ウェブは社会変化の大きな原動力になるだろう。これらの変化がまたウェブの大きな変化を引き起こし、変革のサイクルはますます加速することになるはずだ。歴史を振り返ってみよう。自動車の登場にともなって、人々は郊外に住むようになった。この結果、ハイウェイは混雑し、通勤用自動車にはエアバッグを搭載する必要が出てきた。

ウェブ管理の間違いトップ10について論じたコラムで、私は、ほとんどの人がウェブの戦略的な影響力を過小評価していると指摘した。従来の観点からウェブを考えている限り、現状のプロセスをオンラインに載せただけの無難なプランに落ち着くのが関の山だ。戦略的な思考で臨まない限り、まったく新しい物事の進め方にどんな利点があるかは理解できないだろう。

このコラムは、ウェブを戦略的に考えることで可能になる新しいゴールの実例である。ここで挙げるのは、そのうちのひとつの例に過ぎない。ウェブははるかに巨大な社会変動を引き起こし、あなたのビジネスのやり方も大きく変えることだろう。こういった変化をすべて予測することは誰にもできない。予想したことの中には、実現せずに終わってしまうものもあるだろう。重要なのはウェブの未来を間違いなく予想することではない。先行きの可能性にどれだけのがあるかを理解することで、それに対する備えは万全か、サイト運営の方向性に間違いはないかといったことを確かめることが大事だ。とどのつまり、変化というものは、あなたが起こすから起こるのだ。

居住パターンの変化

ウェブを始めとしたインターネットコミュニケーションツールのおかげで、10年以内に地理的な問題はほとんど解消してしまうだろう。必要十分なコミュニケーション技術があれば、世界中どこにでも住める。それでもなお共同作業は可能だし、狭い範囲にみんなで集まって住んでいた時代と変わらない生産性を上げることができる。

距離の問題が死に絶えるまでは、まだ時間がかかるだろう。非常に安価な遠距離コミュニケーションは必要だが、それだけでは十分でない。確かに、大西洋をはさんでの通話が1分1セントで済むようになるのも時間の問題だろう。だからといって、対面会議の代わりに通話で済ませられるようになるわけではない。ランチタイムの代わりになるような技術などまずできないだろう。だが、それに近いシステムなら設計できる。

地理的な隔りの問題を解消するためには、2つの技術的進歩が必要だ。

  • 高解像度画面: 遠隔会議の参加者が人形劇のように見えるようではだめだ。高解像度テレビでは不十分だが、10000×6000ピクセルくらいの画面があれば、恐らく納得できる映像が得られるだろう。超高画質のビデオを送信できるくらいの帯域幅が可能になるのは、インターネット帯域幅に関するNielsenの法則によれば、10年ほど先の話になるだろう。
  • 今よりもっと強力なコラボレーションソフトウェア。人々が共に働き、リラックスする上で現実的な手助けになるもの。現在のグループウェアは、構造化された労働環境の一部として、それを利用することを強制された人々に対して役立っているに過ぎない。

こういった進歩のおかげで地理的な問題が着実に解消されるにつれ、人口密集地域から脱出する人がどんどん増えるだろう。中心地というものがなくなるくらい完全に人口分布が平均化することはないかもしれない。だが、ウェブのおかげで、地価の高い地域、例えばマンハッタンとかシリコンバレー、ロンドン、東京といった地域で、今後5年のうちに不動産価格が暴落する可能性は十分考えられる。

流通パターンの変化

離れた地域に人が移り住むようになると、よりたくさんの物理的なモノをあっちこっちに送り届ける必要が出てくる。居住パターンの変化を待つまでもなく、ウェブのおかげで通信販売は非常に盛んになるだろう。実際の店舗に行くよりも、画面から商品を注文する方が簡単で魅力的になるからだ。

マイクロコンテナ: 原子のパケットネットワーク

大型コンテナ(トラックの大きさ)は、海運業界に革命を起こした。慣れた所なら、船は港でじっとしていなくてもよくなった。クレーンその他の設備も標準化された。船ごとに船倉の状況を追いかけるかわりに、貨物ラインではコンテナを追跡して、適当な船に振り分けるだけでよくなった。コンピュータの処理能力向上にともなって、今では、同じアイデアをもっと小さなユニット、すなわち小荷物のサイズに適用できる。

物理的流通の需要増は、一連の標準荷物箱を決めることで解決できる。積み上げやすく、見つけやすいように、様々なサイズのものを定義するのだ。追尾は決められた位置につけられたバーコード、組み込み型小型発信機で実現できるだろう。あるいは何かまったく新しい技術が開発される可能性もある。

マイクロコンテナのネットワークは3種類生まれるのではないかと予想している。

  • 通常の荷物
  • 冷凍荷物: この荷物は、必ず一定温度以下の環境で保存されることが保証されている。断熱材や冷却用物質を、ひとつひとつの荷物に入れる必要はなくなる。
  • 壊れもの: ある限度以上の力はかからないよう保証されている。たくさん詰め物をしなくても、形が崩れることなく届けられる。

それぞれの荷物をいくつかある標準マイクロコンテナにし、主な荷物をカバーできるように流通ネットワークを完全に設計することで、配送は今よりはるかに安価にできるはずだ。ウェブでの注文に関する送料・手数料を劇的に下げることが可能だ。さらに追跡システムを標準化することで、今、荷物がどこにあるか調べるのも、途中で配送先を変更するのも、ごく簡単にできるようになるだろう。例えば、たまたま早く退社した日には、午後からの荷物は自宅へ届けてもらうということができる。ウェブを使えば、こちら宛に届く郵便物を受取人が監視して、宛先を振替えることもできるだろう。

特許の金脈

マイクロコンテナシステムの詳細を見極めたわけではないが、これを実現するには数多くの発明と、技術の進歩が必要ということは確信している。このプロジェクトに取り組んだ人は、誰でも非常に価値の高い一連の特許を取得できるだろう。

一般的にいって、ウェブは、従来数多くあったビジネス環境の変化とは異なっている。技術的裏付けが必要なため、新しいビジネス戦略の多くが特許に結びついているのだ。この特許金脈に乗り遅れないためにも、最重要の戦略的ビジネス推進力としてウェブに取り組まれるよう、企業の方々には強くお薦めしておく。少しでも躊躇していると、生き残りに必要な特許を競争相手に残らず取られてしまうだろう。未来主義はもはや贅沢品ではない。それは、しかるべき特許を押さえるために必要な防御手段なのである。

1998年5月31日