モバイルユーザーエクスペリエンス:制約と長所

モバイル機器であるスマートフォンには、小さな画面や短いセッション、一度に見られるウィンドウが1つだけ、一定でない接続環境、といったもともとの制約がある。しかし、そうした特徴の中にはスマートフォンでしかできないことを与えることもある。モバイルデザインの原則は、こうした制約や長所を反映したものである。

モバイル機器によって、我々の暮らし方や日々の活動の仕方が変わってきている。モバイル機器によりほぼすべての種類のコンテンツにアクセスできるようになっただけでなく、今や、たいていのスマートフォンでは小切手の預金をはじめ、クレジットカードの利用、料理の注文、食料品の支払い、デジタル文書への署名、さらには家の鍵をかけることすら可能になったからである。こうしたタスクの中には、スマートフォンというこの新しいテクノロジーの存在のおかげで前より容易になったものもある。

モバイル調査プロジェクト

我々は過去7年間にわたって継続的に、モバイルユーザビリティについての自主的なプロジェクトを実行してきた。それには、繰り返し実施してきたさまざまなモバイルWebサイトとアプリについてのユーザーテストが含まれている。全部で151人の参加者がこのプロジェクトに参加した。彼らのほとんどはアメリカ在住の参加者であるが、オーストラリアや香港、オランダ、ルーマニア、イギリスでも我々はセッションを実施した。こうした調査のすべてにおいて、参加者は自分自身の携帯電話をラボに持参した。

初回の調査にはすべての種類の携帯電話(タッチスクリーン式スマートフォンから、非タッチ式のスマートフォン、フィーチャーフォン)が含まれていたが、最近の調査ではタッチ式のスマートフォンのみを取り上げ、現時点の市場への浸透度を反映させている。また、最新の調査ではファブレット (5.3インチ以上の画面を持つタッチスクリーン式のスマートフォン)のみを取り上げた。必要に応じて参加者には彼らのスマホにインストールしてあるアプリを見せてもらい、その後、モバイルアプリかWebのどちらかを利用して達成するタスクをおこなってもらった。

ユーザーテスト以外にも、ダイアリー調査やエキスパートレビューのような調査手法も利用した。また、クライアントのプロジェクトの一環として、我々は多種多様なモバイルサイトやアプリのテストもおこなってきている。とはいえ、こうした調査の具体的な結果を発表することは不可能だ。したがって、こうした社外秘の調査については、我々が公表可能な調査にインスピレーションを与え、エッセンスとするために利用している。

ここで論じているモバイルの調査はタブレットのユーザーエクスペリエンスの調査とは別のものである。いくつか類似点があるとはいえ(たとえば、手持ちサイズのタッチスクリーン機器である等)、タブレットとスマホの使い方はやや違なり、インタラクションデザインの制約にも若干の違いがある。その結果、この2種類の機器をデザインするためのユーザビリティガイドラインは異なるものとなる。

モバイルの制約と長所

スマートフォンには長所があるが、制約もある。こうした長所や制約は良いモバイルユーザーエクスペリエンスの中にも見受けられる。

小さな画面

スマホ画面の大型化が最近のトレンドではあるが、スマートフォンが便利で携帯しやすいのはサイズが小さいからである。デスクトップ、また、ノートブックの画面との比較でさえ、スマホの画面に収まるコンテンツは相当に少ない。その結果、画面のサイズはモバイル機器にとって重大な制約となる。30インチ画面のファーストビューに表示するのに必要なコンテンツは小さな4インチ画面5個分にあたる。したがって、モバイルユーザーは、(1)同じ量の情報にアクセスしようとするには高いインタラクションコストを負担しなければならないし、(2)画面に表示されていない情報を参照するために短期記憶に頼らなければならない。その結果として、モバイルのコンテンツが2倍難しいのは当然のことといえるだろう。

新しいデザイン要素や新しいコンテンツをモバイルの画面に入れようとすれば、なにか別のものが外されることになる(あるいはファーストビューより下に行くことになる)。新規要素は1つ1つ機会費用を慎重に考えよう。たとえば、要素Aを入れるために要素Bを外すことは、ユーザーにとってどういうことを意味するのか。そして、要素Aは要素Bより重要だろうか、等。コンテンツと機能の優先順位が鍵である。我々はこのレポートで一般的なガイドラインを提供する。しかし、あなたがたにとっての答えはあなたがたのユーザーとタスクの種類に左右されることになる。

