ビジネス用Webサイトの育て方:
まず正すのは基本から

明確なコンテンツ、容易なナビゲーション、そして顧客の疑問に答えることが、ビジネス価値に最も反映する。先進的な技術を使うことによる影響は、それと比較したら微々たるものだ。

最近行ったいくつかのコンサルティングのプロジェクトで、ビジネス価値を失わせていた最大の原因を挙げる:

  • 某 eコマースのサイトは、ホームページで度が過ぎるプロモーションを行い、セール商材以外の価格が高く設定されているのではないかとユーザたちに思わせてしまい、何百万ドルもの損をしていた。これは信用を増すためのデザインが重要だという、典型的な例だ。
  • 某大企業のイントラネットは、統一性のあるイントラネットのポータルを提供せずに、領域ごとに統一性のないデザインと管理システムを採用していた。従業員がイントラネット内を動き回る内に、ナビゲーションの選択肢と情報構造の見た目が変わってしまう。新しく作られた部分に比べ、領域によっては内容が古くなっているように見え、以前作られたページに載っている情報を信用できなくなっていた。ここでもまた、信用が問題になっている。信用は eコマースだけの問題ではないのだ。
  • 某サービス企業では、ユーザが各地の正確な支店名を知らないと支店検索が行えないようになっていたため、見込み客たちが支店をみつけられなくなっていた。他の名前で検索したユーザたちは、彼らの地域ではサービスを提供していないと思い違いをして、そのサイトを後にしていた。
  • 某コンテンツサイトは、いくつかの場違いな信用できない広告で、ユーザを追い払ってしまっていた。
  • 見たこともないような、真新しいインターネット・サービスは、それがどのように機能するのか、または何を提供してくれるのか、ほとんどの人が理解できずに、無駄になっていた。見返りが何なのかハッキリしていなかったため、ユーザたちはサイトへの登録を拒んだ。問題の内の 1 つは、サイト内で使われていた専門用語だった。

デザインの優先順位トップ 3

これらユーザビリティ問題で共通することは、何であろうか。それは全て10 年間変わっていない簡単なユーザビリティ原理に関係しているということだ。どれも先進的な “Web 2.0” テクノロジーとは関係ない。どの問題も、今話題の派手なものを実装したところで、直るものではないのだ。

実のところ、ビジネス価値を失わせてしまうデザインの欠陥は、典型的に以下のようなことに関係している:

  • ユーザが理解できるように、明確に伝える。最初にウェブサイトを訪問したとき、ユーザたちは最小限の時間しか費やさない。そのため、そのサイトに時間を費やすだけの価値があることを、すぐに確信させなければいけない。
  • ユーザが探している情報を提供する。ユーザたちは、貴方の提供しているサービスが彼らの要求を満たしているのか、またどうして貴方と取引をするべきなのかを、簡単に判断できなければいけない。
  • 容易に理解できる統一性のあるデザインと明確なナビゲーションを提供し、ユーザたちが探している情報を、期待値通りの場所にみつけられるような情報構造を提供する。

この 3 つが正しくできるようにすれば、サイトの信頼性が増し、ユーザたちは簡単にサイトの中を巡ることができるようになることにより、どのような JavaScript のトリックよりもビジネス価値を増すことができる。

コンテンツの改良

コンテンツが全てだ。10 年前そうだったし、今でもそれは変わらない。人々は、理解できないものは利用しない。ウェブ向けの執筆スタイルは、今でも過小評価されすぎだ。ほとんどのサイトは、ユーザに提供している情報を洗練するためにリソースを十分割いていない。

写真も同じくだ。数え切れないサイトで、商品の写真は小さすぎたり、ぼけていたり、暗すぎたり、または単純に角度が悪くて見にくい。そのようなサイトでは、アイ・トラッキング調査で見られていないと判っているような、派手で大きなイラストレーションにばかりピクセルを惜しみなく使っていることが多い。不可解この上ない。

