ペルソナを使ってアクセス解析データをセグメントしよう

Webサイトのアクセス解析に、ペルソナ由来のセグメントを利用すれば、データの傾向が明らかになり、UXに関する知見が導き出せる。そのほうが、全員を一括りにする、あるいは、ユーザー行動に無関係なデモグラフィック属性でセグメントする、といったやり方よりもうまくいく。

多数の開発チ-ムがプロジェクトの最初のアイデア出しやデザインのフェーズでペルソナを作成するが、その後の段階では議論に決着をつける以外のことにはうまくそれを活用できていない。Webサイトの継続的なメンテナンスにペルソナを組み入れるやり方の1つが、アクセス解析ツールにペルソナ由来のセグメントを作成することである。こうしたセグメントによって、ペルソナで記述されているユーザーがあなた方のWebサイトの実際のユーザーの特徴を示しているかどうかをチェックできるだけでなく、サイト訪問者全員のデータを一括りにすると隠れてしまう利用パターンや行動の傾向を見出しやすくもなる。

ペルソナとは何か

ペルソナとは同じ目的を持った特定のユーザーグループを代表する架空のキャラクターである。自分たちのWebサイトに引きつけられるさまざまな訪問者を反映できるように、組織が持つペルソナは複数である必要がある(通常は、3~7個のペルソナがあれば、ユーザータイプの分け方を的外れにすることも、細かくしすぎることもなく、大半のオーディエンスをカバーできる)。ユーザーのこのようなモデルは、実際のユーザーの行動や環境、態度、ニーズを正確に組み込めるように、ユーザーの質的エスノグラフィ調査をベースにするのが望ましい。名前や写真、コンテキストを持った具体的な物語のような詳細な個人情報を、性別や年齢、婚姻関係、職業、デバイスの保有状況等のデモグラフィック情報についての説明と組み合わせて、想像しやすく共感できるキャラクターを創造すべきである。

ペルソナを利用するメリット

ペルソナ抜きでは、組織はすべてのユーザーに合うことを期待した1つですべてをカバーしようとするデザインを作り出してしまう危険がある。たとえば、eコマースについてのレポートシリーズ用の調査で、我々は5種類のeコマースの買い物客を特定したが、同じWebサイトを訪れていても、商品情報に期待する詳細さのレベルや情報の種類は、買い物客のタイプごとにそれぞれ異なっている。企業のイントラネットのような制約のあるシステムですら、アクセスしてくるユーザーのタイプは多種多様になるし、彼らが達成しなければならない目的やタスクもさまざまだ。サイトを訪れるユーザーグループの個別の特徴を特定することなく、各タイプのユーザーが必要とする重要要素が入ったエクスペリエンスはデザインしようがない。代わりに、誰に対してもうまく機能しないWebサイトを作り出してしまうことになるだろう。

ペルソナの大きな長所は、ユーザーのタイプと彼ら固有のニーズや行動に関わるデザインに重点を置いていること、開発チームのメンバーやステークホルダー間での議論がしやすくなることである。デザインについての議論の前提にペルソナを置くことで、コンテキストが生まれ、そのデザイン決定の影響を受けるユーザーに対して、容易に共感できるようになるからである。(共感を形成するためのもう1つの方法は、ステークホルダーにユーザビリティテストを観察してもらうことである)。チーム内に顧客についての共通理解があれば、こうしたペルソナによって、推測するのではなく検証する、という文化を定着させやすくなる。たとえば、提案された機能が「ユーザー」に必要かどうかを議論する代わりに、「この機能はBarbaraの役に立ちそうか」と尋ねることができるようになるからである。

ペルソナ由来のセグメント

ペルソナを作成しても、サイトが立ちあがってしまうと使われなくなりやすい。が、そうしてはならない!。たくさんの時間と調査する労力を費やして(だといいのだが!)、自分たちのオーディエンスをリアルに表現するものを作り出そうとしたのだから。また、改善を推し進めるべくペルソナを活用しつづければ、費用対効果は向上していく。アクセス解析ツール内に、作成したペルソナからイメージされるセグメントを作成することで、現実のユーザーがWebサイトやアプリケーションを実際にどのように利用しているかが分析できるようになる。この情報によってペルソナの作成プロセス中に作られた仮説の検証が可能だ。また、そうした情報の中に新たなものがあるようなら、ペルソナを微調整することもできる。ペルソナを、一度作成したら二度と修正不可能なドキュメントにする必要はない。また、アクセス解析を通してペルソナを再検討するほうが、インタビューやダイアリー調査等の集中的ユーザー調査実施のために継続して顧客と連絡を取っていくことに比べれば、メンテナンスもずっと容易である。

ペルソナベースのセグメントをアクセス解析ツール内に作成する上での重要なステップが、ペルソナの中のどの特徴をセグメントフィルタに組み込むかの判断である。ペルソナについての詳細情報とそれに付随したユーザーストーリーに目を通すときには、単にもっともらしさを出すために追加されたものと、その特定のユーザーグループの代表的な特徴を分離する必要がある。たとえば、サービス型ソフトウェア(SaaS)向けのペルソナのユーザーストーリーでは、再訪問者のDavidについての説明は以下のようなものになるかもしれない:

