天才肌の人とUCD

我々の生活が一応の利便性を獲得した現在、世の中は天賦の才能の所産に満ちており、どこを攻めるべきなのかが見えにくくなっている。そうした時代には、もっと歩留まりの高いアプローチが必要になるだろう。そして、それこそがUCDなのだ。

天賦の才と天才肌

世の中には天賦の才を持っているとみなすべき人もいるし、その気性をもって天才肌といわれるような人もいる。天才肌の人が必ずしも豊かな才能に恵まれているとは限らないのだが、ともかく彼らは自分流のやり方を取ろうとして、お仕着せの枠組みにはめ込まれることを嫌う。

まあ、それはそれでいいのかもしれない。そもそもUCDという概念が提唱される以前から、人類には幾多の天賦の才に恵まれた人が含まれており、それらの人達はUCDなどという枠組みにとらわれることなく新しい物を発明してきたからだ。自動車にしろ、飛行機にしろ、冷蔵庫にしろ、洗濯機にしろ、何にしろ、今われわれがその恩恵を被っているものの大半は、UCDから見れば前史時代に発明されたものである。彼らのなかには、頭がおかしいんじゃないかと思われていた人達もいたことだろう。それでも彼らは我流を押し通して成果を出してきた。

ただ、それは過去の話である。現在、つまり多様な人工物の開発によって我々の生活が一応の利便性を獲得した時点においては、世の中は天賦の才能の所産に満ちており、どこを攻めるべきなのかが見えにくくなっている。そうした時代には、もっと歩留まりの高いアプローチが必要になるだろう。そして、それこそがUCDなのだ、と僕はいいたい。

歩留まり向上の手段

ただ、ここで注意しておくべきことは、UCDは万能兵器ではない。歩留まりをあげるための手段にすぎない。歩留まりというのは確率である。だからUCDのアプローチを取ったから成功するとか、イノベーションが生み出されるなどという保証はどこにもない。UCDやHCDの提唱者の中には、それを誤解して、UCDやHCDを万能兵器のようにPRしようとしている人達もいるが、そのような取り組み方ではいずれ失敗するし、その反動としてUCDやHCDは見向きもされなくなってしまうかもしれない。それでは困る。

では証拠をみせろ、と言われるだろう。しかしながら確率の問題だから、そんな証拠を見せても説得できる訳はない。むしろ失敗の数の方が多いかもしれないし、そもそもUCDやUCDを取らなかった場合と、それを採用した場合とを比較するなどナンセンスだ。比較できるようなエビデンス、つまり同じ方向を目指し、一方のグループではUCDやHCDをとり、他方のグループではそれをとらなかった場合、というような実験的な計画法を適用しようとするのは無茶苦茶な話だ。

では、どうすればいいか。その答えとしては、UCDやHCDの考え方をきちんと説明するしかない。あとはその話を聞いたエンジニアやマネージャの感受性如何である。分かる人には分かる。分からない人には分からない。そういうものだ。そもそも単純なエビデンスを要求するような単純な頭には、UCDやHCDの意義が理解できるかどうか、実に怪しい。分かる人には、極端な話、証拠など見せなくても理解してもらえる筈だ。それが理解できないような人には、歩留まりは悪くても古典的な取り組みを続けてもらうしかない。それで万が一には成功事例がでるかもしれない。しかし、それも歩留まりの問題だ。古典的アプローチの成功率がゼロだなんていう保証はどこにもないからだ。

なんだか投げやりな言い方のように聞こえるかもしれないが、無理して背伸びをすれば必ず失敗する。UCDの取り組みは地道に続けていくしかないと思うのだ。

ただし…

ただ、天才肌の人にもユーザのことをもっと理解してもらえたらなあ、と思うことは多い。HCIの分野では、何人もそうした人達を知っているが、彼らの大半は「自分のこと」しか見ていない。だから提示されたアイデアを見ても、時にはなるほどと思うこともあるが、多くは、それはあなたの個人的趣味でしょう、としか思えないことが多い。

殆どの場合、彼らはそれに対する心底からの反省の気持ちがない。今度は駄目だったかもしれないけど、また頑張ればいいんだ、という訳だ。実にもったいない。これだけの頭のなかにユーザの情報がきちんと入れば、もっと高い確率でいいものを作り出すことができるだろうに、と思うのだ。

編集部注

黒須先生が中心になって編集された書籍、

の中で、国内外のHCD/UCDの事例がまとめられています。国内では、NEC、オムロンヘルスケア、富士通などのケースが紹介されています。

また、U-Siteでも、ヤフー東芝でHCDに取り組んでいる、HCD-Net認定人間中心設計専門家の方々へのインタビュー記事を公開しています。

公開:2016年2月9日
著者:黒須教授

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