DVDメニューデザイン:
Webデザインの過ちが再び
DVDのデザイナーは、先行メディアでの教訓を有効に活用していない。コンピュータソフトウェア、インターネットのWebページはおろか、WAP端末からでさえ、何も学んでいないのだ。この結果、DVDのメニュー構造はますます複雑怪奇になり、より使いにくく、より不快で、より非効果的になっている。そろそろDVDのデザインも、Webデザインと同じように真面目に考え直すべき頃合だ。この分野では、ユーザーエクスペリエンス(UX)についての素養や配慮とともに、操作用部品や表示フォーマットの標準化が求められている。
※Nielsen Norman Groupのプリンシパル、Donald A. Norman博士によるゲストコラム
DVDの世界へようこそ。DVDムービーメディアがどんなものなのか、誰もよくは知らない。わかっているのは、それがハイパーテキストとメニュー、それにカーソルをサポートしており、ポイントしてクリックできるということだ。DVDの最初のムービーはよくできていた。その原因の一端は、このメディアがまだデザイナーの目にとまっていなかったことにある。おかげで複雑にならずにすんでいたのだ。だが、今ではこのメディアは、ともかくもヴィジュアルデザイナーたちに認知されてしまった。いよいよ、過去の恐怖が繰り返されることになってしまったのだ。新しいメディアが登場するたびに、日常ユーザは、過去のメディアの最悪の罪を耐え忍ぶことを強要されるようだ。
Mementoはすばらしい映画だ。Webサイトのようなプレゼンテーションになっていて、あちこちに隠し言葉やハイパージャンプが埋め込まれているのだが、これがじれったいほどぼんやりしたイメージにリンクしていて、それが画面上を動き回るのだ。理論上、これは洗練されたハイパーテキストと言える。ストーリーの細部をノンリニアに探索していく手法は、映画での時間のゆがみを模したものだ。だが、実際の処理は、理屈ほどうまくいっていない。第一に、この映画は実際にはリニアなので、それを補強するはずのテキストが逆に足を引っ張っている。担当デザイナーは、同じDVDディスクに収録されている監督のインタビューを聞かなかったのだろうか?そう、この映画は時間を再構築している。リニアに、しかも逆順に(そう、だいたいのところは)。インタビューの中で、監督は念入りにこうも指摘している。どのセクションを削っても、並び替えても、全体が崩れてしまう、と。言い換えると、(監督の発言とは違って)この映画の構造は固定されている。発言と作品の不一致は気にならないという人であっても、さらに深刻な問題がある。DVDでは、ハイパーテキストはまったくうまくいかないのだ。デスクトップPCと違って、DVDは遅い。ディスク上の他のセクションを検索するのに時間がかかるのだ。それも秒単位で測れるくらいに。最初のうちは気の利いたサイトに驚嘆していた視聴者も、たいして時間の経たないうちに、すっかり興ざめしてしまう。「ずっとこの調子でつきあわされるの?」辛抱強くテキストを探索する私に、家族の者がこう尋ねた。「いいや」と答え、私はほっとした気持ちでメインメニューに戻った。
DVDのメニューをみてみよう。昔はシンプルだった。だが、DVDの人気が高まるにつれて、ヴィジュアルデザイナーが主導権を握るようになった。今では派手で、動きがあって、複雑なメニューになっている。さらに、メニューへの出入りがかなりこった作りになっていて、新しいセクションを検索するのは1秒で済むのに、それに作品から抜き出した数秒間のムービーやアニメーションがくっついていて、音響とともに再生されるようになっている。まるで、遅いほどいい、というルールでもあるかのようだが、これはユーザ体験の基本原則にまったく反している。そう、確かに遅くてもいい場合はある。確かに導入部や場面転換のシーンはおもしろい。だが、それも最初の一度だけ。繰り返しは通用しない。初めはおもしろい。二度目もOKだ。だが、それ以降はわずらわしいだけ。我慢大会にしかならない。
メニューそのものも、標準化がなされていないために、非常にできが悪い。DVDの中には、視聴者がリモコンの方向キーを使って、カーソルを画面上のスポットに動かさなくてはならないものがある。「選択」キー(リモコンの種類によって呼び名は異なる)を押して、初めて実際の動きが行われる。だが、DVDの中には、アイテム上にカーソルが移動しただけで動作してしまうものがある。ほとんどのDVDには一貫性がない。あるセクションではこう動いていたものが、別のセクションではそうなっていない。デザイナーには、ウィンドウモデルもまだよくわかっていないようだ。このため、リモコンのジョイスティック(あるいは矢印キー)を上に押すとカーソルが上に移動する場合もあれば、下に行く場合もある。場面選択メニューで次のコンテンツページへ移動するにも、左矢印だったり、右矢印だったり、時には専用の「next」というアイテムを用いる場合もある。
この分野には、他のメディアから学ぶべきことがある。だが、それを応用するにあたっては、一段階落として考えるべきだ。
- 重要な状態ははっきりと。オーディオ、ビデオ、言語、字幕の設定は、メインメニューに並べられるはずだ。これなら、ユーザは、自分が希望する状態になっているか確かめるだけのために、何枚もページをめくって見なくてすむ(ということは、確認しないでムービーを再生して、初めて設定が間違っているのに気付くということもなくなる)。
- 遷移をスピードアップする。すばやい反応は、ユーザ体験を向上させる。不必要なアニメーションは、二度目以降は、気が散るだけだ。遷移に動きをつけたければ、カウンターを用意して一回目だけ表示し、それ以降は表示しないようにしておこう(DVDの規格では、カウンターや計算などに用いるための一般的変数が、RAM上に16個用意されている)。
- フィードバックを増やすことで、何が選択され、何が起こっているかをもっとよくユーザに伝えよう。新しいページが期待したものでなかった場合、取り消し(前のスポットに戻る)をしやすくしておくこと。
- 業界標準を策定して、選択やカーソルの移動を統一すること。おそらく、ユーザ体験における他のパートに関しても統一が必要だろう。デザイン上のこれらの部分は、度を過ぎた創造活動のための場ではない。創造力は、別の方法、別の場所で発揮できるはずだ。
- ユーザテストにかけて、結果を確かめる。平均的視聴者に簡単な操作をしてもらう。興味のある場面を見つけたり、DVDの設定を変更したりといった操作がこれにあたる。
- もっとたくさん情報を提供する。どうして、スペシャルメニューの各アイテムに、上映時間と簡単な内容説明を表示しておかないのだろうか?現状では、暗号のようなタイトルが並んでいることが多く、何かを伝えることよりも、気の利いた風を装う方に重点が置かれている。書籍の作者たちが学んだことを実行しよう。気の利いたタイトル、それにわかりやすいサブタイトルをつけるのだ(例:「The Invisible Computer: Why good products can fail, the PC is so complex, and information appliances are the answer — 見えないコンピュータ: よい製品でもうまくいくとはかぎらないし、パソコンは複雑、情報家電こそがその答えだという理由」)
2001年12月9日