Yahoo!がいい理由(だが悪くもなりうる)
多くの点でYahoo!はうまくやっている。
- Keynoteパフォーマンス指数によれば、Yahoo!のホームページの平均ダウンロード時間は3.0秒である。大手ウェブサイトの中ではもっとも高速な部類に属する。とはいっても、理想的なハイパーテキストのユーザビリティに求められるスピードに比べれば、3倍も遅いのだ。
- ページデザインは、ミニマリストデザインの典型である。飾りけがなく単純なHTMLなので、一番古いブラウザであっても正しく表示されるだろう。
- リンク付きのハイパーテキストに基礎を置いている。リンク、リンク、リンク。そこら中がリンク。
- 接続するというウェブの特性を生かしている。何でも自分でやろうとするのではなく、数多くの他のサイトとつながることでまかなおうというのだ。Yahoo!のシティガイドは、その代表的な例だ。彼らは、各都市のベストのコンテンツにリンクしているのだ。一から作り上げるより、ずっと豊かなコンテンツだ。
- 高度に構造化されたナビゲーションシステム。文脈(context)と階層的な情報アーキテクチャを重視している(階層構造以外の情報アーキテクチャがありえないわけではないが、わかりやすいし、インターフェイス上の表現にも置き換えやすい)。
- 検索とナビゲーションの統合。検索をかけると、トピックの階層構造の位置にしたがって結果が表示される。
Yahoo!は退屈だというデザイン評論家もいるようだ。たしかにデザイン賞はもらえないかもしれないが、シンプルであることは、それ自体、優雅さを兼ね備えている。事実、デザイン賞というものは、実用に際してもっとも有用なものに与えられるということはめったにないものだ。
Yahoo!があんなにうまくいっている本当の理由は、彼らが新しいメディアを受け入れ、その弱みをどう克服するかではなく、その強みをどう生かすかに着目してデザインしているからだ。インターネットの帯域幅は非常に限られたものなので、Yahoo!はデザインをスリム化し、テレビやきらびやかな雑誌を真似するのはやめることにした。かわりに、自らのサービスの基本を、よいリンクの提供に置いたのだ。他のメディアとの比較で考えれば、リンクこそが、ウェブ(および、初期のハイパーテキストシステム)の根本的なイノベーションなのだ。他のウェブサイトへリンクするかどうかウェブマネジャーの間で議論になることも多いようだ。外部へのリンクを張れば、ユーザをいつまでも自分のサイトにつなぎとめておくわけにはいかない。他のサイトに逃がしてしまうリスクを犯すことになるという者がいる。ひとつの反論はこうだ。いずれにせよ、ユーザは離れていってしまうものだ。だが、役に立つリンクの提供という形でよいサービスをしておけば、ユーザはまた帰ってきてくれるだろう。あるいはこういう反論もある。ウェブ上でもっとも人気のあるサイトが行っているサービスは、まぎれもなく、外部へのリンクを基礎にしているのだ。
Yahoo!が将来直面する問題
- Yahoo!のホームページに掲載されるサービスの数が増えると、ユーザを混乱させたり、うんざりさせたりする危険性が増す。今はまだ大丈夫だが、気をつけたほうがいい。
- リストに抜けがあるという苦情は多い。よいサイトなのにYahoo!には載っていないサイトは数多い。手作業で評価するというやり方は、Yahoo!の本来の強みになっているわけだが、ウェブの規模は、それをはるかにしのぐ勢いで成長しており、これへの対応に苦労しているようだ。
- Yahoo!の検索技術は非常に原始的である。
- 検索結果リストは有益だったが、そのデザインは、もはや拡大しつづけるデータベースの量と、これにともなった検索結果の増大に対応できなくなっている
- 1文字でも入力ミスをしたら、何も見つからない
- そのサイトにぴったりのキーワードが思いつかなかったら、そのサイトは出てこない。用語空間の意味論的モデルを作るためのデータベース構造があっても、単純なキーワード一致の検索以上には役立たない。
- 基本となるYahoo!ディレクトリの検索と、バックアップ用の検索エンジンとの連携が貧弱
