり感じない」という理由があると思われる。
それでは、今後もタブレットの普及は進むのでしょうか。次回は、「タブレットの普及を阻むもの」という視点から、タブレット市場の今後について考えていきたいと思います。
このほかにもイードのリサーチ事業本部では、さまざまな調査・分析を行っております。
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