2005年 イントラネット・ベスト10

今年のイントラネットは、大画面、多国籍ユーザによる使用、共同作業、容易なコンテンツのアップデート、そして工場フロアの労働者による使用のサポートによって、平均 149 %の使用率増がみられた。

素晴らしいデザインの数が増えることによって、イントラネットのベスト 10 を選ぶのは毎年難しくなっている。選ぶのは難しくなっているものの、これはよいことだ。イントラネットのユーザビリティを向上させようという動きが勝っているということになる。イントラネットを能率向上のツールとして扱いはじめ、野放しにするのではなく、ユーザビリティ向上に資金投資を行う企業が増えていることを示している。

現在、イントラネット・ユーザビリティに関するレポートで過去に私たちが行ったレコメンデーションは、多くのイントラネットで実装されている。今年のデザイン基準はとても高く、認識・注目・見本にされるべきものとして、ベスト 10 候補に入れたイントラネットが以前より最低でも 10 増えた。しかしながら、トップ 10 に入れられるのは 10 だけなので、私たちは優れた候補の中から、さらに厳選されたイントラネットを選出した。

入選者

2005 年度の、全世界で最も優れたイントラネットは:

  • Banco Espanol de Credito( Banesto )、スペインで 3 番目の規模を誇る銀行
  • Cisco Systems、コンピュータネットワークの大手ベンダー(アメリカ)
  • Electrolux、最大手の家電メーカー(スウェーデン)
  • Integer Group、7 番目の規模を誇るプロモーション・マーケティング会社(アメリカ)
  • NedTrain、オランダ国営鉄道のメンテナンスを請け負う従属企業(オランダ)
  • Orbis Technology、小規模ソフトウェア開発会社(イギリス)
  • Park Place Dealerships、10 の高級車販売店を運営する企業(アメリカ)
  • Procter & Gamble、消費者製品の大手メーカー(アメリカ)
  • Schematic、相互性のデザインと技術開発を行う企業(アメリカ)
  • Verizon Communications、大手通信会社(アメリカ)

特に Cisco のセールスサポート用アプリケーションは、2001 年度の入選者にも入っていることは賞賛されるべきだろう。今年度 Cisco は、イントラネット全体の評価で入選した。

Schematic は、従業員、顧客、契約業者、販売業者を結ぶエクストラネットが評価されて選ばれた。他の 9 の入選者たちは、イントラネットの企業内使用の評価によって選ばれた。

スウェーデンは、その人口から考えると、イントラネットのユーザビリティに長けた才能が世界で最も集中している場所らしい。2001 年から行っているイントラネット・ランキングの入選者 50 団体中 8 %を占めている。小国ながら、素晴らしい功績だ。イギリスは入選者の内 10 %を占め、2001 年以来 2 位を保っている。アメリカも、最も多くの入選者を占め続けている。しかしながら一般的にいうと、全世界でよいイントラネットがみられるようになった。今年の入選者は、合計 5 ヶ国を代表している。

入選した内の 4 つのイントラネットは、従業員が 1,200 人以下の比較的小規模な企業のものだった。別の 2 つは 4,000 人から 10,000 人までの中規模で、4 つが 34,000 人から 236,000 人までの大規模な企業だった。入選したイントラネット担当部署の規模は、Park Place Dealerships の 1 人から、Cisco の 20 人、Verizon の 24 人と、様々だった。

先進的なデザインコンセプト

今年は、いくつかのイントラネットが 1024 x 768 の画面解像度で最もよく機能するようにデザインされていた。この点でイントラネットは、ウェブサイトよりもアドバンテージがある。組織内で従業員に使わせるモニタを統一するのはよくあることだからだ。イントラネットのデザイナーは、より広くなった画面スペースを効率よく使い、小さな画面では窮屈になってしまうような複数カラムをレイアウトに採用している。

将来はさらに画面サイズが大きくなる。視野に情報が入れば入るほど能率の向上が最も望める専門知識を活かした中小企業が、まず先に導入することになる。わずかながら退屈な分野(例えば表計算)以外では、2,000 ピクセル以上の画面に最適化されたインターフェイスは、今後沢山出てくることになる。今後の先進的なイントラネットは、これら大画面用デザインの領域を開拓することになるのかもしれない。

