Webデザインはアウトソースすべきか?
ノー。ウェブデザインはネットワーク経済におけるコアコンピタンシーである。となれば、あなた自身がこの分野の系統的な知識を身に付けておく必要がある。
インターネットにフォーカスした企業にとって、ウェブは顧客とのコミュニケーションをとるための基本的な手段となる。ウェブデザインはどんな広告キャンペーンより、どんなマーケティング用パンフレットより、はるかに重要な役割を担っている。ウェブデザインは、ビジネスモデルを現実化したものである。中にはそれが製品そのものという場合もある。サイトは、その企業のセールス担当、店頭売場、配送システム、顧客サポート、それにサービスプログラムの役割を兼ね備えている。ウェブデザインの戦略的重要性や、ウェブのユーザビリティがインターネット上での顧客とのインターフェイスに与える影響力を考慮すれば、アウトソーシングはいい考えとはいえない。
ウェブプロジェクトは、従来のプロジェクトとはかなり違う。このために、あらゆる企業が例外なく初めてのウェブプロジェクト管理ではミスを犯している。プロジェクトをアウトソースしていると、自社内で系統的な学習をするチャンスはほとんどなくなる。このため、その後も同じ過ちを何度も繰り返す運命にあるのだ。自らのウェブプロジェクトには、自らが基本的な責任を持つ。こうすれば、次回にはどうやったらもっとうまくやれるか、自社が学ぶこともできるだろう。別の会社に金を払って、彼らのスキルを伸ばしてやることはない。
特に、以下の各点については、その決定権、指揮権を手離してはいけないし、また効果的な実践方法を学ぶ必要もある。
- インターネットビジネスモデル
- 顧客が利用したくなるようなオンラインサービス
- 情報アーキテクチャ
- 全体的なサイトのルック&フィールの基準、テンプレート、それにナビゲーション
- ユーザニーズとサイトデザインを密接なフィードバックで結んだユーザビリティプロセス
有能なウェブスタッフを引っ張ってくるのは難しい。このため、いい人が見つかるまでの間、急ぎの仕事をアウトソースするのは確かに無理もないことだ。また、社内リソースの能力を上回っているとか、まだ習得していないスキルを要するといった特殊なプロジェクトなら、アウトソースも意味があるだろう。こうした場合でも、デザイン全体に関する戦略的指揮権を手離してはいけない。
インターネット上での自社の運命と未来についての主導権を保つ限り、戦略コンサルタントからアドバイスを受けるというのは有意義だろう。上級コンサルタントならたいていそうであるように、経験豊富なエキスパートの幅広い視点と洞察から得られるものは大きい。だが、どんなコンサルタントも、インターネット上のビジネス運営については教えられない。今の段階では、確実なことは誰にもわからないのだ。また、コンサルタントに、プロジェクトを任せたいとも思わないだろう。それは雇ったコンサンルタントにCEOをやってもらおうと思わないのと同じだ。コンサルタントはスパーリングパートナーのようなもので、あなたの上司ではない。
アウトソースできること
基本的なウェブデザイン戦略は社内にとどめておくべきであるが、ウェブデザインプロジェクトの多くの部分はアウトソーシングできる。
- ユーザビリティ: 部分的に
- プロジェクトを成功させるためには、ユーザビリティ工学が開発工学と密接に結びついている必要がある。ウェブ開発プロセスに今まで以上に迅速なユーザフィードバックループを統合化することは、サイトのユーザビリティを大きく向上させるためのキーになる手法のひとつだ。ユーザビリティの専門家を毎回プロジェクトミーティングに招いて、デザイン上の主要なアイデアについて欠かさずフィードバックをしてもらうだけでも、完璧なウェブプレゼンスが可能になる。このように、あらゆるウェブチームには、フルタイムのユーザビリティスタッフが欠かせない。同様に企業の全体的なユーザビリティ方針や手法は社内のユーザビリティ戦略家が管理しなくてはならない。