Web 2.0は危険かも…
AJAX、リッチインターネットUI、マッシュアップ、コミュニティ、ユーザ作成コンテンツなどなど、いずれも複雑さを増すばかりでさほど値打ちはない。これらをデザインするとなると、リソースもかなり必要になる。巷で騒がれているものが最大の利益をもたらすことはないということが(またしても)明らかになったというわけだ。
利益を追求しようと思うなら、Web 2.0は危険かもしれない。巷で話題のテクノロジー開発に夢中になるということは、あなたのユーザに、ひいてはあなたの利益にとって本当の意味で重要な投資対効果の高いデザインにあてられるはずのリソースをそちらに回すことに他ならない。
少し前にお目見えしたテクノロジー(FlashやPDFが代表例)とは違い、Web 2.0はユーザにとって根本的に 悪というほどではない。極めて効果的にもなり得る。調査をしていると、Web 2.0を意識したデザインがユーザビリティを高めている事例を目にすることもあるくらいだ。しかし、Web 2.0のアイデアがユーザを困らせたり、ユーザの主要なニーズにまったく関係しなかったりすることの方が実際にはずっと多い。ニーズに関係しなければ無害かのようにも思われるが、ウェブサイトにいくら“力を入れて”も、見当違いの入れ方では利益を損なうばかりだ。もっと単純な側面に目を向けて、売り上げを伸ばし、競合から抜きん出ることができるのに、それを逃してしまうことになるのだから。
濫用されるばかりで定義が曖昧なままの“Web 2.0”。その意味するところは次の4つに要約できると思われる。
- “リッチ”インターネットアプリケーション(RIA)
- コミュニティ機能、ソーシャルネットワーク、ユーザ作成コンテンツ
- マッシュアップ(他のサイトのサービスを開発プラットフォームとして使用すること)
- 主要な、あるいは唯一のビジネスモデルとしての広告
AJAXと“リッチ”インターネットUI:複雑すぎる
ページビュー単位でインタラクションを構築すれば、UIを縮小すること、つまりよりシンプルな UIを実現することになる。新しいページへ行きたいと思うユーザは、リンクをクリックすれば良い。UIの操作方法をユーザが知っていてくれる。ユーザは自分で自分のユーザエクスペリエンスをコントロールできるので、集中して中身を読めるというわけだ。
1984年以来のパーソナルコンピューティングの発展と共に我々が享受してきた、柔軟性の高いGUIデザインを際立たせたものを“リッチ”インターネットUIと言う。真の機能性を提供し、フル装備のGUIを必要とする真のアプリケーションの場合に特に、そういったインターフェイスが機能し得る。しかしウェブサイトの場合、話は別だ。高度なUIはユーザを困惑させるばかりで、助けにはならない。なぜか? アプリケーションの場合ほどユーザはウェブサイトと対話をする必要がないからである。(ユーザとの対話を生まず短命に終わるアプリケーションも多い。)
リッチUIの代表例と言えばAJAXである。これを使えばページの一部分のみを更新できるので、更新の度にユーザを新規ページへ飛ばす必要がない。ダウンロードに必要なデータ量を抑えられるので、ちょっとした更新なら瞬時に反映される。待ち時間が短くなるのだ。
応答時間の短さやダウンロードの速さは、Webのユーザエクスペリエンスにとって非常に重要である。これを否定するお馬鹿さんはいないだろう。迅速に動くインターフェイスは気持ちが良いし、操作もしやすい。1968年以来ずっとそう言われてきた。
確かに、速ければ速いほど好ましいのだが、状況をユーザが確認できる状態が維持されればの話。最近、100のeコマースサイトをテストして、AJAXを使った買い物カゴに問題が潜んでいることを突き止めた。ユーザは多くの場合、ほんのわずかな変更を見逃してしまうのだ。たとえば買い物カゴに商品を足したとき、画面の端の小さなエリアがアップデートされるだけではユーザは気づかないのである。
ユーザが買い物カゴをうまく操作できないとなれば、eコマースサイトにとっては死活問題だ。誰もが理解できるシンプルな買い物カゴを使い続けるのが一番である。
応答時間を短く抑えたいなら、サーバーを大きくするとか、プロバイダーを乗り換えるといったところにお金をかけよう。各ページに載せるガジェットの数も減らすことだ。ダウンロードに時間を喰う込み入ったダイナミックなデザイン要素の使い過ぎが原因で応答時間が長くなっているケースがほとんどなのだから。
