1999年のWeb予測

3年続けて何かをやると、ウェブの世界では、ほとんど伝統といってもいいくらいのものになる。1996年1997年1998年と予測をしてきたので、1999年の予想に取り組むのは義務であるとすら感じている。誠実さの証として、補足記事も書いてある。1月に行った1998年のウェブ予測が、どれほど正鵠を得ていたか検証したものだ。

もちろん、重要なトレンドなら衰退するまでに1年以上かかるだろう。ウェブは徐々にペースを落として来ている数ヵ月ごとにドラマチックな変化が起こるような時代は過ぎ去ってしまった。1999年12月のウェブの姿は、1998年12月のそれと、おそらくたいした違いはないだろう。ある意味で、これが今年の私の予想の目玉となる。マルチメディアや、その他の派手な技術へ大きくシフトするというようなことは起こらないだろう。

モバイルからのインターネット接続

モバイルからのアクセスは、Eメール、ウェブに次ぐ、第3のインターネットキラーアプリになるだろう。1999年のうちに、携帯機器からワイヤレスモデムを使ってインターネットにアクセスするのは普通のことになるだろう。ヒモなしで利用できるようになれば、「誰でも、どこでも、いつでも接続」というスローガンの元、数多くの画期的インターネットサービスが出現するだろう。

これに関係して次のことが予想される。

  • いつでもオンライン、どこでも捕まえられるようになると、プライバシーがますます貴重なものになるだろう。ユーザは、世界から開放してもらうために、よぶんにお金を払って、スクリーニングサービスを受けるようになるはずだ。連絡を絶つことができるというのが、ひとつのステータスシンボルになるだろう。
  • 携帯機器は、ユーザが常に持ち歩きたいと思うくらい小さくなくてはいけない。だから、ウェブデザイナーは、画面サイズを固定したデザインをやめるべきだ。ウェブページは伸縮自在で、かつ多様な画面サイズに対応できるようでないといけない。よくある質問だが、こんなことを聞くのはもうやめよう。「画面サイズは640ピクセルと800ピクセルのどちらに合わせたらいいのでしょう?」

ウェブ標準の復活

Netscapeの次期バージョン「Gecko」は、標準への100%準拠を歌い文句にしている。これはすごいニュースだ。公式ウェブ標準への対応という点では、Netscapeはこれまでずっと最悪のブラウザだったからだ。バージョン1から4にかけての彼らは、自分たちのやり方(たいていはうまくいかない)を押し通そうとする傾向があった。今回の新しい戦略は賞賛に値する。

数多いMicrosoftの失敗をあげつらって批判するのが大好きな人は多いが、標準サポートという点では、Internet Explorerは常に賞賛を浴びてきた。そのIEが、今や、この決定的な局面でNetscapeの後塵を拝する恐れが出てきたのだ。Microsoftが気づいてくれることを祈ろう。1998年にブラウザ戦争で勝利を収めたからといって、未来の成功が約束されたわけではないのだ。Microsoftは、IE 5での標準サポートを根本的に改善するべきだ。

競争の圧力があるので、ベータ版から最終リリースまでの間に、MicrosoftはIE 5での標準サポートを改善してくるだろうと予想する。もしそうならなくても、ウェブ開発者は標準を遵守し、公式標準でないデザイン要素は敬遠することになろう。それは単純な話で、非標準的な要素を含んだウェブサイトをメンテナンスするのはあまりにも手間がかかりすぎるのだ。標準から外れることで、あるブラウザでの見た目がわずかながら向上するとしてもだ。1999年中に、「このサイトは~に最適化されています」という文句は撲滅されるだろう。この文句は、1995年以来、ウェブを汚染しつづけてきたのだ。

顧客サービスの自動化

顧客サービスは、現実よりもウェブの方がうまくいく可能性を秘めた領域だ。物理的な世界で受けられるサービスに、顧客はますます不満をもつようになってきたからだ。小売分野でのアメリカ顧客満足指数は1994年の76だったが、1998年には71まで落ち込んでいる(尺度は1~100)。

現在のウェブサイトは、よい顧客サービスを提供できていない。ウェブ上で何かを見つけるのはほとんど不可能に近いというだけではない。顧客になるのがとても難しいのだ。円滑な取引と良好なフォローアップを備えたウェブビジネスには、めったにお目にかかれない。特にウェブサイトが苦手としているのは、例外や臨時的なケースへの対応だ。人間行動には、例外がつきものだというのに。例えば、最近私は、ある大手航空会社のウェブサイトでチケットを購入した(いやしくもウェブの専門家たらんとする者は、ウェブ的ライフスタイルを送るべきであるというのが私の持論だ)。旅行日程が変わったので、私のアシスタントはチケットの再予約をしようとした。だが、航空会社内の部署をあちこちたらい回しにされた挙句、インターネットチケットの変更方法はついにわからずじまいだった。

ウェブでの顧客サービスがおそまつだという問題を手っ取り早く解決するには、人間のサービスオペレータを増やすしかない。だが、このやり方は、2つの理由からうまくいかない。

  • サポート電話のオペレータは高くつく。古い企業よりもさらに効率的な運営が求められるeコマースビジネスには向いていない。
  • 人間のオペレータを使うと物理的世界に後退することになり、昔より優れたサービスを提供するチャンスは失われてしまう。

