改善すれば利益があがる~見直すべき10のポイント
ユーザビリティの知見をいくつか取り入れることで、売り上げを伸ばし、カスタマーロイヤリティを向上させることができる。Webサイトを更新するときに最優先で検討すべきポイントを紹介しよう。
ウェブサイトのデザインに共通して見られる間違いについてはよく書いてきたが、もっと稼ぐためにできることにはどんなことがあるだろう? 特に高い投資対効果(ROI)を見込める10のポイントを紹介する。
1. ニュースレターのメール配信
ニュースレターのメール配信を使えば顧客との関係を維持できる。顧客がウェブサイトにアクセスしているときに限らず、顧客とつながっていられるのだ。多様なユーザ・ニーズに応えられるニュースレターは、ウェブサイトにとって貴重な相棒である。顧客に継続して情報を提供し、つながりを維持するのがニュースレターであり、ウェブサイトはより詳しい情報の提供と、取引を可能にするものである。
ニュースレターの配信は、比較的安く済む。たいそうなテクノロジーはいらない。その上、頻繁に配信する必要もない。もしまだニュースレターの配信をしていないのであれば、インターネットを最大限に生かして高い投資対効果を実現するための、まずはベストの戦略になるだろう。すでにニュースレターを配信しているならば、これまでの調査結果にもとづいて改善するだけで、その価値を数倍に伸ばすことができるはずだ。(私たちがテストしたニュースレターの多くは、ユーザを満足させられるコミュニケーション手段にはなっていなかった。)
ニュースレターにはもう一つの利点がある。検索エンジンに依存せざるを得ない現在の状態を脱するには、ニュースレターを活用することだ。長い目で見れば、これこそがもっとも重要で、戦略的な挑戦の一つになる。
2. 必要な情報を提供する製品ページ
eコマースサイトやマーケティングサイト、B2Bサイトなどの製品ページはいずれも情報不足という問題を抱えている。ユーザが購入を決めるのに必要な情報を見越してもれなく提供できているウェブサイトはほとんどない。
私たちが実施したテストで確認されたユーザビリティの問題のうち、製品情報の不足は全体の8%に及ぶというデータを最近の著書に示した。さらに、タスクの達成に時間を要したり、腹を立てたりした“だけ”で達成できたケースを除き、ユーザがタスクを完遂できなかったケースのうち10%が、製品情報の不足に起因していた。製品ページまでアクセスしているということはその製品に関心があるということである。そこでユーザのニーズに見合う製品ページを提供することは、売り上げに結びつけるための格好の手段となるはずだ。
詳細に製品情報を提供する必要がある。しかし、その手の製品にあまり詳しくない人にも分かるように書いてあげなければならない。たとえば、ノートパソコンの製品ページ。Dellのようにディスプレイの大きさを“WSXGA+”とだけ記述しているようではいけない。1680×1050ピクセルと書いてあげるべきだ。(正直な話、ご存知だっただろうか? ご存知だったとしたら、普通の人よりも5倍はマニアックな知識を持っていると自覚した方が良い。) あるいは、できるならばAppleのように、解像度の違うディスプレイを並べて見せて、それぞれでデータがどのように見えるのかをユーザが自分で確認し、比較できるようにしてあげよう。
3. クオリティの高い画像
製品ページを改善するもっとも簡単な方法の一つは、もっと良い画像を載せることだ。ページの先頭には、もっとも代表的な写真を小さなサイズで載せる。その下に、違う角度から撮った写真や細部を確認できる拡大写真などを並べる。2005年のウェブ・デザインの間違いトップ10でも#10にあがっていたが、画像をクリックしてもほんの少ししか拡大されないようなリンクの張り方はやめよう。画面いっぱいくらいにまで拡大して見せてあげるのが望ましい。
そこまで大きな画像を使うことは、ダウンロードにかかる時間をおさえてレスポンスを速くするべきとするガイドラインに反しているように聞こえる。しかし、無駄に大きな画像を載せてページ遷移に余分な時間をとらせることと、ユーザの要求に応じて 大きな画像を表示するのとはまったく別の話だ。前者の場合、ダウンロードに時間がかかることでユーザの操作は中断される。一方、後者の場合は時間がかかることが事前に予測されている 。時間のかかることが歓迎されることは決してないが、ユーザの要求を満たすためにやむを得ない場合にはさほどの問題にならないのである。
オンラインのメディアが抱える最大の欠点は、ユーザが直接製品に触れて、感じることができないところにある。しかし、拡大写真やクオリティの高い写真を提供することで、製品の感触に近いものを伝えることができる。オンラインで気持ちよく買い物をしてもらうためには欠かせない。
ソフトウェアやオンラインサービスなどの場合には、写真に代えてフル解像度のスクリーンショットを提供しよう。
4. 製品の区分と比較