その戦略を微調整し、最先端のものであることを確認するために、外部のエキスパートのアドバイスをもらうというのは、まったくすばらしいことだ。外部のユーザビリティエキスパートにデザイン評価を依頼するのも非常に役に立つ。彼らの新鮮な視点から、内部の人間には不可能な洞察を得られることが多いからだ。最後に、特定のユーザビリティ活動の多くは、外部の契約業者に依頼して実施することができる。この場合も、全般的なユーザビリティ方法論の一環として、ユーザビリティ戦略家の監督のもとに実施することが必要だ。例えば、ユーザのアンケート調査は調査会社に、ユーザビリティテストの参加者集めはフォーカスグループ会社に依頼するともっとも楽に進む場合が多い。
- イラスト: 可能
- スタッフの中にイラストレーターが数人いれば、特別記事や外部の人間にはわかりにくいこみいった情報にグラフィックをつけることができる。だが、大部分のイラストは、ヴィジュアルデザインの才能を備えた人たちにアウトソースできる。事実、サイトには非常に多くのスタイルのイラストが必要で、社内スタッフの少人数のアーティストではまかないきれないことが多い。
- ライティング: おそらく可能
- 原理上、特定の記事、製品紹介、プレスリリースその他のテキストコンテンツについて、その執筆をアウトソースするのは簡単なことだ。一連のページをうまく書き上げるために、プロのライターをスタッフにしておく必要はない。主な問題は、そこで必要となるウェブ向けの執筆スタイルが、従来の紙出版物向けの執筆スタイルとは大きく異なるということである。ライターがオンライン向けと印刷向けのライティングを行ったり来たりしている場合、彼らの仕事では印刷用のスタイルが支配的になるだろう。その結果、彼らが手がけたウェブページのユーザビリティは低くなる。よって、ウェブ専門に書くフルタイムのライターを確保しておくメリットは非常に大きい。
- コピー編集者: 可能
- 自社サイト用のスタイルガイドをひとつに決めてあるなら、外部のコピー編集者に依頼して、そのスタイルに適合するようにページを編集してもらうことができるはずだ。
- 翻訳: 可能
- 海外向けサイトの制作において、言語的な側面についてはプロの翻訳家にアウトソースするべきである。翻訳家はインタラクションデザインやユーザビリティに熟練しているわけではないから、翻訳の終わったサイトを国際ユーザビリティ調査にかける必要があるだろう。これは現地のユーザビリティ専門家にアウトソースすることができる(だがその管理は社内のユーザビリティ戦略家がやるべきだ)。
- ソフトウェア開発: バックエンドは可能、ビジネスロジックは不可
- オペレーティングシステム、データベース、HTTPサーバ、暗号化ソフトウェア、それにプログラム言語、スクリプト言語といったものを自社で制作するべきではない。同様に、あなたの会社のビジネスプロセスや顧客関係を決めてしまうようなものでないなら、標準的なバックエンドソフトウェアはアウトソースするのが一番だ。実例としては、クレジットカード認証(あるいはその他の支払いシステム)、在庫管理、それに検索エンジン(ただし、ユーザがあなたのサイトを利用する上で役立つ機能になるよう、検索エンジンのインターフェイスは自社でデザインしたくなるかもしれない)といったものがあげられる。自社のビジネスロジックソフトウェアに関しては、その主導権を手離してはいけない。なぜなら、それこそが、あなたのビジネスモデルをインターネットで具体化するものだからだ。例えば、リピートユーザ向けのボーナスプログラムを開発したとしよう。その場合、どの顧客にどんな特典を与えるか決めるルールについては、自社で主導権を握っておきたいだろう。
- サーバホスティング: 可能
- 反応時間は、ウェブユーザビリティの中でも最重要項目である。だから、あなたのサーバは、メインのインターネットバックボーンに近ければ近いほどいい。自社ビルにT-3回線を引こうとするよりも、接続環境のいいデータセンターにサーバをホストしてもらうのが最良の解決策、という場合が多い。
1998年6月28日