企業ポータルは花盛り

23社のイントラネット・ポータルのユーザビリティ分析を行ったところ、その力強い成長ぶりや、コラボレーション機能の増加、機能横断的な統制を目にする結果となった。

一般的なポータルサイトは、きわめて変わりやすい存在とならざるを得ない。数年ごとの流行り廃りに翻弄される運命にあり、一年前にはあこがれの的だったサイトでさえ、破綻をきたしたり安値で買収されてしまうことも多いのだ。ただし、企業の内部では話は別である: 企業ポータルが向かう方向はただ一つだし、それは今も伸び盛りだ。イントラネット・ポータルを構築する企業はますます増えつつあり、その機能やユーザビリティはひたすら改善され続けている。

われわれがイントラネット・ポータルにおける前回のユーザビリティ評価を実施してから3年が経った。そろそろ評価を改めてもよい頃だ。今回は、23件の企業や組織についてのケーススタディを集めた。これらの新たなデータは、初版と第2版のレポートで取り上げた25件の企業から得た情報を補足している。したがって、イントラネット・ポータル向けの現在のガイドラインは、イントラネット・ポータルに特化したユーザビリティ調査を始めてからの5年間に渡る、48件の企業と組織についての経験の積み重ねに基づいていることになる。

今回まず分かったのは、これまでの62種類の分析結果がすべていまだに有効であることだ。世の中は大きく変わったが —— そして新たな発見も多いのだが(今回のレポートでは合計117件のベストプラクティスを掲載している)—— ユーザエクスペリエンスを向上させるためのベストプラクティスに関しては、それほど変化がない。ウェブの技術は日進月歩だし、IT企業は次々と新たなウェブサービスを繰り出しているが、ユーザビリティ周りの変化はずっと穏やかなのだ。なぜなら、ユーザビリティの問題は人間本来の性質に基づいているからである。

一例を挙げると、ユーザごとの役割に基づくパーソナライゼーションはまだまだ普及していないことが、今回の調査でも再確認できた。どんなに勧めたところで、企業ポータルのカスタマイズ機能を利用するユーザなどめったにいないのだ。(これは、ユーザのは聞くべからずという法則の根拠となるもっともな具体例でもある。)

ここで興味深い例外となるのが、大学のポータルサイトである。そこでは多くのユーザがカスタマイズ機能を使いこなしている。なぜだろうか? おそらく大学関係者は、何かをいじり回したり、何事にもチャレンジしたがる傾向が強い人々だからだろう。

 

成熟しつつ新規参入も多いポータル市場

昔も今も、それ一つで万事解決できるようなポータル製品はない。したがって私は相変わらず、ベンダー各社について中立な立場を取っている。とにかくイントラネット・ポータルのクオリティは、どんな技術的なプラットフォーム —— それはデザインチームの仕上げを要するユーザエクスペリエンスの概略図となるにすぎない —— を採用しているかではなく、どのように設計・運用されているかによって決まるのだ。

いずれかのポータル製品ベンダーを贔屓するつもりはないが、その中の一社であるBEAの見解はぜひとも紹介させてほしい。彼ら曰く、ポータル市場は“急成長中”であり、2011年には14億ドルの年間売上額が見込まれると述べているのだ。この売上予測について私はコメントできる立場にないが、ポータル市場がきわめて活性化していることは間違いない。

われわれが初めてイントラネット・ポータルの調査を実施したのは5年前だが、そのコンセプト自体はもっと昔からあったはずだ。それなのに、企業イントラネットの多くは今になってようやく成熟期を迎え、やっと一通りの機能が揃ったポータルに生まれ変わりつつある。過去に調査したもっと大規模で完成度の高いポータルの中には、申し分のないレベルに達しているものもあるが、そのような企業でさえ、シングルサインオンの理想郷(詳しくは後ほど)を目指したり新たなコラボレーション機能を追加しながら、さらに進化を続けている

イントラネット・ポータルに関するわれわれの知識は、年々成熟度を増しながら広がり続けている。レポートの厚さを、これまで集めた情報量を示す単純な目安としてみると、5年前には104ページだったものが今回は343ページにまで増えている。つまり、イントラネット・ポータルとそのユーザビリティについての知識が、年間27%の割合で増えていることになる。

 

縄張り争いから機能横断的統制へ

これまでの調査と比べると大きな変化が一つある。過去2回のレポートでは、イントラネット・ポータルのコンテンツの一貫性を保とうとしても、各部署の側がその要請に応じるのを拒むという、縄張り争いをめぐる話が大勢を占めていた。。それが今では、縄張り争いもなりをひそめ、企業全体をリードするツールとしてポータルがもたらすメリットがますます認知されつつあるのだ。

