情報汚染

文章が長すぎたり、必要以上に細部にこだわりすぎたりすると、有益な情報が取り出しにくくなる。口数が多い人のメッセージは、他人の耳を素通りしがちだ。

口数が少ないほうが、よりよくコミュニケートできることが多い。私たちの生活の中には余計な細かい情報が氾濫していて、その中に有益な情報が埋もれてしまっている。以下は、最近の旅行中に経験した事例である。

  • Kennedy 空港近くの Sheraton ホテルのロビーには、モニターの上に電子サインがかかっている。このサインは20文字(訳注:英文で)×2行でできていて、以下の4つのメッセージが入れ替わり表示されるようになっている。
    1. お客様への情報提供
      ならびに便宜をはかるため
    2. この下の
      モニターには
    3. JFK 空港の
      旅客機
    4. すべてのフライト・スケジュールが
      表示されています

    飛行機に乗ったことのある人なら、誰だってこのモニターの意味することは理解できるのだから、このサインは意味がない。なお悪いことに、最後に何か重要な事項が出てくるのではないかと、入れ替わるテキストの意味に注目する人々の時間を無駄にしている。モニターに注目を集めたいのなら、サインには単にこう記しておけばよい。

    JFK 空港発着の全スケジュール
  • San Jose 空港では、ターミナルから駐車場へのシャトルバスに乗っていると、こんなメッセージが流れてくる。「San Jose 国際空港へようこそ」。たった今 San Jose に着陸したところなのだから、この情報から得るところはほとんどない。「ようこそ。このバスは Orange 長期駐車場行きのバスです」とでも言ったほうがましだろう。
  • FasTrak は、San Francisco 湾をまたぐ橋の通行料を自動的に支払う無線ベースのシステムである。クルマの無線機が正常に動作していれば、料金所を通過するときにサインが点灯して、「ETC 有効」と表示される。「有効」はいい。これで、自分の口座から料金が引き落とされ、通行可能なことがわかる。だが「ETC」って何?「エトセトラ」という意味なのか、それとも、おそらくは「electronic toll collection」(自動料金収受)という意味なのだろうか?いずれにしろ意味のない邪魔者であり、サインの文脈からみて、まったく何も伝えるところがない。

いずれも利用価値のない無駄口ではあるが、比較的無害で、それによって失われる時間もわずかなものだ。だが、その累積効果はもっと深刻だ。コミュニケーションのほとんどは無益だと考えて、耳を貸さなくなる。これによって、ときにゴミの山に混じっている重要な情報を見逃してしまうのである。

警告:余計な警告は有害

情報汚染は、旅行者のみならず、あらゆる人を苦しめる全世界の悩みの種である。たとえば、合衆国では芝刈り機ひとつ買うにも、足を刈らないように、というラベルがついていていないものを手に入れることはできない。

取扱説明書のほとんどは「重要」な警告であふれかえっていて、その警告は、いずれもあまりにも当たり前のことばかりだ。大量のゴミ情報の中に、本当に危険なことが埋もれてしまっている野放しになった法体系のせいで、警告という概念がすっかりお笑い種になってしまった。だれも警告を読まなくなってしまったせいで、今や、商品の安全性は低下している。

情報採餌理論の流儀でいうなら、情報汚染は森いっぱいにボール紙製のウサギを放つようなものだ。欲求不満に陥ったオオカミは、猟場を他に求めるようになるだろう。

インターネット汚染

インターネットは、中でも最悪の汚染源だ。スパムでさえ、汚染とはいえない。あれは注意力泥棒である。だが、意味のある電子メールですら、必要以上にたくさんの人にコピーされがちであり、あまりにも冗長であって、終わりのない返信ループに犯されている。ウェブは先延ばしのための道具である。必要以上に時間がかかり、本当の仕事はなかなかはかどらない。サイトは、価値の低いだらだらした文章や、退屈な企業アピールであふれかえっている。

一般的に、コンテンツのユーザビリティ調査では、ウェブサイトの語数を半減することで、ユーザが実際に入手できる情報量が倍増することがわかっている。

自分たちの情報環境は、もっとすっきりさせたいものだ。顧客のためになることを言いたいのか、それとも単に文字数を増やしたいだけなのか? ユーザにとって必要のないものなら、それは書くべきではない。汚染源になるのは、今すぐやめよう。

2003年8月11日