現実世界より、いいものにだってできるだろう。いわゆる「顧客サービス係」とは、実際には「苦情係」なのだということを認識しよう。何かがおかしくならないかぎりは、サポートに電話したりしない。柔軟性のあるウェブユーザインターフェイスを用意しておけば、ユーザは簡単にアクセスできるようになり、誰にも電話しないで問題を解決できる。

中には、人間のサポートオペレータを廃止しようとする企業もある。届いてきたEメールを自然言語システムに読ませ、事前に用意した返信を返すのだ。これは間違ったやり方だ。症状ではなく、病気そのものを根治しなくては意味がない。そもそも、どうして顧客はEメールなんか送ってくるのだろう?ウェブサイトで答えが見つからなかったからだ!Eメールの返信を自動化したところで、自分でウェブサイトを操作してもらうのとたいして変わらない。ただ、ウェブならひとつの操作に対する反応はすぐに帰ってくるが、Eメールでは反応時間が数分に膨れ上がってしまう。お仕着せのEメールの返事には、みんなうんざりしてしまうだろう。Eメールを読んでいるのは、機械じゃなくて人間だと思っているからだ。Eメールは最小限に抑えよう。だが、そのためには顧客中心のウェブサイトが必要で、ここに、ほとんどありとあらゆる問題への答えが、探しやすい形で掲載されていなければならない。

ウェブサイトでのセルフサービス支援が本当に登場すると思っているのかって?これは、eコマースサイトが他社を出し抜く最大のチャンスのひとつであることは確実だ。他のウェブサイトと比較して、というだけでなく、物理的な企業との比較においてもこれがいえる。良質なタスク分析、よいユーザビリティ、それにちょっとしたプログラミングがあれば、よくできた自動化サービスなど「些細なこと」だ。この3つのステップには、労力と専門スタッフが必要とされる。だが、必要なのは一度だけだ。後はコンピュータにまかせておけば、数百万の顧客ひとりひとりに実際のサービスを提供してくれる。よいサービスができるようにコンピュータを1台訓練する方が、人間のサービス係を何千人も訓練するより簡単だ。

1999年中は、相変わらずほとんどのサイトのサービスはダメなままだろう。とはいえ、多くの先進サイトで顧客サポートの自動化が真剣に検討されるようになると思う。よくできたサイトでは、すでに顧客が自分の注文状況をオンラインで確認できるようにしている所も数多い。これは、今後のウェブの動向としては、氷山の一角に過ぎない。

ウェブ特許の当たり年

eコマースの基本的ビジネスモデルと、ウェブユーザインターフェイスの改善案に関する特許の多くが、1999年にはついに発効しだすだろう。インターネット特許のほとんどが、特許局を通過するのに3~4年かかっているようだ。1995年と1996年は、ウェブ関連の発明が多かった年だ。間もなく、もっと多くのウェブ特許が発効し出すだろう。

ウェブに関して言えば、もはや未来主義は贅沢とはいえない。ネットワーク経済で生き残るためには、定期的に未来予測プロジェクトを行うことが防御メカニズムとして必要になってくる。基本的なビジネスや顧客サービスが自動化され、それゆえ特許にすることができるようになったからである。自らの権利を主張できない者は、この先5年のうちに、自らがウェブ上で生き残るのに必要なすべての特許を、競争相手に取られていることに気が付くことになるだろう。

2000年問題

1999年の終わりに向かって、ウェブでも2000年問題が現れるだろう。ウェブが2000年バグに見舞われる公算は、他のほとんどのコンピュータシステムより低い。

  • インターネットは新しいコンピュータで動いている。メインフレームや埋め込みシステムよりもずっと「クリーン」なのだ。
  • ウェブでのユーザ体験は、圧倒的にコンテンツに偏っている。プレインなテキストとグラフィックは、何年になろうと関係なく「動作」し続けるはずだ。
  • ウェブのソフトウェア部分は、ここ数年でできあがったものだ。2000年問題は目と鼻の先にあったわけだ。

とはいっても、ウェブも2000年問題をまぬかれたわけではない。

  • レガシーシステムとの統合は、ここ数年、ウェブの機能を高めるための主要な方法として採用されてきた。そして、レガシーシステムは2000年問題に関して悪名高い。ウェブでの顧客サービスを展開するにあたって、ソフトウェア資産のすべてを再構築した企業は数えるほどしかない。
  • ウェブソフトウェアのかなりの部分は、1995~1997年にかけての熱狂時代に急増されたつぎはぎ仕事である。長期的問題や伝統的ソフトウェア工学の原理などは、ほとんど考慮に入れられていない。「インターネット時間に間に合うように」満足なテストも受けずに開発されたソフトに、どんなバグが隠れているかなんて誰にもわからない。
  • ユーザに年を入力してもらう際に、フォーム上のフィールドに2ケタの数字しか使っていないウェブページがたくさんある
  • URL、その他の表記にも伝統的な2ケタ数字がたくさん使われている。私自身も、この罪を免れない。現にこのAlertboxのファイル名も981227.htmlだ。ファイルがずさんでも問題になることはない。どれくらいあるかはわからないが、プログラムがそのような表記法を期待して演算を行っているような場合を除いては。

1999年12月まで待つことはない。あなたのウェブサイトが2000年問題に対応しているかどうか、調べるならが一番だ。あなたが利用しているISPのチェックもお忘れなく。ISPが落ちてしまえば、あなたの会社は存在しないも同然なのだから。

参考: 1999年末の時点で、これらの予想を振り返ってみた。

1998年12月27日