ほとんどの企業は、部門をまたいだ協力を取り付ける手段として、機能横断的チームや推進委員会を組織することを認めている。IT部門の(一見すると)偉そうなイントラネット担当チームの力で、他の部門にポータルの運用を押し付けている場合に比べ、よりソフトなこのアプローチの方がずっとうまい具合にポータルを統制できる。

ただし、成功するポータルプロジェクトというものは、組織全体から気のいいスタッフをなんとなく寄せ集めただけで進められるものではない。ポータルは、誰かがちゃんと面倒を見なくてはならないものなのだ。組織の規模が大きくなれば、それはフルタイムの業務にも匹敵する。そこまで大規模ではない組織でも、決められたポータル担当者が、正式な業務の一部としてポータルの運用に責任を持たねばならない。

イントラネット・ポータルはいったん公開されれば終わりという一回限りのプロジェクトではない、と理解しておくのは、とりわけ重要だ。ポータル担当者は、公開後もきちんとした運用を続けねばならない。さもないと、イントラネットはポータル崩壊の憂き目に会うだろう。新たな機能を取り込むにしろ、検索などの従来の機能のクオリティを保つにしろ、いつでも対応できる専任者が必要だ。よい見出しを付けたり、イントラネットIAをちゃんと実践するといった努力を続けないと、検索のクオリティは驚くほど急降下してしまう。

 

シングルサインオン: いまだ達成困難

シングルサインオンは、イントラネットの世界ではネス湖の怪獣のようなものである。誰もが噂に聞き、存在すると信じてさえいるが、実際には誰もまだ見たことがないというわけだ。

5年前の初調査の時点で、シングルサインオンがサポートコストを大幅に削減すると共に、ユーザの生産性と満足度を劇的に向上させることは早くも明らかだった。(ヘルプデスクへの問い合わせの大部分はパスワード絡みの問題である。)当時、シングルサインオンは実用的なアイデアというより、はかない願い事に近かった。

二度目の調査では、シングルサインオンに秘められた可能性が —— そしてその実現の難しさが、あらためて分かった。

三度目の調査で分かるように、正真正銘のシングルサインオンを実現している例は、昔も今もきわめて稀である。大きな成果が見込まれるものの、非常に達成困難だと結論付けるしかない。とは言え、Kaiser Permanente(※1)が“軽量版サインオン”と呼ぶやり方を目指す、興味深い実用的アプローチも目に付き始めている。ユーザが日々ログインを要求される回数は、1回きりにまで減らすのは無理だとしても、なるべく少なくする努力をしよう。また、ログインを要求するリンクがある場所では、ユーザがそれをクリックする前にログインが必要なことを知らせておくと、機嫌を損ねなくて済む。

(※1)訳者注: 米国最大手の民間ヘルスケア組織の名前。(ウェブサイト

 

ニュースとコラボレーション: ポータル原動力の昔と今

古きよきニュースツールは、いまだにイントラネット・ポータルの主要アプリケーションの一つである。だが、もはや定番となったツールだというだけで、おざなりにしてよいわけではない。よくあることだが、誰もが知っている —— そして使ってもいるような —— “退屈な”代物に手を加えれば、もっとも大きな成果が得られるのだ。

ポータルでは、ニュースが2つの異なる役割を担っている:

  • 統率: すべての従業員が情報を入手でき、一貫性のあるメッセージを受け取れるようにする。
  • ナローキャスティング: 専門性のあるニュースを集約・配信し、各ユーザが必要とする情報だけに絞られた形式でニュースを見られるようにする。

ポータルの利用を促すために、今ではあちこちの企業がコラボレーションツールを追加しつつある。これは、ブログやウィキなどの“Web 2.0”の機能の形を取っていることが多い。われわれが調査した企業では、これらのツールを管理するスタンスはさまざまであった。インターネットでの一般的なレベルと同じオープンな状態(およびカオス状態を招くリスク)を認めているところもあれば、もっと制限の厳しいアプローチを採っているところもあった。

いずれの場合も、イントラネット・ポータルのコラボレーション機能は概してビジネス向けのものであり、すべての投稿が従業員の実名と紐付いているために責任の所在がはっきりしているというメリットがある。イントラネットで署名付きの投稿をして、翌日カフェテリアで顔を合わせざるを得ない同僚にその件を伝えておけば、言い争いはそれほど激しくならずに済む。

われわれの事例研究は、きらびやかなWeb 2.0のトレンドにはさほど左右されることなく、むしろ“企業 2.0”の機能を導入するためのビジネスケース(※2)を作る必要があることを示している。そのような機能の多くは、実はオープンなインターネットよりもイントラネットでこそ役立つのだ。ただし、統制を行うための組織とルールが確立しているか、計画中の機能があるならその本当のビジネス価値が分かっているかを、まず確認しておかねばならない。ビジネスケースが作れないという場合は、既存の機能の改善に注力した方が良い。

(※2)訳者注: 企業経営に関する用語で、業務プロセス改善のための構造化された提案を指す。

 