ウェブサイトでは映画の予告編以外、めったに効果よく使われていないオンライン・ビデオの領域を、イントラネットは既に開拓しはじめている。ビデオの鍵となる利点を、イントラネットでは有効に使うことができる。発言者のパーソナリティを伝えることができるのだ。入選したイントラネットのいくつかは、CEO やその他重役たちからのメッセージを、ビデオを通して伝えることにより、企業文化の強化に役立てている。ビデオを通したメッセージは、情報と感情の両方を伝達できるため、CEO が伝えたいことを複合的な情報層として伝達することができるのだ。

今年の入選者の中で、最も巧妙にオンライン・ビデオを使っているのは、よくデンバーの支店長が自虐的なネタを高いオリジナリティーで披露した Integer Group だろう。謹厳な企業文化をもつ会社では受け入れられないかもしれないが、パーソナリティを前面に押し出し、企業文化を手本によって示すという基本的な考え方は、明確に伺える。

Orbis は、イントラネットに最も珍しいアプローチを使っていると思われる。サイト全体を Wiki プラットホーム上に作成しているのだ。この共同作業環境では、いくつか改変が制限されているページ以外は、従業員であればどのページであっても編集可能になっている。そのため、従業員たちは古くなった情報をみつければ、簡単かつ即座にそのアップデートを行えるというわけだ。その結果 Orbis のイントラネットは、イントラネットに割けるリソースが少ない小規模組織のものよりも、はるかに情報に富んでいて、最新に保たれている。誰もが編集できるように、完全にしたいと思っていない企業でも、部署やプロジェクト単位でのページを簡単に編集できるようにすることによって恩恵が受けられる。

オフィスの枠を越えて

イントラネットは書庫としてはじまったものだが、しばらくするとオフィスで働く人たちの補助ツールへと成長した。今ではそれが机仕事の役割を越え、オフィスの枠までも越えた領域にまで手を伸ばそうとしている。

Electrolux、NedTrain、Procter & Gamble、Verizon の 4 社は、キオスクでのイントラネットへのアクセスを工場フロアの労働者など、オフィス環境の外で働く人たちへ提供している。これらキオスクは、少々ホコリや油への耐久性を高めるような加工はされているものの、基本的には従来の PC を台の上に乗せたようなものだ。将来はコンピュータ使用が日常業務にない労働者たちのために作られたユーザインターフェイスをみたいものだ。オフィス環境での使用を前提にして最適化した UI プラットホームで、ブルーカラーの労働者たちにとってのよいユーザビリティが確保されているかどうか判断するのは難しいのだ。

今年の入選のいくつかは、物理的な状況サポートのための、特別なアプリケーションが導入されていた。例えば NedTrain は、電車の運用を行うのに最も重要となる情報である電車部品の在庫をリアルタイムで表示することが可能だ。Park Place Dealerships のイントラネットの Client Concern Resolution (顧客関心事判別)システムと呼ばれるものは、事前にいる場所がわからなければ探すのが大変になる、修理工場の責任者など管理者に前もって連絡を入れるようにできている。活発に動き回る、重要従業員と電子的な連絡がとれることによって、この機能は顧客サービスの効率をよくしている。これは高級車ディーラーの要求が高い顧客たちからみれば、とても高く評価されることだ。

国際化

入選したイントラネットの内いくつかは、複数の国で働く従業員をサポートしている。中でも Electrolux と Procter & Gamble は、国際化をデザイン要素の核にしている。P&G のロケーション移行ツールには、特に感心させられる。従業員はこれを使い、イントラネットの言語や、HR ポリシーなどロケーション依存情報をコントロールできる。1 ヶ所でロケーションの設定ができるのは、求めている情報を探すのに複数の言語で書かれた異なるロケーションの情報を渡り歩かなければいけない、典型的なシナリオよりもはるかによい。

Electrolux は英語のページに加えて、フランス語、ドイツ語、ハンガリー語、イタリア語、ポルトガル語、スペイン語、そしてスウェーデン語にローカライズされたポーたるをサポートしている。また、タイムゾーンを越えた共同作業を円滑にするために、主な拠点 3 ヶ所(スウェーデン、アメリカ東部、そしてオーストラリアのシドニー)の現在時刻も各ページの一番上に表示している。