補足記事に示したように、ウェブサイトでAJAXが巧みに機能することもある。我々が行ったテストでも、使い勝手の良いAJAXの買い物カゴが1つ確認された。いつものことだが、私たちが問題にしているのはテクノロジーではなく、ユーザビリティである。テクノロジーを正しく使えば、売り上げも伸びるだろう。だが、新しいテクノロジーの導入には高いリスクが付きものだ。なぜなら、成功事例が少ないからである。Web上で見かけたデザインをただ模倣してはならない。最新で最先端のテクノロジーに酔いしれたおたく連中が興味本位で作ったデザインには出来の悪いものが多い。悲しいことに、“最新で最先端”のテクノロジーは概ね“未検証で使いにくい”ものに姿を変える。利益に繋がるはずもない。
コミュニティとユーザ作成コンテンツ:ユーザが少なすぎる
ユーザ作成コンテンツが強力なサプリメントなってくれる可能性はある。もっとも有名な例に、1996年にお目見えした(厳密に言えば“2.0”ではない)Amazonのカスタマーレビューがある。コミュニティは、1997年出版のNet.Gain に初めて登場したアイデアで、やはり新しくはない。
コミュニティは、特にイントラネット上で有用な機能であり、優秀なイントラネットの多くがこれを取り入れている。イントラネット上でコミュニティが機能する理由を考えれば、広く開かれたインターネット上であまり機能しない理由も自ずと見えてくる。
- 企業の社員は、自社のビジネスを成功へ導くという重大な関心事を共有しながら実際にコミュニティを形成している。
- 社員は、採用時に選別されている。その後もクビにならないということは、最低限の質的水準を備えているということだ。一方Web上には愚か者が大勢いて、耳を傾けるに値しない。
- 社内向けの個人広告を集めたような、単に職場の柔らかい雰囲気作りを目的としたイントラネットコミュニティもあるが、社内のプロジェクトにがっちり集中して議論を繰り広げるコミュニティになりがちだ。議論の焦点があちこちにぶれることも少ない。
- イントラネットのユーザは、自分の書き込みに責任を持ち、社内での自分の評判を気にかける。結果として、破壊的な書き込みや攻撃的な意見よりも建設的なものが多くなりやすい。
- 互いに知る人たちが集まった小規模のコミュニティでは社会的手抜きが発生しにくく、多くのユーザが参与する。逆にインターネット上のコミュニティでは、参加割合に不均衡が起こりやすく、ほとんどのユーザが参与しない中で、わずか1%のユーザが活発に意見を書き込み、議論を主導することになりがちである。
ほとんどのビジネスタスクは、つまらな過ぎてコミュニティの存続を支援しきれないのが現実だ。市の公衆衛生局が12月25日を過ぎてからクリスマスツリーの回収をするという話題が、コミュニティに参加する衛生局員の興味を引き、エクスペリエンスの共有を意図した活発な議論を生むとは考えにくい。ユーザはサイトを訪れて、収集の日付とルールを確認するだけだろう。とは言え、一方でこのページは、政府のウェブサイトが納税者に対して高いROIを提供する方法を示す好例でもある。ページが上手く出来れば、延々と続くかに思われる問い合わせの電話に対応するための費用 — 電話1本につき10ドル以上 — を節約できるのだから。こうしたつまらなくて厄介なタスクにこそ、お金がかかっているものだ。
マッシュアップ:ブランドの提携がもたらす混乱
“プラットフォームとしてのWeb”を実現するための方法の一つに、複数のサイトの機能を一つのサービスに統合することが挙げられる。しかし、商業目的のサイトでこれをやろうとすることは、次の2つの理由で危険である。
- ブランドの提携はユーザを混乱させる。一つのサイトは一つの企業を表すというシンプルな作りの方が、ユーザにはずっと理解しやすい。Amazonのサイトで他社が商品を販売するようになって、ユーザは確かに混乱した。投資家向けの広報(IR)サイトを調査した際にも同様の混乱がみられた。ある企業サイトのIRエリアから、四半期報告のような目的で第三者機関のサイトにリンクが張られていたりすると、ユーザは困惑してしまうのである。