ユーザ情報を踏まえたデザイン

ポータル担当チームのほとんどは、何らかのユーザ調査結果に基づいてデザインを行っている。ユーザテスト、サーベイ、カードソーティングなどは、いずれも他のユーザビリティ調査手法と共によく利用される。

ここで問題なのは、(ユーザが実際に何をするかに注目する)ユーザテストよりも、(ユーザが何を言うかを記録する)サーベイの方がよく利用されていることだ。過去にポータルプロジェクト向けのユーザテストを実施したことがあるチームは、その手法を大いに支持し、テストの結果を高く評価している。あいにくながら、ユーザテストの真価は実際にやってみるまで理解できないことが多いのだ。私がその重要性を訴えるのも、何よりもまずユーザを観察してきた個人的経験によっている。無論、一種のニワトリと卵の話ではあるが、イントラネット・ポータルがユーザテストの結果に従っている事例はますます増えつつある。

 

測定不足のROI

ポータルプロジェクトのROI(投資対効果)を算出できるだけの数値データを集めているチームはごくわずかだ。今回、賞賛すべき例外となったのはDellだった。彼らはポータルが年間3,600万ドル相当の生産性向上をもたらしたと計算している。このROIデータは、Dell社内の標準的なプロセス改善手法によるもので、シックスシグマ手法がその基本となっている。

Dellほど規模が大きくない企業では、ポータルの効果もそこまで大幅には上がらないはずだが、やはりROIは見積もったほうがよい。どこまで厳密に計算するかは各組織の自由だ。われわれ自身も、他のやり方で済むなら、お決まりの標準としてのシックスシグマ手法にこだわりたくはないと考えている。一般的なイントラネットのユーザビリティ調査でわれわれが採用しているもっとシンプルな手法でも、何の問題もなくポータルの生産性向上は計測できる:

  1. 従業員の主要業務の数を決める。
  2. 従業員がそれらの業務をどのくらいの頻度でこなしているか調べる。
  3. 従業員の平均時給を調べる。(もっと高度なアプローチを採るなら、おもな職務によって従業員を分類し、職務ごとの利用頻度や平均時給を基にしてこの分析を行ってみる。)
  4. 従業員が現状のデザインで所定の業務をこなす様子を観察し、その所要時間を計る。時間を計測するには、特別な装置や大がかりなユーザビリティラボがなくても、ストップウォッチ一つで間に合う。実際われわれも、ベンチマークを計測するために、こじんまりした会議室でクライアントにテストしてもらうことがよくある。
  5. 業務達成までの所要時間、各業務の実行頻度、従業員の時給、イントラネットのユーザ数をすべて掛け算する。その結果が、現状のデザインで従業員に業務を達成してもらうためのコスト見積りとなる。
  6. このコスト見積りを、データを計測しなかった業務も計算に入れたものとなるように調整する。たとえば、主要業務のうち3分の1について計算した場合、結果を3倍すればすべての業務についてのほぼ妥当な数字となるはずだ。もちろんこれは、そのイントラネットでもっとも手厚くサポートされている業務ではなく、無作為に選ばれた代表的業務を例として計算したという前提での話だ。

新たなデザインのポータルを公開した後で、このプロセスをもう一度たどってみよう。普通は、デザインリニューアル後のコスト見積りの方がずっと低くなるだろう。2回の見積りの差が、新たなデザインによる生産性向上を示すことになる。さらにそこからプロジェクト費用を引き算すれば、ROIの数値が出る。

なにはともあれ、このようなROI計測はぜひともやってみてほしい。Dellという例外はあったが、調査の対象となったチームの数々も、ポータルプロジェクトの価値を示すには、まだユーザ満足度の向上や利用頻度のアップなどといったよりソフトな指標に頼っていた。

新世代のポータルではますますコラボレーション機能が強化され、コミュニティの活性化を計測することによって、そのような機能が全社的に好評を博しているという点も主張されるようになってきた。また多くの組織が、情報へのアクセスの改善を重要な達成目標とみなしている。従業員が企業内の情報をどれくらい把握しているかについて、デザインリニューアルの前後での変化を計測するのは不可能ではないが、今のところポータル担当チームでは、社内でのナレッジの普及度を調べる場合にも定性的アプローチを採る傾向にある。

リニューアル前の散らかり放題の状態に比べれば、新たにデザインされたポータルの方が格段に出来が良いのは一目瞭然なので、実は几帳面にROIを計るなんて時間の無駄だと思っているチームも多い。幸いなことに、大抵はその通りなのだ。失敗に終わったポータルプロジェクトも目にしてきたが —— そして、用心すべき落とし穴がたくさんあるのも確かだが —— 優れたイントラネット・ポータルは、非常に分かりやすい価値をもたらすのである。

2008 年 7 月 14 日