テクノロジーの乱立

どのイントラネット・テクノロジー・プラットホームが勝っているかという議論に対する唯一の結論は、結論は出せないというものだ。どのソリューションも支配的なシェアを獲得していないのだ。実の所、入選者たちの内、1 つの統合プラットホームに依存してイントラネットを構築していなかった。あちこちからかき集めてきたソフトウェアをつぎはぎする際に、デザイナーが頼りにできるのは、つばやワイヤーや、精神力といった程度のものであることが多い。

総合すると、ベスト 10 に入った人たちは合計 39 種の製品を使用していた。また、入選者たちの多くが、イントラネット全体の基幹になる技術プラットホームに、自社開発のソフトウェアをかなりの数使っていた。素晴らしいイントラネットに必要なものを、パッケージ製品だけで揃えるのは、未だ不可能だということだ。

最も多く使われていたテクノロジーは Apache、Microsoft ASP.Net、そして Microsoft SQL Server だった。それ以外に多くみられたのは、Documentum、Google Search Appliance、IBM WebSphere、そして Java 2 Enterprise Edition (J2EE) だった。

いくつかの入選者は、HP や IBM のソリューションに強く依存し、入選者の 1 つは、Microsoft 製品だけで構築したお店だった。今年はオープンソース・ソフトウェアも多くみられた。入選者たちは、最も多く使われている Apache 以外にも、Eclipse、Linux、Mambo、MySQL、PHP、PostgreSQL、そして TWiki を使っていた。

これらを総合していうと、イントラネット・テクノロジー・プラットホームには多少進歩がみられる。必要なデザイン要素をサポートするソリューションが台頭し、実装するのも楽になってきている。例えば、まともな検索結果が出るようにするには、大変な改造が必要だった過去の検索パッケージと比べ、プラグイン方式の検索エンジンは、もっと扱いやすくなっている。それでもなお、この市場にはイントラネット・ユーザ / チームのニーズを十分に理解しているソフトウェア業者たちが入り込む余地が残されている。

デザイン手順

今年度入選者たちの再デザインまでの平均サイクルは 29 ヶ月だった。これは今までの結果とそれほど変わらない。一般的な再デザインまでのサイクルは、2.5 から 3 年の間だ。

これまでの結果と今年の結果の相違点は、再デザインにかけた時間が短縮されているということだ。今年のプロジェクトの平均期間は 7.6 ヶ月だった。以前の一般的な再デザインは 11 から 13 ヶ月かかっていた。実の所、次のグラフが示すように、イントラネット・デザインのランキングを行いはじめてから、プロジェクトの期間は短縮され続けている。(再デザインについての 2001 年のデータは欠落している。)

2001 年から 2005 年までのイントラネット再デザインの傾向を示すグラフ:プロジェクト期間は毎年短縮され、用いられるユーザビリティの方法論は毎年増えている。

デザインプロジェクトはなぜ短縮され続けるのだろうか。理由の 1 つは、テクノロジー・ソリューションが発展し、欲しいものを作るのが楽になったからだ。もう一つの理由は、私たちがイントラネットについて、多くのことを学んだからだ。その結果、ユーザにとって本当に重要なことにリソースを割り当てることによって鍵となる改良を素早く行い、重要性の低い問題を後回しにすることが可能になっている。

上のグラフはまた、再デザインで用いられたユーザビリティの方法論が、過去 5 年間でかなり増えたことを表している。デザイナーたちが用いるユーザビリティの方法論の数が倍以上になり、再デザインにかかる期間が 6 ヶ月も短縮されているのは、ユーザビリティがプロジェクト始動の妨げになっていないという、驚くべき証拠だ。

2005 年の入選者たちは、平均 4.5 個のユーザビリティ方法論を用いていた。最も多く用いられたのはユーザテストで、今年の入選者たちの 80 %が使用していた。その他よく使われていたのは、カードソーティングヒューリスティック評価で、双方ともに 50 %のプロジェクトで用いられていた。