よくない製品を買ってしまうことをユーザは恐れている。その不安を取り除いてあげなければ、ユーザは購入に踏み切れない。もしかしたら、二度とあなたのサイトで買い物をしてくれないかもしれない。同じカテゴリーの製品を複数扱っている場合、違いがどこにあるのかを明確に説明してあげよう。複数ある中でなぜそれを買うべきなのか、専門知識のないユーザにも判断できるように説明が書かれていなければならないのだ。
製品の区分は、取扱品目を絞り込めばその分、容易になる。大きく違いのない製品をたくさん取り扱う必要があるのかどうか、まずは考えてみよう。たとえば、Dellが販売しているノートパソコンには、Inspiron、Latitude、Precision、XPSの4つのモデルがあり、中にはさらに6つのトリムラインから選ぶことのできるモデルもある。4つのモデルがどこでどう異なるのか、ウェブサイトにははっきりとした説明がない。
取扱品目が少なく、商品区分も分かりやすくなっているとしても、製品の違いをサイト上でしっかりと説明しなければならない。
製品を比較するためのツールを提供すれば、ユーザは製品を選びやすくなり、意思決定を誤ることも減って、結果的には売り上げを伸ばすことになるだろう。しかし、そのようなツールが機能するのは、製品の違いが簡潔に、明瞭に記されている場合に限られる。どの部分に違いがあるのかをはっきり示すことなく、ただ仕様の一覧を掲載するだけでお茶を濁しているウェブサイトがあまりにも多い。
5. 再注文のサポート
継続的にウェブサイトを利用して買い物をしてもらうための最良の方法はすでに述べたとおりだ。ニュースレターを配信し、買い物をする気がないときにもあなたのウェブサイトを思い出してもらうこと。そうしておけば、何かを買いたいと思ったときにも思い出してもらえるはずである。
もっと お金を使ってもらうには、再注文をしやすくすることだ。同じ商品が何度も繰り返し必要になることは多い。そのたびに5回クリックして、階層を5つ進んでもらわなければならないなんて申し訳ない。B2Bのサイトなら、使用中の機器で使う消耗品や予備のパーツ、アクセサリーなどの注文が繰り返しされる場合は多いはずだ。こういった商品の追加注文を簡単にできるようにしてあげてはどうだろうか。
先月行った調査の一つで、テストに協力してくれたユーザが特に高く評価した機能があった。オンラインの食料品店FreshDirectのウェブサイトでは、前回の買い物リストから再注文ができるようになっていたのだ。
再注文は、ウェブサイトのインターフェイスだけでなく総合的なユーザ・エクスペリエンスに関わってくる。再注文を視野に入れて、取扱品目の構成を検討しよう。昔から扱いのある製品は取り扱いを続けて、気に入ってくれているお客様が買い換えられるようにしよう。新商品を売り出すときには、サイズなどの規格をそれまでの商品と同じにすること。1年前にセーターを購入したお客様が同じセーターの今年のモデルを買おうとしているとしよう。同じサイズを選びさえすれば、去年のものと寸分違わず身体にフィットすることを約束してあげられなければならない。購入前に試着をすることのできないオンラインショップにとってサイズ表記を一定に保つことは、店頭販売に比べて非常に重要だ。
6. 簡潔なテキスト
オンラインコンテンツのガイドラインにそってテキストを書き改めるだけで、多くのウェブサイトやイントラネットがそのユーザビリティを現状の倍にまで向上できる。テキストの改善が、すぐにでもできる重要な取り組みの一つであることはおそらく間違いない。しかし、トップ10に顔を出すことは稀だ。なぜなら、一度きりの修正で終わらないからである。良いライターを雇って、ウェブ向けの書き方を教え込まなければならない。コンテンツのユーザビリティに詳しい優秀な編集者に編集してもらう必要も出てくる。
とても費用がかかるかもしれないが、それだけの価値がある仕事を編集者はきっとしてくれるだろう。
7. 高齢者へのサービス
高齢者のインターネットユーザが急速に増えている。実際、先進諸国であれば、まだ増加の余地が残っているのは高齢者だけと言っていいだろう。若い世代でインターネットに関心がある人はすでにアカウントを持っているからだ。
高齢者の多くは、お金にも時間にも余裕がある。歳をとって動き回るのが難しくなれば、持て余すほどの大金を使う場所としてインターネットに意識が向いてくるのはごく自然なことだ。高齢者は、サイトを荒らし回ることもなく、流行を追いかける若い人たちと違って忠誠心が強いという傾向もある。
なんと言っても、多くのウェブサイトが高齢者ユーザをひどく軽視しているという現状を利用しない手はない。退職後の高齢者も利用する可能性の高い政府機関のウェブサイトでさえ、30代かそこらの年齢層を基準に設計されている。高齢者には難しすぎて使えないというウェブサイトが多い中で、そのニーズを受け止め、高齢者にも使いやすい見事なウェブサイトを例外的に提供してくれるところがあれば、喜んでお金をつぎ込んでくれるだろう。(ましてや、高齢者のニーズは決して特別なものではない。高齢者にも使いやすいウェブサイトを設計することは、障碍を抱えるユーザに配慮するときほど大変ではない。おまけに、高齢者の数の方がずっと多い。そして、その多くはお金に余裕がある。)