クロームとはサイトやアプリケーションの利用に役立つユーザーインタフェース要素のことをさす。ユーザーがサイトにやってくるのは、必要とする情報を探すためか、タスクを達成するためであって、ボタンやナビゲーション、メニュー等のデザイン要素の美しさを眺めるためではない。(モバイルであれデスクトップであれ)コンテンツは常にデザイナーの関心の対象である。しかし、デスクトップには十分な画面スペースがあるので、コンテンツとクロームが共存することができる一方、モバイルでは、最重要なコンテンツのためのスペースを確保するため、デザイナーがクロームを軽視せざるを得ないことが多い。

これは、クロームをモバイルでは非表示にすべきだ、ということではない。実際のところ、クローム抜きでユーザブルなインタフェースを作り出すことは難しい。しかしながら、デザイナーはモバイルの画面では高いコンテンツ対クロームを確保する必要があるだろう。

持ち運び可能=割り込み可能

スマートフォンは持ち運びができる。たいていポケットやバッグに容易に収まるので、どこへでも持っていけることが多いのである。スマホはさまざまな状況やシチュエーションで利用されるので、利用中に邪魔が入る可能性が高くなる。というのも我々は屋外における外部事象には対応せざるを得ないので、その小さな画面上でおこなっていたことが何であれ、中断しなければならないことがあるからである。その結果、モバイルにおける注意力というのは断片的なものになりモバイル機器でのセッションは短くなる。実際、モバイルでの平均セッション時間は72秒である。それに対し、デスクトップでの平均セッション時間は150秒と2倍以上であることが我々の実施した調査からは明らかになっている。

モバイルでのセッションが短いということは、割り込まれてもいいようなデザインをしなければならないということだ。つまり、ユーザーのために状態を保存し、ユーザーが自分で状態を保存できるようにしておくとよい。

デザイナーはコンテキストを保存しておき、ユーザーが容易にコンテキストを復元し、割り込まれたタスクを再開できるようにしておくべきである。モバイルのアプリやWebサイトは常に状態を保存して、そうした割り込みに対応できるように準備しておく必要がある。また、中断したアプリやWebサイトにできるだけスムーズに戻れるようにもしておくべきだ。そうすれば、ユーザーは中断前にすでに終わっていた作業をやり直さなくても済む。

さらに、モバイルでは、ユーザーの決断は常に最終のものであるとは限らないので、彼らは広範囲の帯域幅あるいは画面に関連する特定のコンテンツに戻りたがる可能性もある。ユーザーが履歴を保存できるようにし、情報を自分や他者にEメールしたり、参照や共有もできるようにしておこう。また、彼らが他のプラットフォーム上にあるデータにも戻ることができるようにして、モバイル上で実行しそうなあらゆる行動に彼らがアクセスできるようにしておこう。

しかし、割り込まれてもいいようにデザインするというのは状態を保存するということだけではない。重要なものを優先し、タスクやインタラクションをシンプルにするということでもある。ユーザーの注意力は分断されているので、できるだけ早くユーザーが必要としているものを彼らに示せるように努力しよう。あふれるほどの詳細情報を見せ、立ちはだかるテキストの壁を見通し、自分に関係するファクトを探させるというのは、割り込まれる場合があることを考えると親切ではないからだ。要点は詳細情報より常に優先されるべきである。タスクがシンプルならすぐに終わる。また、そうしたタスクはステップや選択肢が多いものより再開も容易である。

シングルウィンドウ

スマホメーカーの中には同時に複数のウィンドウを表示できるようにしようと取り組んでいるところもある。しかし、モバイルの画面サイズには制限があることから考えると、最近のスマホ画面が大きくなってきたとはいえ、そうした目標はあまり現実的ではない。圧倒的多数のユーザーが見ているのは一度に1つのウィンドウのみ(したがって、1つのアプリケーションあるいはWebサイトのみ)である。つまり、彼らは(デスクトップ上でのように)画面を分割したり、2つのアプリを同時に利用したりして作業することは不可能なのである。

シングルウィンドウによる制約とは、デザインが自己完結していなければならないということだ。つまり、どんなモバイルのタスクであれ、1つのアプリあるいはWebサイトだけで容易に達成できるようになっているべきということである。そのアプリ(やWebサイト)で要求されているのにもかかわらず、提供されてない情報を探しに、ユーザーがアプリを離れる必要はない。手元に持っていたとしても、出先では紙とペンは利用しにくいことも多いということを覚えておこう。ユーザーがアプリ間で情報を移動させなければならなくなると、彼ら自身で情報をコピー&ペーストする(あるいはさらにひどい場合には、彼らの記憶に頼って、彼らの認知負荷を増加させる)ことが必要になる可能性もある。つまり、インタラクションがより複雑になり、エラーが起こりやすくなってしまう。アプリやWebサイトはそれ自体で自己完結しているべきで、物理的なものであれ、バーチャルなものであれ、外部からのサポートは必要とすべきではない。

