冗長性の削減:
デザイン上の判断における二度手間を減らす
ある機能やハイパーテキストリンクが複数の形で提示されると、ユーザインタフェース(UI)は複雑になる。どちらでも同じことだとわかってくれるユーザはめったにいないから、同じ手間を繰り返したり、誤って同じページに2度訪問したりして、時間を浪費してしまうことが多い。
この上の記事タイトル自体が、完璧な実例である。このタイトルは同じことを 2 度繰り返している。これは長すぎるだけではなく、もっとシンプルな見出し、例えば、同じことを二度するなのような見出しに比べると読みにくくもある。この種の実例はこれにとどまらない。残念ながら、この問題はもっと幅広く見受けられるのだ。
例えば、Microsoft Word を見てみよう。数え切れないほどある機能のなかには、脚注と巻末注の機能が両方とも揃っている。さらに、脚注はページ最下部にも、「テキストの下」(それが何を意味するにせよ)にも配置できるし、巻末注はセクションの末尾にも、文書の末尾にも配置できる。脚注を巻末注に、巻末注を脚注に変換する機能までついている。
脚注・巻末注の機能が役に立つ書き手もいるだろうが、そのおかげでシンプルな脚注機能が複雑化してしまっている。現状では、脚注を入れるためにややこしいダイアログボックスに向き合わなくてはならない。そこには 2 つのラジオボタンと、5 つのプルダウンメニュー、ひとつのテキスト入力フィールド、ひとつのカウンター、それにさらなるダイアログボックスを呼び出すためのボタンが 2 つ備わっている。幸い、Microsoft は重要なユーザビリティガイドラインには従っている。ダイアログ・ボックスの全要素には、適切なデフォルトが用いられているから、ダイアログを無視してエンターキーを押しても差し支えない。これで通常の脚注がつけられる。16 年前のあの懐かしい Word 1.05 と同じように。
残念ながら、ここまで選択肢が複雑だと、怖気づいてしまうユーザが多い。よくあることだが、新たな機能を追加すると、古い機能がより難しくなり、間違いやすくなるものだ。
シンプリシティ
もっとも重要なユーザビリティ・ガイドラインをひとつ挙げろといわれたら、シンプリシティ(単純さ)がそれにあたるだろう。ユーザに見せるものを減らせば、それだけ彼らが読み取ったり理解したりする手間が省け、いかなる段階においても、正しい選択肢を選ぶ確率が高まる。機能が重複していると、読み取りプロセスと理解プロセスの双方において、かなり負担が高くなってしまう。
さらに、ユーザには、ある機能が重複しているかどうかが確実にはわからないから、その重複した部分が新機能なのか、既存機能なのかを判断するために、さらに余計な時間を費やすことになる。ユーザ・テストで頻繁に見られることだが、別のリンク経由ですでに訪問済みのページに、ふたつめのリンク経由で再び訪れてしまうユーザがいるのだ。
開発者は、通常、良かれと思って重複リンクを追加している。あるリンクが見逃されやすいというユーザビリティ調査の結果にもとづいていることも多い。だが残念ながら、これでは対症療法にしかなっていない。しかも、そのせいで患者の病状はさらに悪化しているのだ。
ユーザに見落とされやすいリンクは、場所を移動したり、もっと目立つようにするべきであって、繰り返すべきではない。だが、本当の解決策は、気を散らすような他の要素をもっとおとなしめにすることである。
シンプリシティとユーザビリティ改善を狙うなら、多くの場合、重複化とは反対のアプローチを取るのがベストだ。ユーザにとってあまり重要でない機能やリンクを削減するのである。例えば、パーソナライゼーションは、より多くの情報を提供するために用いられてきた。モバイル機器では、その時々によって個々のユーザのニーズに合致したものだけを提示するために、選択肢を減らす方向でパーソナライゼーションが用いられるようになるだろう。
有益な冗長性:代替ナビゲーション経路
数少ないながら、若干の冗長性を持たせることが現実にユーザの利益につながるケースも存在する。そのひとつが、情報アーキテクチャ内でのナビゲーション経路である。ある目的地にたどりつくルートがひとつだけ、というのが、必ずしもベストとはいえないのだ。
eコマースユーザビリティで取り上げたタスク実例のひとつに、eコマースサイトでクルマ用のベビーシートを購入するというものがあった。あるユーザは、このシートをクルマ用品と考えた。クルマに設置するものだからだ。もしそうなら、テスト対象となったサイトでは絶対に見つけられなかったろう。クルマ用のベビーシートは子供用品に分類され、サイト内の該当エリアにしか置かれていなかったからだ。
完璧な情報アーキテクチャをデザインするのは不可能だ。あらゆるユーザが、あるアイテムを特定のカテゴリーと結びつけ、毎回、たったひとつの正しい経路を通ってくれるなどということはありえない。それは無理というものだ。適切なページに相互参照リンクを少し入れておけば、ユーザがあきらめてしまう前に、迷路から救い出すことができる。
とはいえ、相互参照があまりに多いと、必要以上にインターフェイスが複雑になるだろう。ユーザは自分の現在位置がわからなくなり、今、どんな選択肢が与えられているのかもわからなくなってしまう。相互参照を行う場合は、その場でユーザにとってもっとも重要であり、しかも、ナビゲーション上の混乱を救うのにもっとも役に立ちそうなものに限定することが肝要だ。
2002年6月9日