「Davidは再訪問者で、新機能の使い方についてのヒントが載っている我々の週刊Eメールニュースレターを、毎週月曜日の朝10時に、オフィスで進捗会議が終わった直後に受け取っている。彼は自分のAndroidのスマートフォンからのクリックで、我々のサイトに遷移してくるのだが、次の会議の前にブログの記事を1本読むだけの時間しかない」。

Davidを象徴としたセグメントを作成するとき、厳密な時刻をフィルタとして入れるのは細かすぎるだろう。しかし、サイトを平日に訪れるユーザーと、週末に訪れるユーザーとでは、行動に違いがある可能性はある。また、サイトへの訪問が通常の勤務時間内になるユーザーと、夜間になってしまうユーザーの間にも違いはあるかもしれない。彼がニュースレターの購読者であり、そのサービスの既存客であるというファクトは、まだそのサービスについて調査中だったり、もしかするとそのソフトウェアとその機能について勉強中でしかないようなユーザーと、このユーザーグループを区別するためにも入れるべきである。今回の場合は、ペルソナの性別は重要ではないように思われる(しかし、たとえば、洋服のeコマースサイトの場合は性別は重要だろう)。したがって、代表的なセグメントを作成するときには性別は入れるべきでない。

架空のSaaS企業向けペルソナの例。組織が変わればペルソナで扱うトピックも変わってくる。この例では、ペルソナは今回のSaaS企業がターゲットとするユーザーのタイプを反映したもの、つまり、クライアントのためにソフトウェアによる問題解決を模索する企業の従業員になっている。
架空のSaaS企業向けペルソナの例。組織が変わればペルソナで扱うトピックも変わってくる。この例では、ペルソナは今回のSaaS企業がターゲットとするユーザーのタイプを反映したもの、つまり、クライアントのためにソフトウェアによる問題解決を模索する企業の従業員になっている。

 個別分析を、意義があって価値のあるものにするには、作成したペルソナ由来のセグメントで、残りのサイト訪問者とは明らかに異なったユーザーの行動が示されていて、そのセグメントがユーザー母集団の中のかなり大きなかたまりを表すものになっている必要がある。多くの場合、このかたまりの妥当な大きさというのは全訪問者中の7~10%の範囲内である。しかし、あなたやあなた方の組織にとって、何が意味があるのかを最終的に判断するのは自分たちだ。ペルソナの詳細情報をどのくらい使って、該当セグメントを作成するかで、そのセグメントが表すユーザーグループの大きさは調整することができる。何よりもまずは、そのユーザーグループの最も際立った特徴に注目しよう。そして、一部の少数のユーザーをターゲットにする必要があるなら、もっと細かい内容も追加で入れていこう。

今回のSaaSの例に戻ると、Davidを基にしたセグメントの作成に必要なのは、時刻以外のペルソナの詳細情報が、意味のあるものかどうかを知ることである。彼が自分のスマートフォンを使って、このサイトにアクセスしているというファクトは、彼が象徴となっているグループ自体にも当てはまるのだろうか。そして、iOSでも Windows Phoneでもなく、Androidのスマートフォンを使っているというファクトについてはどうか。ある特定の詳細情報がなぜ入れられたのかを正確に知るには、ペルソナ開発時に実施した元になっているユーザー調査を再検討しなければならない場合もある。また、その行動が目的のグループと他のグループを実際に弁別するものであるかどうかも判断しなくてはならない。つまり、David型のユーザーの多くは、自分のスマートフォンからサイトにアクセスしている一方で、彼ら以外のモバイルユーザーはそれとは異なった行動をするのだろうか。そうではなく、もしかしてどのタイプのユーザーもサイトへのアクセスにはスマートフォンを使うことがあり、皆、似たようなことを少しは行うということか。もし後者なら、モバイルの利用方法を分析するには、そのグループのセグメント全部を使うほうが、モバイルだけに関するセグメントを各グループに作成するよりもずっと役に立つだろう。

たとえば、ペルソナから派生したユーザーをセグメント分けする方法には以下のようなものがある:

  • デモグラフィック: 年齢層や性別
  • 地理的な位置: 特定の国や地域、都市部か郊外か等
  • デバイスやブラウザ
  • 新規の訪問者かリピーターか、ログインユーザーか非ログインユーザー、あるいはアカウントを持ってないのか
  • ソース: 到着はEメールからか、それとも、検索エンジンや特定のソーシャルネットワーク、一連の参照元サイトからか
  • 訪問者がキーワードや用語の検索をブランド名入りで行っているのか、ブランド名抜きで行っているのか
  • 訪問者がある特定のページに到達したかどうか: たとえば、商品詳細のページを訪問したか、カスタマーサービスセクションを訪問したか、あるいは貿易業者や仕入れ担当向けコンテンツのセクションにたどり着いたか