- ユーザをよいサイトへ導くための品質評価がない。Yahoo!のカテゴリーの多くには、数100件ものURLがリストされている。どこから手をつけたらいいのか、さっぱりわからない。
- 規模が大きくなるにしたがって、トピックの階層構造はナビゲーションが難しくなってきた。相互参照リンクの利用は、多少なりともこの問題の軽減に功を奏しているようだが、突き詰めて考えれば、もっといい分類方法が見つけない限りユーザビリティは犠牲になることだろう。
- Yahoo!重役の発言によれば、彼ら自身は、検索とナビゲーションの支援をすることがYahoo!の基本的サービスだとは思っていないらしい。ユーザができるだけ速やかにどこかへ行くのを助けることを目的とはしていないのだ。本来ルーツとした範疇を超えるのは、難しいものだ。だが、そもそもユーザがサイトにやってくる動機そのものを軽んじるというのは、無責任もはなはだしい。
Yahoo!に学べること
多くの企業の人たちが、自社イントラネットの入り口を「ミニYahoo!」にしようとしてがんばっている。あるいは、その他の大量のウェブ情報の入り口にしようというところもある。これはいいアイデアだ。イントラネットのナビゲーションが改善されれば、ほとんどの大企業で何100万ドルもの節約になる。
「ミニYahoo!」を構築するにあたって、上記に挙げた強みを覚えておいていただきたい。スピード、構造、明快なナビゲーション、検索とトピック階層構造の統合といった点に力を入れよう。また、分類の階層構造は、内部のモデルではなくて、ユーザの視点から見た情報空間に合致していることを確認しよう。
Yahoo!の過ちは避けねばならない。編集スタッフを配備してサイトのメンテナンスにあたらせ、細部までアップトゥデートなものにしておかなくてはいけない。手に入る限りで最高の検索エンジンを購入しよう。そして、品質の優れた、あるいは推薦できる情報を強調しておくこと。最後にユーザの目的を見定めるために調査を行おう。デザインは、これらの目的をサポートするような形で進めるべきで、ユーザがやりたいはずだと、あなたが判断したニーズに沿うものであってはならない。
Yahoo!の統計データを使って、インターネット全体の中に占めるあなたのサイトのランキングを算出することができる。
ウェブでは広告はうまくいかない
私は何年にも渡って、ウェブでは広告はうまくいかないと主張し続けてきた。また、特に巨大なサイトをのぞいて、ビジネスモデルとしては成立しないとも言い続けてきた。Yahoo!はナンバーワンのサイトであり、広告でやっていける数少ないサイトのひとつだ。実際、Yahoo!は利益を出している。だが、Yahoo!の財務報告は、ウェブ広告は収入源としては非常におそまつなものだということを示している。
- 1998年9月に終了した四半期にYahoo!が上げた収入は5360万ドル。だが、520万ドルは高値を呼んだ株式の販売で得られた資金からの利子収入であり、ウェブサービス自体からの本当の収入といえるのは4840万ドルだ。私の見るところ、この四半期に、Yahoo!は124億ページビューを達成したと見ている(この見積りは、6月の公式発表で示された1日あたり1億1500万ページという数字、および9月発表の同1億4400万ページという数字にもとづいている)。
- この2つの数字で割り算すると、収入は1ページビューあたり0.4セントということになる。
- 広告をベースとしたサービスでは、1ページあたり0.5セントにもならないのだ。それでも、そのサービスがYahoo!ほどのトラフィックを生み出せるなら問題にはならない。だが、ほとんどの他のサイトは、こんな低収入では生きていけないだろう。
私は、クリック率は毎年半減するだろうと見ている。昨年、ウェブ全体での平均クリック率は約1%であった。今年は約0.5%だ。1999年にはクリック率は0.25%にまで落ち込むと私は予想している。2001年には0.1%になるだろう。とはいっても、Yahoo!のトラフィック成長率にはCPMを上回るスピードがあるので、黒字を維持し続けることができるだろう。私が心配しているのは、もっと小規模なサイトである。彼らには絶対にマイクロペイメントか、もしくは代替となる収入源が必要である。
1998年11月1日