これまでヒューリスティック評価を使うプロジェクトは、少なかった。2001 年と 2002 年の入選者の内、この方法論を用いたのは 10 %に過ぎなかった。この方法論は、基本的に既知のユーザビリティ原理によってユーザインターフェイスを評価する。イントラネットでの、ヒューリスティック評価における最近の伸びは、私たちが包括的なイントラネットのユーザビリティ・ガイドラインを確立したのが、つい最近だということから、説明が付く。今ではイントラネットのデザインを、イントラネットの重要なユーザビリティ問題と照らし合わせて評価するのが可能だ。ウェブページでは、これが 2003 年以降可能だったが、イントラネットでは不可能だった。

一般的にいうと、私たちは、プロジェクトの異なる局面で様々な方法論を使うことを薦める。まず、フィールドスタディーと古いインターフェイスのテストによって新しいデザインの方向性を決定することから開始する。次はインタラクティブ・デザインを行い、それをユーザテストする。このユーザ指向型のデザイン手順をとるプロジェクトは希だが、よいデザインプロジェクトを何年にもわたり追っていると、この手法に近いものを採用するプロジェクトが増えていることがわかる。

改良の計測

入選者たちの再デザイン後のイントラネット使用は 149 %あがった。一般的に彼らは、1 ヶ月毎のページビューか、ユーザ・セッション数によって、使用の計測を行った。イントラネットとは、任意使用の環境だ。従業員たちは、それを使うことが彼らの利にならない限り、それを使おうとはしない。したがって使用の増加は、再デザインが従業員にとって認識できるほどの価値があったということを示す、よい目安なのだ。

とはいえ、ページビューは、増加した使用の金額的価値を見積もりにくいため、ROI 計測値として使うには不十分だ。使用目的の中には、もっと直接的に経費削減になっているものもある。例えば Verizon は、イントラネットの改良によって従業員によるセルフサービスの使用が、年間 130 万から 630 万に伸びたのだ。

小さい規模で例をあげると、Schematic は、プロジェクトの進行状況をエクストラネットで知ることができるようにしたため、クライアントやパートナーへの速達に使う経費を年間 10 万ドル削減することができた。このような経費削減は、金額という、実感しやすい形で見積もることができる。

イントラネットのユーザビリティ改良による生産性の向上率を計測するには、ほとんどの機関が実施を検討もしない、正式なベンチマーク調査が必要だ。そのため、よいイントラネット・チームであっても、その機関にどれだけの経費削減をもたらしているか、完全に把握していることは少ない。

Cisco は数少ない例外の 1 つだ。Cisco のイントラネット・チームは、15 の代表的なタスクを行うのにかかる時間を、古いデザインと新しいデザインで集計した。全体の平均で、タスクは新しいデザインでは 17.6 秒短縮された。イントラネット全体の使用を考えると、このパフォーマンス向上は、このイントラネットのホームページから下層サイトまでたどり着くまでの時間短縮だけで、Cisco に年間 300 万ドルの経費削減をもたらしている計算になる。下層サイトでのユーザビリティ改良は、さらに大きな利益を生むだろうと考えられる。

Cisco はまた、テストしたタスクでユーザの成功率を 87 %から 89 %に、2 %向上させることに成功した。この改善はそれほどではないように見えるが、成功率が高くなればなるほど、それを改良するのは困難になる。Cisco の古いデザインが 87 %の成功率があったというのは、元々それはよかったのだということを示している。私たちのリサーチの中では、成功率がこれよりもかなり低いのが普通だ。この例が示すように、素晴らしいデザインであっても、ユーザビリティに注意を払えば改良が可能で、わずかな違いであっても何百万という価値になる可能性があるということだ。

現実には 100 %の成功率はあり得ないが、デザインの改良によって数パーセント上乗せすることは、間違いなく可能だ。大企業では、そのわずかな違いが大きな労働力の追加補強になる。60 %から 70 %の成功率がある平均的なイントラネット・プロジェクトでは、さらに大きな改善が望める。ほとんどの企業のイントラネット・ユーザビリティの現状を考えると、きわめて実現可能な手の届くところにある果実なのだ。

10 の入選者たちが示すように、完成度の高いイントラネットを構築することは可能で、ユーザビリティの改善点を探し出すのは、それほど難しいことではないのだ。

さらにくわしく

2005 年度入選者たちについて書かれた、116 スクリーンショットを含む 235 ページのイントラネット・デザイン年報がダウンロード可能。

2005 年 2 月 28 日