このリストは決して完全なものはでない。また、セグメントに含まれる特徴の組み合わせはサイトやオーディエンスだけでなく、選択したアクセス解析ツールの技術的に定義可能な内容によっても変わってくるだろう。

データに溺れないようにするためにセグメントを利用しよう

セグメントを利用して、利用可能なデータの範囲を限定し、関連する統計情報を絞り込めば、特定の質問に答えるためのアクセス解析のデータ解釈がずっと容易になる。ペルソナ由来のセグメントを作成しさえすれば、選択したアクセス解析ツール内のほとんどのレポートにフィルタをかけ、そのグループに関するデータのみを表示することができるようになる。ユーザータイプごとの行動やサイトの利用方法の傾向が、サイトの全トラフィックについてのデータを見るとき以上に、明確に浮かび上がってくるだろう。

たとえば、直帰率のような指標を調べるときには、特定のページやページ群にたどり着いた後、直帰した訪問者全員の全体に占める割合に気を取られやすい。しかしながら、この数値自体は対応策を取りやすい情報とはいえない。そのページにたどり着いたユーザーのタイプはいくつかあり、別々のソースから来ていて、ページコンテンツへの期待もそれぞれだからだ。したがって、何か意味のある情報を見いだそうとすれば、ユーザータイプごとに直帰率を別々に分析する必要がある。それではここで、2種類のペルソナで表される2つのユーザーグループについて考えてみよう。Davidはサイトの忠実な訪問者で、ニュースレターの購読者でもある。一方、Maryはある組織のマーケティングマネージャーで、技術的なことには詳しくない。では、David型ユーザー(Eメールニュースレター経由で頻繁にサイトを訪問するリピーター)は既存の機能を利用するためのヒントについてのブログ記事からは直帰しようとするだろうか。それは実は構わない。我々としてもコンテンツの忠実な消費者というのは直帰するものだと予想しているからだ。彼らはWebサイトの大半のコンテンツをすでに前もって消費済みだからである。では、Maryのセグメントに入る、検索エンジンの関連検索キーワードからページに到着するユーザーの場合はどうだろうか。彼らもすぐに直帰するというなら、もしかすると、検索エンジン結果ページ(SERP)でユーザーが期待したものと、ページで実際に提供されているコンテンツの内容が食い違っている可能性がある。これはさらなる調査を必要とするケースである。一方、Maryタイプのユーザーが実際には直帰しないようなら、そのページやそこにつながるリンクに対して何かする必要はないだろう。こうした知見は有益な情報が明らかになるようにデータをセグメント分けすることでしか得られないものである。

直帰した訪問者数 全訪問者数 直帰率
ニュースレターから来た忠実な訪問者(Davidたち) 10,000人 12,000人 83%
関連キーワードを使ってSERPから来た訪問者(Maryたち) 3,000人 8,000人 37.5%
合計 13,000 20,000 65

あるページの直帰率の分析を簡略化した例: 65%という全体の直帰率からは、忠実な訪問者と特定のページトピックの情報のみを探している訪問者の直帰率の差は見えない。データをセグメント分けしたときのみ、この明白な差は見てわかるようになり、各オーディエンス特有の目的に対してのページのパフォーマンスも理解しやすくなる。

セグメントを作ることで特定の指標を詳細に分析できるようになるだけでなく、行動のパターンや以下のような質問への答えを得ることも可能になる: 「Googleから記事ページにたどり着いた新規訪問者は違うタイプのページも訪問するか」、「ニュースレターの購読者と非購読者の行動には違いがあるか。具体的には、購読者のほうがホワイトペーパーをダウンロードしたり、コンサルティングサービスについての問い合わせをしてきたり、メンバーシップをアップグレードする傾向が強いか」等。あるセグメントだけ、コンバージョンレートに有意な差があるというのなら、そのセグメントが明確に分類可能なユーザータイプを示している可能性が高いということでもあるし、コンテンツ戦略の中で継続して追求し、成長を目指すべきユーザーグループがわかったということでもある。たとえば、多くの機能にアクセスできるようにニュースレターの購読者のほうが非購読者よりもメンバーシップのレベルをアップグレードしている、というのが明らかになったのなら、購読率を上げる方法の調査には意味があるだろう。

アクセス分析ツールによる定量データからはあなた方のWebサイトでなぜユーザーがある一定の振る舞いをしたのかは決してわからない。わかるのは彼らがをしたかだけである。しかし、こうした行動パターンを明らかにすることによって、定性的なユーザビリティテストのようなユーザー調査の活動に焦点を合わせて、情報を提供できるようになる。こうした三角測量によるデータで武装すれば、サイトとそのコンテンツを最適化し、実際のユーザーのニーズをより満足させる方向に順調に進んでいくことができるだろう。

アクセス解析データから意味のあるUXの知見を抽出する方法について、1日トレーニングコース「アクセス分析とユーザーエクスペリエンス」でさらに詳しく学ぼう。

Persona photo credit: “Paul reading HTML5 For Web Designers” by Jeremy Keith, used under CC BY / Modified from original