8. 贈り物をサポート
ウィッシュリストやギフト券は、売り上げを増やし、新しい顧客を獲得するのにもってこいの機能で、あまり予算を割かずに実現することができる。
9. 検索
検索は、このリストに載るべきではないかもしれない。検索機能の向上がもたらす利益は膨大だが、投資もかなり必要となる。サイト再設計の第一歩として今回ご紹介した他の項目に比べれば、随分と費用がかかることになるだろう。検索機能の費用便益比率は、他の部分を改善したときに比べて驚くほど魅力的なわけではない。それでも投資の価値があると判断される場合は、是非試してみることだ。
ウェブを使うときの主要なインターフェイスとして、ユーザはますます検索に依存するようになっている。インターネット全般で見れば検索の機能性は随分と向上したが、個々のウェブサイトやイントラネットではまだまだ悲惨な状況にある。
これを改善しようと思うなら、より高性能の検索ソフトを購入してインストールし、コンテンツとユーザのクエリーにあわせて調整することになる(自動スペルチェック機能を適応させるなど)。コンテンツを修正しなければ検索が機能しないという厄介な場合もある。たとえば、ページの中身を簡潔にまとめた巧みなページタイトルを用意しなければ、検索でヒットしても中身の想像がつかないために結局クリックしてもらえない、という事態になりかねない。もちろん、ユーザの言葉で書いてあげることが重要だ。
検索性を高めるためにコンテンツを書き直すとなると、費用がかかる。しかし同時に、ユーザが一般の検索エンジンを使ったときの検索結果にも反映されるので、検索順位を上げられるはずだ。SEO(検索エンジン最適化)は、インターネットを使ったマーケティング戦略の中でも投資対効果が高い。ほぼ間違いなく無視されるバナー広告に予算をつぎ込むよりも、ずっと効果の期待できる投資になるはずである。
10. ユーザテスト
ユーザテストは、本当なら#1として紹介したかった。ほんの少しの投資で、ウェブサイトをしっかり改善できるからだ。しかし、ユーザテストの必要性をいくら繰り返し主張しても、ほとんどの読者が耳を貸してくれないということはもう分かっている。自分で調査を実施するよりも、どうすれば良いか言ってもらってウェブサイトに反映させるだけの方が、人々は好むようだ。
不評なのは分かっていても、自分でユーザテストをやるべきだと進言したい。一般に公表されている調査レポートを読むだけでは解決し得ない、業界特有の課題がきっとあるはずだ。それに、安くユーザビリティ評価を実施する方法もある。特に、あまり費用のかからないペーパープロトタイプを使えば、設計のまだ初期の段階でインターフェイスをテストすることができる。
おまけ:ロイアリティプログラム
航空会社がやっているマイレージプログラムを真似て、ウェブサイトへのアクセス数をポイント化する常連客プログラムなるものを提案し続けてもう10年になる。このアイディアを採用してくれたウェブサイトはいまだにゼロで、今回ご紹介した10個の方略のように高い投資対効果を約束するとは言えない。しかし、おまけのアイディアとして是非聞いて欲しい。検索エンジンの君臨に歯止めをかけるために、そしてインターネットの価値を生み出しているウェブサイトにもっと多くを還元していくために、これ以上の方法はないと思われるのだ。
最近、オンラインショッピングの様子を観察していて気づいたのだが、特定のウェブサイトをひいきにしているユーザが少し見られるようになってきた。つまり、検索エンジンではなく、自分のお気に入りのサイトから買い物を始めるユーザが増えてきたのだ。ひいきにしても良いと思わせるだけのウェブサイトが、少しではあるが遂に出来てきたということなのかもしれない。
もっとひいきにしてもらおうと思うなら、繰り返し使ってくれるユーザに何かお返しをしよう。割引をしたり、送料を無料にしたり、もちろんアイディアとしては悪くないが、ウェブサイトはコンピュータだ。こういった昔ながらのアプローチを超える何かをできるはずだ。たとえば、年末になると毎年かならず売り切れてしまうような限定品があったとしたら、ひいきにしてくれているユーザがまず注文できるようにしたり、次の入荷時に一般のお客様に先行して予約を受け付けたりすることもできるだろう。
騒ぎに惑わされず、お客様のことを考える
今回ご紹介した投資対効果の高いアイディアのすべてに、一つの共通点がある。いずれも、顧客にとって価値あるものにすることで、ウェブサイトの価値をあげることを狙っている。ユーザが欲しがっているもの、必要としているものを提供しようとしているだけだ。業界紙が好んでとりあげる必要以上の大騒ぎとは関係がない。ユーザは基本に戻って欲しいと思っている。ユーザにとって本当の意味で重要な、基本的なところにこそ投資をして、改善して欲しいと思っているのだ。
企業にとって、インターフェイスのデザインは売り上げにつながるものでなければならない。実行あるのみ。流行や最新の機能を追いかける必要はない。基本に立ち返り、基本を正そう。
2007 年 3 月 12 日