- あなたのサイトの一部を、他社のコントロール下に置くということは、先方がサービスの変更を決めれば、それに従わざるを得ないということである。外部のプロバイダーは、あなたの会社の競合から広告をとってきて掲載してしまうかもしれない。自社の有望な取引先に売り込みたいと思うものが掲載される約束はないのである。
マッシュアップの結果として提供されるサービスは、自社のニーズに合わせてデザインされたものほどユーザビリティの高いものには決してならない。店舗等の所在地検索機能を調査した結果、各社が独自に用意した地図が一番分かりやすいことが判明した。目的地である店舗の位置が強調され、目印となる近隣の建物やオススメの駐車場が記載されているうえに、公共交通機関を使ったときのアクセス方法も詳しく載せている地図がやはり分かりやすいのである。一般に提供される地図情報サービスは、あなたの顧客が抱えているニーズを知らない。大切な顧客を道案内するための地図を描けないのも無理からぬことだ。
規模の小さな会社であれば、外部から機能を借りてくることで自社サイトの機能性を上げられる。しかし大企業であれば、最適なユーザエクスペリエンスを提供することでもたらされる利益が、それを作り出すためにかかる費用を帳消しにしてくれるだろう。
広告収入に頼るビジネスモデル:Bubble 2.0
唯一のビジネスモデルとして、多くの企業が、広告に投資されるお金を取り合っているという現状は、我々がBubble 2.0のピークにあることの確かな兆しである。ユーザがお金を払うに値すると考えるサービスの創出を企業が目指すのであれば、この状況は今後も持続するかもしれない。
相当の広告費が、Web上を彷徨っているというのが現状だ。Web広告への投資がどう機能しているのかをマーケティングマネージャがまったく分かっていないためである。検索連動型広告がビジネスに繋がることを知ったマネージャ連中は、Web上のその他の広告も同様に機能するに違いないと考えるに至った。なんという誤解。Webにおけるユーザエクスペリエンスが何たるかを知らないが故の盲信である。ビジネスを求めて、人は検索エンジンへアクセスする。だからこそ検索エンジンがコンテンツサイトから旨い汁を吸えるのだ。(一方コンテンツサイトでは、ユーザの目は決してバナー広告に向かない。)
マーケティングマネージャが誤解したままでいるはずはない。Web広告にさほどの投資対効果がないことを、遅かれ早かれ彼らも知ることだろう。Web広告で機能するのは、検索連動型広告と個人広告(eBayや不動産情報など)の2種類だけである。ビデオ広告が3番手に名を連ねる可能性はある。(非線形的なウェブサイトのナビゲーションとは対照的に)ビデオは線形的なメディア形式をとるからだ。ただし、十分な調査を行ったわけではないので、現時点では明言できない。
巷で評判のウェブサイト:ビジネスサイトの代表例にはなり得ない
典型的ではない事例はろくな道標にならないので参考にすべきではない、と1997年に書いた。2006年にも同じことを言った。当時、話題に上っていた例を示しながら。残念なことに、インターネット上には未だに同じ間違いが後を絶たず、耳目を集めたニュース記事に倣おうと考える向きが多いようだ。3度目になるが敢えて繰り返すとしよう。
- 所謂ビジネスサイトの場合(政府や非営利団体のサイトを含む)、世間の注目を集める話題のサイトに期待されているユーザエクスペリエンスと、あなたのサイトに期待されているユーザエクスペリエンスとは全くの別物である。
たとえば、小規模のeコマースサイトは、Amazon.comのデザインを真似るべきではない。概ね正しくは作られているが、eコマースのユーザエクスペリエンスガイドラインを守っていない部分もAmazon.comにはたくさんある。Amazonは、(あなたのサイトにはない)独特のポジションを確立しているがゆえに、ガイドラインを外れることができるのだ(あるいは、外れるべき なのである)。
当然のことながら、巷にあふれる大量のウェブサイトを代表する例がマスコミを賑わしているわけではない。マスコミは“面白い”話を書き立てるだけで、日々のビジネスを取り上げてはくれないのだ。
