Amazon:もはやeコマース・デザインの手本にしてはいけない

Amazon.com の多数のデザイン要素が機能している主な理由は、それが世界最大規模で、最も成功しているeコマースサイトであるという理由が大きい。一般的なサイトは、Amazon.com のデザインを真似するべきではない。

一般的にいえば、大手のサイトを真似るのはよいことだ。特定のデザインにユーザが慣れ、それを自分のサイトで使えば、移行時の学習を手助けすることになり、結果的にユーザビリティが向上する。もしアプリケーションをデザインしているのであれば、Microsoft Office を真似るとよい。例えば、フロッピーディスクを「保存」を実行するためのアイコンに使うとよい(フロッピーディスクに保存するような人が、もういなくてもだ)。もし検索機能を実装しようとしているのであれば、Google を真似るとよい。

eコマースの場合、かつては Amazon.com が手本だった。2001 年に 20 のeコマースサイトの評価を行ったとき、Amazon は平均的なサイトよりも 65 %高い評価を受け、大差で勝者となった。ウェブで最高のユーザビリティを持っていることは、Amazon によく働き、2001 年から 2004 年までで、売り上げが 126 % 伸びた。

もちろんどこかのサイトを丸々と真似るより、何百もある細かく記述されたeコマースのユーザビリティについての発見を基にするほうがベストだ。しかし多くの場合、人々は何をすればよいのか、1 つだけいわれることを好む。そして長年eコマースの分野でその 1 つのことが、「 Amazon のようにするのだ」だった。だが、今は違う。

Amazon は最近大きく変わったため、真似をしすぎると、平均的なサイトではユーザビリティをかえって悪くしてしまうことになる。

逆にいえば、Amazon のデザインは Amazon 自身では機能するかもしれない。ただ、この会社は他のeコマースサイトと非常に異なっているため、Amazon にとってよいことが一般的なサイトでは悪いことなのだ。

Amazon の悪いところ

ゴチャゴチャしたページ。Amazon の商品ページは、”Gold Box” や “wish list spree” から老眼鏡の広告まで、不適切な外部機能がそこらじゅうに散らばっている。私が分析した一冊の本のページには、リンクやボタンが 259 個もあった。あまりにもゴチャゴチャしすぎていて、出版日、ページ数、平均評価といった本の基本情報が 3 画面も下にあった(標準的な 1024 x 768 解像度での場合)。ゴチャゴチャしたページは、Amazon の典型的なユーザが、その機能を把握し、ページの中から必要な情報を見つけることに慣れたリピーターたちだからこそ、機能するかもしれない。初めてのユーザは間違いなく圧倒されてしまうだろうが、すでにそのようなユーザは Amazon の収入源の割合としては、微々たるものだろう。

インターネット全体の検索機能。これは Amazon のページが込み入ってしまう小さな原因の 1 つになっている。これはホームページ・ユーザビリティのガイドライン #52 に違反している。もしウェブ全体を検索したいなら、あなたのサイトではなく、お気に入りの検索エンジンに行くだろう。Amazon はそれでもこの機能を提供している。なぜなら、ここで使われている A9 という検索エンジンを所有しているからだ。A9 のプロモーションにより、十分な企業利益が得られ、メインのサイトでの込み入ったデザインによる売り損ないの穴埋めができているのだ。しかし、もし検索エンジンを所有していないのであれば、ウェブ全体を検索する機能を設けてはいけない。

製品ページでの広告。Amazon は各製品ページで 2 インチほどを、他のウェブサイトの広告に割り当てている。これは収入にはなるが、一般的なeコマースサイトでこれをやった場合、すでにそのページで扱っている製品の購入を検討し始めている見込み客からの収入が広告収入を上回らなければ、恥じるべきだ。Amazon はデフォルトで本を買う場所という地位を確立し、買い物客を他の店に誘導しても、最終的に彼等が戻ってくることが分かっているため、そのようなことが許容できるのだ。自分のサイトで同じ想定はできない。見込み客を客にし、放り出してしまわないことを心がけよう。

特殊な商品カテゴリーのお粗末なユーザインターフェイス。モーツァルトのコンチェルトやプラズマテレビを Amazon で購入しようとしてみよう。欲しい製品があらかじめ分かっていなければ、Amazon のカテゴリーページでは、一番よい商品を選び出すのがおおむね不可能だ。同じeコマースエンジンを、31 種類の異なるカテゴリーで使用した戦略は、Amazon を驚くほど成長させた。その反面、客たちがその代償を、特殊な扱いが必要な製品での貧弱なサポートという形で払わされている。もしクラシック音楽の販売を行っているのであれば、Amazon のデザインを真似せずに、クラシック音楽を専門にあつかったサイトを研究したほうがよい結果を生むだろう。ポピュラー音楽で機能するものでも、1 人の指揮者が何千もの CD でクレジットされているようなジャンルでは機能しないのだ。

