物理的所在地を探すユーザの補助

親会社のWebサイトにある情報にもとづいて、ユーザに、近所の小売店、事務所、代理店、その他の事業所を探してもらったところ、成功したユーザはわずか63%しかいなかった。平均すると、今回調査対象とした10サイトは、私たちが策定した所在地検索デザインに関する21のユーザビリティガイドラインのうち、半数未満にしか適合していない。

インターネットはバーチャルかもしれないが、顧客が生活しているのは物理的空間であり、しばしば実世界の企業を訪問する必要に迫られる。このため、ビジネスの成否は、顧客が事業者の所在地を見つけ、たどり着けるかどうかで簡単に決まってしまう。

企業の所在地、すなわち支店、小売店、事務所、代理店、その他の事業所、例えばATM、荷物引渡し所、さらにはeコマースサイトの返品受付施設といった場所を探すユーザを補助する上で、ウェブサイトの果たす役割は大きい。物理的場所でのやり取りが必要になったら、企業のウェブサイトを利用して、求められるサービスを提供できる事業所のうち、もっとも便利なところを見つけられるようにしておくべきだ。

ウェブでの所在地検索のユーザビリティを査定するにあたって、私たちは大手企業10社のウェブサイトを対象にユーザビリティ調査を実施した。対象となったのは、Andersen(旧Arthur Andersen)、American Automobile Association(AAA)、Bank of America、BMW、Caterpillar、Charles Schwab & Co.、The Dow Chemical Company、Toys R Us、Verizon、それにWells Fargoの10社である。

最終結果:10サイトを平均すると、ユーザが首尾よく適切な所在地情報を見つけられた確率は63%であった。

私たちが行った他のウェブデザインユーザビリティ調査に比べると、平均成功率63%というのは、かなり高い数字だ。例えば、この間のeコマースウェブサイトでのショッピング調査では成功率は56%だったし、プロのジャーナリストがPR情報を探す場合の成功率は60%だった。もっと複雑なウェブアプリケーションとか大規模なイントラネットを対象にした調査だと、成功率は50%を下回るのが普通だ。

よって、ある面から見れば、成功率63%という結果は、私たちの行ったウェブユーザビリティ調査のうちでも最高の部類に入るという見方ができる。だが一方で、成功率63%ということは、失敗率37%ということでもある。これは、見逃せない数の顧客だ。小売店や事務所、代理店が見つけられないという理由で、これだけの顧客を逃しているわけだ。

1ストライク、バッターアウト

適切な所在地情報を探そうとウェブサイトにアクセスしてきたユーザには、3つの試練が待ち受けている。所在地検索を見つけ、これを操作し、最適な場所を見つけてそこへの道順を知る、の3つである。残念ながら、この試練のうちひとつでも失敗すれば、所在地情報にはたどり着けない

オンライン販売を行っているサイトでは、特に所在地情報が見つけにくかった。なぜなら、オンラインストアでは、物理的店舗を表現するのに用いられる自然なボキャブラリーを、素直に使わないことが多いからである。クリック&モルタルのデザインでは、モルタル版を見つけにくいことが多かった。

今回の調査では、Toys R Us の成績がひどかった。www.toysrus.comが、www.amazon.comとの共同ブランドとなっていたからである。Amazonは大筋では非常に優れたサイトなのだが、Toys R Usのエリアはかなりeコマース寄りのつくりになっていたため、今回のユーザの大多数は、物理的店舗へのリンクをまったく見つけられなかった。このリンクは、トップから数えて5画面目(標準的な家庭ユーザの画面サイズ800×600ピクセルでの換算)に埋もれていて、しかも「Toys R Us について(Learn more about Toys R Us, Inc.,)」というあいまいなラベルしかついていなかった。「お近くのToys R Us店舗をお探しの方(Locate the Toys R Us store nearest you.)」というような、わかりやすいラベルにはなっていなかったわけだ。

ベストの所在地検索: Charles Schwab

勝者を決定するための比較分析を行ったわけではないが、所在地検索のデザインで特に抜きん出たユーザビリティを示したサイトがひとつあった。大手証券会社 Charles Schwab & Co.のサイトがそれである。このサイトの所在地検索デザインは、以下の3つのキーエリアで成功を収めている。

  • ホームページから所在地検索に簡単にたどり着ける:「支店にお越しの方(Visit a branch)」というリンクをたどるだけでいい。
  • 所在地検索ツールが、単純検索のような仕組みになっていて使いやすい。また、住所入力がオプションになっているため、プライバシーを気にするユーザへの配慮も行き届いている。
  • 広域マップをうまく利用しているだけでなく、詳細マップや道案内も提供している。

Schwabは、私たちが策定した所在地検索デザインのための21のユーザビリティガイドラインに対して、適合率75%という成績を収めた。ウェブサイトの適合率がこれほどのレベルに達することはまずない。確立したユーザビリティガイドラインの半分も満たせないのが普通だ。事実、今回の調査対象となった10事例で見ると、ガイドライン適合率の平均は49%だった。中でも最低だったのがBMWで、その適合率は23%という惨憺たる結果。しかもテストでの成功率は0%だった。

今回のユーザテストでは、Schwabは、成功率100%という成績を収めた。だが、だからといってこのサイトが完璧だったということではない。事実、いくつかのユーザビリティガイドラインには従っていなかった。ただ、それがテストタスクを達成する上で、ユーザの障害にならなかったというだけなのだ。例えば、Schwabの所在地検索機能で探せるのはアメリカの支店だけで、海外の支店を探すためのリンクは設けられていない。この調査ではアメリカのユーザだけでテストしたため、このユーザビリティ問題が表面化しなかった。海外の顧客は不運だ。ヨーロッパのオフィスを探そうと思ったら、まずSchwabのヨーロッパ版ページに行って、あまり目立たない「サービス拠点(Service Channnels)」というリンクを探さねばならない。

詳細情報: 21のデザインガイドライン

私たちは、66ページからなるユーザビリティ調査レポートを出版した。この中には、所在地検索を改善するための21のデザインガイドラインとあわせて、うまくいったデザイン、ダメだったデザインについて、実際のくわしい事例が収められている。

ガイドライン適合度と所在地検索成功率とを回帰分析にかけてみると、ガイドラインにひとつ適合するごとに、ユーザの成功率は平均して7%向上することがわかった。店舗への来客数が7%増加することでどれだけの経済的利益があるかを考えれば、所在地検索を改善するためのわずかなコストを正当化するくらい、たいした苦労ではないだろう。

2001年7月8日