タッチスクリーン

タッチスクリーンにはいろいろ素晴らしい点もあれば、困る点もある。ジェスチャーは正しいアフォーダンスを持つように構築されれば、非表示の別のユーザーインターフェース(UI)の代わりとなり、インタラクションをなめらかかつ効率的にし、画面上のスペースの節約もしてくれる。しかし、同時に、記憶しやすさと発見しやすさは低下する。一方、小さなソフトウェアキーボードではうまく入力するのは難しく、間違ったターゲットにうっかりタッチしてしまいやすい。

最大の問題は入力に関するものだろう。つまり、ソフトウェアキーボードでは、ユーザーは入力中の内容とキーパッドエリアに絶えず注意を分散しなければならない。タッチ入力では触覚によるフィードバックを得ることが不可能である上、キーパッド自体も小さく、キー同士も密集しているからである。

他にも、タッチ式とマウスなどの他のインプット方式との違いとして、ターゲットへの到達時間を最適化し、エラーを最小限にしようとすると、タッチ用のターゲットはマウス向けのものに比べるとかなりサイズが大きくなる、というのもある。つまり、画面がノートブックやデスクトップより小さいだけでなく、ボタン等のターゲットは通常のモニター上に置かれるものよりも大きくしなければならないのである。

タッチスクリーンではターゲットエリアが多数ある場合もあり、誤タッチが起こりやすくなる(ただし、場合によっては、どちらに向かっているか、何が起きたかについて、ユーザーをわからない状態のままにしておいてよいこともあるが)。取り消し(アンドゥ)は最初の10のユーザビリティのヒューリスティックの1つであるが、タッチデバイスではそれはさらにいっそう重要だということである。

さまざまな接続環境

高速の携帯ネットワークとユビキタスWi-Fiの時代にあっても、世界中がサービスエリアに入っているわけではないし、通信品質もどこでも同じというわけではない。携帯電話ユーザーは接続に関する問題について頻繁に不満を述べている。ネットワークとの連携が悪いと、新しいページをロードするたびに膨大な待機時間が生じることになるからである。

自分たちのモバイルサイトあるいはアプリ内でユーザーにタスクを達成してほしいのなら、待機時間には気を使おう。ページは軽くなるようにデザインしなければならないが、可能な限り多くの情報を入れるようにし、クライアントとサーバー間を何回も行ったり来たり移動しないですむようにするとよい。ステップは最小限に抑え、最終的にはロードするページ数が最小限になることを目指そう。

GPSやカメラ、加速度計、ボイス等のスマホ機能

スマホには制約がいろいろとあるが、独自の機能も多数あり、その中にはアプリでしか利用できないものもあれば、Webサイトからアクセス可能なものもある。スマホには便利なようにカメラやマイク、GPSが組み込まれているので、入力が容易になり、入力に関する問題のうちの幾つかは回避されるだろう。テキストでは捉えづらいことも多い微妙な差異も、写真では伝えることが可能だ(今、目の前にある製品をどう説明するかを考えてみるとよい)。通知のおかげでユーザーは自分たちに関係するイベントの最新の情報を即、得られるようになった。Touch IDによって、ユーザーはパスワードを打ち込まなくても、指紋を利用してログインできるようになっている。そして、Apple PayやGoogle Walletによって、クレジットカードの情報を入力することなく、自分のスマホを利用し、ユーザーは実生活あるいはオンラインでの支払いができるようになった。

スマホにカメラが付いていれば、ユーザーにバーコードを打ち込むようにお願いしなくてもいいし、GPS機能付きなら、郵便番号を入力させずにすむ。こうしたスマホの機能は可能な限りたくさん利用して、ユーザーの作業を減らそう。

調査の最新レポート

モバイルユーザーエクスペリエンス」に関する新レポートにはモバイルユーザビリティについての我々の調査結果が多数収録されている。最新のこの第3版はまったく新しい全面改訂版である。ガイドラインの多くは現在のモバイルのパターンやインタラクションを反映したものだが、従来からのガイドラインで引き続き残されたものについても、新しい事例によって刷新が行われている。

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調査レポート(英文)

公開:2015年5月18日(原文:2015年4月19日)
著者:Raluca Budiu
原文:Mobile User Experience: Limitations and Strengths

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