デザインプロセスについて 2/4

ISO 9241-210:2019の大きな改変は、7.2から7.5の設計活動が、設計、という枠組みに含まれることを明確化する大きな枠に囲まれていることである。同時に、ISO 13407:1999では曖昧な位置づけにおかれていた企画や計画(Planning)が、活動を表す「人間中心設計プロセスの計画」という矩形で表現されたことである。

  • 黒須教授
  • 2020年1月14日

(「デザインプロセスについて 1/4」からのつづき)

デザインプロセスの標準化

PDCAサイクルは、前述のように、品質管理や経営管理の分野で用いられているが、PDSサイクルはシンプルであるだけに、より広い影響力をもっていた。ISO 13407:1999は、そうした考え方をデザイン(設計)に適用し、人間中心設計の枠組みとして提示した。そのプロセスモデルは、「人間中心設計活動の相互依存性」という名称にはなっているが、基本的にはPDSの考え方を設計場面に適用した設計プロセスモデルとみなすことができる。

ただ、このモデルでは、Pすなわち企画(計画)の位置づけが明確になっていなかった。「人間中心設計の必要性の特定」というのは企画(計画)とはいささか趣が異なる。そして最初の「利用の状況の把握と明示」ではいきなり具体的な活動に入ってしまっており、全体として企画(計画)の位置がよくわからない形になっていた。JIS Z8530:2000を出す前のSC4/WG6の国内委員会でも、「企画はどこに入っているんだ」という議論をした記憶がある。

最新版のISO 9241-210:2019では、このモデルは図のようになっている。基本的な4つの段階には変化がないが、それを「プロジェクトの開発プロセスにおける人間中心設計の活動」として、枠で囲ってしまったところに大きな変化がある。「人間中心設計プロセスの計画」は、「設計活動そのもの」と同等のレベルで図に含まれているわけだ。

すると、全体を通して、「人間中心設計プロセスの計画」がPlanに相当し、「利用状況の理解及び明示」、「ユーザ要求事項の明示」、「ユーザ要求事項に対応した設計解の作成」がDo、「ユーザ要求事項に対する設計の評価」がSeeに、それぞれ相当すると考えられる。改めて指摘しておくと、PDSとしての設計プロセスは、7.2から7.5までの4つの有名な活動に限られるものではなく、6の計画をも含んだものであることに注意することが必要である。

ISOの設計プロセスモデルをPDCAと対応づけてみるとどうだろう。PとDはすでに述べたとおりだが、Cは評価、つまり7.5の活動に対応する。では、Aはどうなるかというと、7.5から7.4に戻るフィードバックループで7.4を「やり直すこと」を強調したもの、と考えられる。このように見ればPDCAとの対応をとることができる。

ISOのプロセスモデルをPDSやPDCAのプロセスモデルの側から見ると、それは品質管理や経営管理だけでなく、設計管理にも適用することができることを意味している。また、本節の内容を要約すれば、ISOのプロセスモデルは設計プロセスのモデルであり、開発プロセス全体を示したものではない。開発プロセスは、「設計解がユーザ要求事項を満たす」という楕円以降の活動も含むことになるからだ。

プロセス図の改定

人間中心設計のプロセス図(人間中心設計の活動の相互依存性)は図のように改定された。

図
ISO 9241-210:2019における人間中心設計のプロセス図(人間中心設計の活動の相互関連性)

「ユーザ要求事項に対する設計の評価」から伸びる矢印

ISO 13407:1999の図(本稿では省略)との大きな違いの一つは、7.5の「ユーザ要求事項に対する設計の評価」からの矢印が、7.2の「利用状況の理解及び明示」だけでなく、7.3の「ユーザ要求事項の明示」や7.4の「ユーザ要求事項に対応した設計解の作成」にも行っていることである。これはISO 9241-210:2010から取り入れられたものだが、「相互関連性」というニュアンスを明確にするためと思われる。

しかし、矢印の意味合いはそれぞれ異なっている。まず、7.5から7.2への矢印は、このプロセスを全体的に反復することで次のバージョンを設計したりすることを意味していると考えられる。しかし、7.5から7.3への矢印は、若干意味不明である。7.5でユーザ要求事項に対する評価をした後に、7.3のユーザ要求事項を明示する活動に戻るというのは、ユーザ要求事項の定義が不十分だったり不適切だったりした場合と考えられるが、そのようなことは本来あってはならないことだし、実際にも発生頻度は低いと思われる。最後に、7.5から7.4への矢印は、設計を評価して問題があれば設計解を作成しなおすということで、通常の形成的評価(formative evaluation)の反復ループに相当する。これは、以前は図示されていなくても含意されていたもので、それが顕在化したものといえる。

このように、矢印の意味合いはそれぞれに異なっているが、それらが実線でなく破線になっている意味はよく分からない。おそらくはオプショナルなものである、という意味なのだろう。それよりも「活動の相互関連性」という点からすれば、矢印で一方向的に示されてしまっている前後する活動が相互に関連しあい、必要ならちょっと前の活動に戻るということを意味していると考えるべきであり、そのことは7.5から7.4の矢印にしか明示されていない。このあたりは図の描き方としての適切さが問われる点といえるだろう。

成果物の明示

図がISO 9241-210:2010と比べて異なっている点は、さらに7.2から7.5の活動に至る矢印にそれぞれの前段階で作成される成果物が明示されていることである。これによって7.2の出力としてペルソナやシナリオが含まれていることが明らかとなった。しかし、それに比して7.3の出力はいささか書類を整備するというニュアンスが強く、その存在意義が明確ではない。むしろのデザイン思考の「考える(Ideate)」のような活動が明示されるべきだったのではないかと思われる。

また、7.5の出力としてフィールドレポートやユーザ調査報告書が含まれていることからは、旧バージョンないしはプロトタイプを実ユーザに実環境で評価してもらった結果を利用するということで、UXを設計サイクルに反映しようという意図が感じられる。ただ、そうしたUXに関するユーザ調査はユーザビリティの「評価」とは異なるので、外部からの矢印として表示されるべきだったろう。

人間中心設計の「プロセスの計画」と「活動」

もう一つの大きな改変は、7.2から7.5の設計活動が、設計、という枠組みに含まれることを明確化する大きな枠に囲まれていることである。同時に、ISO 13407:1999では「人間中心設計の必要性の特定」という楕円によって、曖昧な位置づけにおかれていた企画や計画(Planning)が、活動を表す「人間中心設計プロセスの計画」という矩形で表現されたことである。明確ではないが、この図では活動は矩形で表すようになっているようで、6の「人間中心設計プロセスの計画」と7の「プロジェクトの開発プロセスにおける人間中心設計の活動」とは、同じレベルで対応する計画と活動という形になっている(数字は本文の箇条を表している)。

そしてISO 13407:1999以来有名な4つの活動は、それぞれ7.2から7.5までの番号をつけられ、7のなかに含まれる活動という位置づけになっている。このことは、設計(デザイン)における計画(企画)と実活動との関連性を明示している点で重要である。しばしば人間中心設計のプロセスとして、4つの活動が強調されすぎてしまう傾向があるが、ちゃんと計画(企画)のことも含まれているということを忘れてはならない。