今、もっとも話題のサイトと言えば、インターネット版“料理の鉄人”と称されるFacebookだろう。料理の鉄人は、それは素晴らしいTV番組だが、レストラン経営の成功とは無関係である。調理開始の直前に“不可思議なテーマ食材”を指定され、それを使ってコースを振る舞わなければならない、なんてことはレストランのシェフにはあり得ない。ブロッコリーのアイスクリーム? 店の売り上げを伸ばしたい、お客様にまた足を運んでもらいたいと思うなら、そんな料理はない方が良い。
料理の鉄人と同様、Facebookにはマスコミうけする多くのドラマがある。しかし、たとえば50歳の倉庫係にフォークリフトを売ろうとするB2Bサイトに、Facebookの機能はほとんど役に立たない。ユーザが別のユーザを“一噛み”すれば、噛まれたユーザがゾンビに変身するといったFacebook風の機能を搭載するのではなく、料金を明示し、上等な商品写真を掲載し、スペックを詳述して、説得力のある白書を示し、迷わず使える情報アーキテクチャを構築して、メールでニュースレターを送るといったことを重ねることでこそ、B2Bサイトは売り上げを伸ばせるのである。
Web2.0の機能は少しに抑えて、本来のサービスを強化しよう
以上のとおり、Web2.0絡みの騒ぎに惑わされるべきではないとする理由はいろいろある。だが、Web2.0がもたらす良い面もないわけではない。問題は、求められるWeb2.0機能は、サイト毎に異なる ということだ。
極めて大雑把なガイドラインではあるが、Web2.0を導入するとしたらどの程度の割合が妥当と考えられるかを、ユーザエクスペリエンスのタイプ別に見てみよう。
- 情報発信系/マーケティング系ウェブサイト(企業、行政、非営利団体のサイトなど):10%
- eコマースサイト:20%
- メディアのサイト:30%
- イントラネット:40%
- アプリケーション:50%
アプリケーションで割合が高くなっているのは、ユーザが同じ操作を繰り返すため、リッチなUIの恩恵を受ける可能性が高くなると考えられるからだ。逆に、一般的なウェブサイトでは操作の繰り返しが非常に少ない。GUIを作り込んでショートカットを多用しても、操作が複雑になるばかりで、ユーザにとってはうま味が少ないのである。
ウェブサイトのユーザビリティにとって問題となるのは、ある操作に10秒かかるか、1秒で済むかという話ではない。どんな操作も、ユーザは一度か二度しか行わない。サイトが分かりにくくて思うように操作ができなかったときに失うこととなる5分とか10分が問題なのだ。(そんな経験を一度でもすれば、ユーザはたいていサイトを後にする。ビジネスチャンスが失われるということだ。) 一度限りの操作には、シンプルさが効率よりもずっと重要なのである。
ドラッグ&ドロップを例に考えてみよう。正しく使われれば、アプリケーションとのインタラクションは格段に速くなる。しかし企業サイトでは、確実なアフォーダンスがない限り、ユーザはこの重要な機能に気づかない。(そしてもちろん、間違って 使われれば、洒落たつもりのインタラクションテクニックが、アプリケーションを台無しにする。アプリケーションのユーザビリティガイドラインに従うことは、このとおりとても大事なことなのだ。導入しようとするテクニックが“2.0”で、ユーザビリティも備わっていないとなれば、それはユーザを助けるどころかかえって困らせることになるだろう。)
最低ライン? 2.0も控え目に導入するなら有益かもしれない。だが、高度な機能の導入で、優れたユーザエクスペリエンスが実現され、利益に繋がることは稀だ。巷の騒ぎに気をとられては、本当に重要でシンプルな側面に意識やリソースが向きにくくなる。この機会費用こそが、Web2.0を控え目に捉えようとする本当の理由である。
“2.0”機能に投資する前に、“1.0”の要件がすべて 完全に満たされているかどうかを確認しよう。Web上にある149,784,002のサイトのうち、それを達成し得ているのはほんの一握りだろう。見出しやページタイトルに読者の言葉遣いをと心がけているサイトはほとんどない。SEOのランキングやクリックスルー率を上げてサイトの収益性アップを実現したり、提供しているサービスをユーザにより理解してもらいたいと思うなら、まずはマイクロコンテンツの書き出し2語を改めてみることだ。どんなテクノロジーを導入するよりも大きな効果が期待できる。
2007 年 12 月 17 日