海外自社サイトとのインテグレーションの欠落。Amazon がアメリカ以外の 6 ヶ国でローカライズされたサイトを提供しているのは、よいことだ。しかし、これらサイト間では全く統合が行われていない。例えば、もしあなたがフランス人で、アメリカのサイトで本を見ていたとする。同じ本を Amazon.fr で購入可能なのかどうか、またはフランス語訳のものがあるのかといったことが表示されない。また、サードパーティーのサイトから推薦図書リストで海外ユーザをサポートしようとすると、極めて厄介なリンク方法を押しつけられる(例えば「この本を、アメリカイギリスまたは日本の Amazon で買う」といった具合)。

共同ブランド。Amazon はそのeコマースエンジンを、他の多くの企業が使えるオンラインプラットホームに進化させている。時々こんなことが起きる。Amazon に注文したと思ったのに、聞いたこともないような会社から電子メールが届く。受信箱が常に洪水状態の今日、ユーザたちはそのようなメールを読まずに消してしまう傾向があることが分かっている。ユーザが Amazon にeコマースをアウトソーシングしている企業に興味がある場合、ユーザビリティの問題も出てくる。例えば、お店の検索と位置特定の “clicks-and-mortar” 調査を Toys-R-Us でテストしたときのことだ。Amazon がオンラインでの玩具販売を請け負っていたため、参加者たちは現実世界の店舗住所を、ウェブサイトの中で見つけだすことが、できなかった。

Amazon の未だよいところ

確認メール。共同ブランド品でなければ、Amazon の確認メールはユーザに状況説明を与え続けることで、納品手続き全体の信頼を増すことになる

納品手続き。何か買い物をしたら、それが届く。希に起きるトラブル時には、分かりやすくそれを説明した電子メールが届く。もちろんそれがeコマースとしては当たり前なのだが、他のサイトで買い物をすると、そうでない場合が多すぎる。Amazon が商品を実際に届けていることが成功につながっているということは、ユーザ体験がユーザインターフェイスだけで評価されるものではないことを、明確に示している。

ログイン画面。Amazon のサイン・イン画面は、未だ手本にするべきものだ。新しい顧客が登録せずにログインしようとするような、よく起きる問題を最小限に抑えている。Amazon では、リニアに 2 つの質問、( 1 )「電子メールアドレスは何ですか?」と( 2 )「Amazon パスワードをお持ちですか?」を行っている。 2 つめの質問でユーザは 2 つのラジオボタンで示された選択肢、「いいえ、私は新しい客です。」か、「はい、パスワードを持っています。」から選択する。他の多くのサイトでは、新規顧客のセクションと登録済みの顧客のセクションを並列してしまい、入力フィールドの誘惑によって新規顧客を登録済みの顧客のセクションに導いてしまっている。

関連商品のクロス販売。「この本を買った人はこんな本も買っています」というアプローチは、未だに優秀なクロス販売の方法だ。大概の場合、その客が買いたいと思うような関連商品を示すことができる。

サンプル・コンテンツ。eコマースにおいて最も難しいのが、間違えた商品を注文してしまったり、低品質のものを注文してしまったりするかもしれないという恐怖の緩和だ。客が直接商品に触れることができないため、オンライン販売はこの点で大きなハンディキャップを負っている。この問題を最小限に抑えるため、客を仮想空間の中でできる限り商品に近寄らせよう。客が必要とする情報を、理解できる言葉で説明し、意味のある商品画像を提供しよう。Amazon はこの点で優秀だ。書籍からの抜粋や、ミュージック・クリップなど、サンプル・コンテンツの使用では特に優れている。

包括的な品揃え。Amazon は「世界最大の品揃え」をうたっているが、企業がそのスローガンに応えているのは最初で最後だろう。ユーザはウェブ上で包括的なサービスを望んでいることは、1997 年から分かっていた。そして Amazon は、最初から取り組んできた本の分野では特に、それに応えている。もし出版されているものであれば、取り扱っている。さらによいのは、絶版になっても、その本をサイトから消してしまわずに、代わりに中古でそれを求められる市場を提供していることだ。たとえその商品の購入可能状況が変わっても、商品のページは同じ URL に保たれる、ほかの商店サイトでは悩みの種になるリンク切れを防ぐことにもなる。

天秤にかければ、Amazon は未だに世界で最も優秀なeコマース・サイトだ。だが、それが武器にしているものの多くは、彼等の状況に特有のもので、そのデザインを真似たそのほかのサイトでは機能しないものだ。

2005 年 7 月 25 日