一般的にいえば、平たい言葉遣いと、見やすい商品写真でことが足りる。それでもなお、これら 2 つのデザイン要素は業界紙でほとんど取り上げられることはない。毎月、主な出版物には、3D はほとんど意味がないことが多いにも拘わらず、3D で回転表示する技術の記事が載っている。しかし、よい見出しの書き方や、見やすい商品写真の撮り方についての記事は、見たことがない。

なぜ使い物にならない派手なものの方が注目されるのか

なぜ最も利益にならないものに話題が偏るのかについては、私なりの仮説がある。それはまさに、テクノロジーには話題性があるからだ。その理由は 2 つ:

  • 新しいテクノロジーはニュースになる。新聞であろうが、ブログであろうが、誰も古いありふれたことについて語ろうとは思わない。「人が犬を噛んだ」は記事になるが、「犬が人を噛んだ」ではならないのだ。だが、もし貴方が保健所のリソース割り当てを担当しているならば、犬に噛まれた人を助けることについて関心を持つべきだ。人に噛まれた犬を治療するクリニックを開いても、ほとんど客は来ないだろう。10 年間、ユーザビリティの主なガイドラインが不変的であることは、無視する理由にはならない。人間の深層にある要求に関わっていて、その価値は不変的なものだという証なのだ。
  • 企業はテクノロジーを擁護する。なぜなら、それを製品やコンサルティング・サービスとして売れるからだ。どの商品展示会に行っても、派手で多様なテクノロジーを推奨するブースを目にするが、どれをとっても貴方にとって最終的には、あまり差のないものになる。だが、これら各テクノロジーには、口の達者な販売員がいて、貴方の会社の重役を言葉巧みにゴルフに誘ってくる。それとは対照的に「見やすい写真は売り上げに貢献する」というスローガンを掲げた、写真家協会の展示会ブースは、真実であっても、ない。もしくは、インターネット管理者たちに見出しの価値を訴えて売り込む、ライターたちもいない。

新しいテクノロジーに価値がないといっているのではない。私たちは現在、とても複雑なアプリケーションをオンライン上で公開しようとしている企業と働いている。そのユーザビリティをよいものにするには、いくつかの「リッチ UI 」を使わなければ、実現不可能だ。だが、それはブートが必要な、大きなアプリケーションなのだ。そういったものでない 90 %のウェブサイトでは、eコマースのサイトであろうが、企業のサイトであろうが、政府機関のサイトであろうが、非営利団体のサイトであろうが、明確に伝えることの方がもっと大切なのだ。

エリート体験 対 ユーザ体験

ほとんどのビジネス・ウェブサイトにとって、あまり関係のないものが注目を集める最後の理由:ウェブで声の大きい層というのは、「インターネット・エリートの体験」に大きく関わっている層だからだ。彼らの興味は、ネット自身のためのネットであって、サイトマップの新しい見せ方などに熱狂する人たちなのだ。平均的なユーザは、それとは対照的にオンライン上でのタスクを、さっさと済ませたがる。彼らはウェブが特に好きなわけではなく、他の仕事や、家族との時間に、一刻も早く戻りたいと思っているのだ。

ウォール街がウェブバブル 2.0 の真っ最中だ。しかし私が心配するのは、インターネットのプロフェッショナルたちが、危険なバブルの匂いに酔いしれて、彼らの趣向や趣味が一般的なユーザたちと同じであると勘違いしてしまっているのではないか、ということだ。

ユーザビリティに従事している人たちが最も苦労して得た教訓の 1 つが「自分たちはユーザじゃない」ということだ。貴方が開発プロジェクトに関わっているならば、文字通り典型的なユーザではない。身内ではなく、部外者のために最適化するために、ユーザ体験をデザインしなければいけない。バブルの匂いの解毒剤はユーザテストだ。典型的なユーザたちが何を必要とするのかを見つけ出そう。今ホットなことで仕事をするのは魅力的だが、売り上げを伸ばすためには、顧客たちにとって重要な基本的なことに重点を置こう。

2006 年 3 月 20 日