ユーザーのコンピュータスキルの分布:
ユーザーのスキルはあなたが思う以上に低い

先進33か国において、コンピュータ関連の高い能力を持つ人は人口の5%にすぎない。また、中程度の複雑度のタスクを完了することができる人は全体の3分の1しかいない。

身につけるのがもっとも困難なユーザビリティの教訓に、(訳注:デザインプロジェクトに携わっている)「あなた方はユーザーとは違う」というのがある。これこそがユーザーのニーズについての推測が大失敗に終わる理由だ。デザイナーは大半のターゲットオーディンエンスとあまりに異なっているため、いいと思っているものや利用しやすいと思っているものが見当違いになるだけでなく、そうした自分たちの個人的好みによって判断することで、間違った方向に進んでしまうことが多いからである。

デザインプロジェクトに携わると、ユーザーインタフェースに対して、部外者より正確で詳細なメンタルモデルを持つようになるものである。また、幅広い消費者をターゲットにしているのなら、あなた方の知能指数や識字レベルは、平均的なユーザーを上回っているはずだ。そのうえ、ユーザーの多くに比べれば、十中八九、あなた方は若く、年齢による能力の低下も経験していないだろう。

そして、良質なユーザーインタフェースとはどういうものかというあなた方の予想に悪影響を与える、あなた方と平均的なユーザーの違いがもう1つある。それは、コンピュータやインターネット、テクノロジー一般の利用スキルだ。Webデザインチームなどのユーザーエクスペリエンス関連のプロジェクトにいる人間は平均的な人々に比べれば、正真正銘の超オタクだからだ。これは開発者だけに当てはまる話ではない。技術に詳しくないチームメンバーも、チーム内のエンジニアに比べれば、「技術にそれほど詳しくない」だけであり、大半の普通の人に比べれば、はるかに強力な技術的スキルを持っているものだからである。

OECDスキル調査

最近おこなわれた国際的な調査研究によって、我々は一般的な人々とテクノロジー系エリートの違いを数値化することができた。このデータは2011~2015年に33か国で収集されたもので、2016年にOECD(経済協力開発機構。先進国クラブとも呼ばれている)によって公開されたものである。テスト対象者は合計215,942で、ほとんどの国で参加者は5000人以上となっている。結果の公開までに数年かかっているのは、この調査の規模が大きかったためである。

この調査の目的は16~65歳の人、つまり、レポート内で「成人」とされている年齢層のスキルをテストすることにある。66歳以上の人が労働人口にほとんどいないのは事実であるが(そして、その結果、労働人口をターゲットとしたこのプロジェクトで彼らは興味の対象にはなっていないが)、彼らは多数のWebサイトで大きなユーザーグループを形成している。我々の実施した65歳以上のユーザーについての調査でも、若年ユーザーよりもテクノロジースキルが低いことが多い、この年齢層に対するユーザビリティ上の重要な課題が、多数発見されていた。したがって、このOECD調査の結果を評価する際には、調査対象になっていないユーザーも入れると、ユーザー全体のスキルは調査データが示す以上に低くなることを覚えておくべきだろう。

このOECDプロジェクトでは仕事関連のスキルが広範囲に調べられているが、我々にとってもっとも興味深いのは、テクノロジースキルについてのテストだ。調査のこのパートで、参加者はコンピュータを利用するタスクを14個実行するように求められていた。本物のWebサイトを利用するかわりに、参加者はテスト進行役のコンピュータにあるシミュレーション用のソフトウェア上でタスクを試みている。こうすることで、研究者たちは参加者全員が調査期間をとおして、同じ難易度のタスクに取り組めるようにした。また、ユーザーインタフェースの各国語への翻訳もコントロールできるようになった。

タスクの難易度は非常にシンプルなものから、やや複雑なものまであった。簡単なタスクには、Eメールの“全員に返信”機能を使って、3人に返事をする、というのがあった。このタスクが簡単だったのは、課題が明示されていて、必要なステップも制約事項(=送る相手が3人いる)も、1つだけだったからである。

難しいタスクには、いくつかのEメールメッセージの中にある情報を利用して、スケジュールアプリケーションで会議室を予約する、というのがあった。これは難しいタスクだった。というのも、課題の示され方が暗示的なうえに、ステップと制約事項が複数あったからだ。これに比べれば、水曜の午後3時にA会議室を予約する、と明示されている課題のほうがずっと簡単だっただろう。しかし、別々のアプリケーションにあるさまざまな情報をつなぎあわせて、最終的にしなければならないことを自分で判断しなければならないことが、このタスクを多くのユーザーにとって難しいものにしていた。

難しいとされているタスクでさえ、そう難しいとは思えないだろうし、ここの読者の全員が、あっという間に、また、自信を持って、そうしたタスクを実行できるのは間違いないだろう。しかしながら、私が言いたいのは、あなた方ができるからといって、平均的なユーザーがそれと同じようにできるわけではない、ということである。

4つのテクノロジー習熟度

ユーザーがうまく達成できるタスクを基準にして、研究者たちは4つの習熟度を定義した。以下に、(OECD各国を平均しての)そのレベルでタスクを実行可能な人の人口比率と、レポートが定義しているそのレベルにある人の能力をレベル別に示したい。

「レベル1未満」=成人人口の14%

「レベル0」という用語を使うのは気が引けるためか、OECDの研究者は一番低いスキルレベルを「レベル1未満」としている。

レベル1未満の人ができることは次のとおりである。「そこでのタスクは明確に定義された課題がベースになっていて、明示されている1つの基準を満たすために、一般的なインタフェースにある機能を1つだけ利用するものであり、カテゴリーなどを推理したり、情報を変換したりする必要はない。複数のステップが求められることはないし、サブゴールの生成も不要である」。

このレベルのタスクの例は、Eメールアプリで「このEメールメッセージを削除してください」である。

レベル1=成人人口の29%

レベル1の人ができることは次のとおりである。「通常、タスクで要求されるのは、EメールのソフトウェアやWebブラウザのような広く利用されていて、なじみのあるテクノロジーの利用である。課題解決のために必要な情報やコマンドにアクセスするために、ページ移動はほとんどあるいはまったく必要ではない。特定のツールや機能(たとえば、ソート機能など)に回答者が気付いて、利用するかどうかにかかわらず、課題は解決可能だ。タスクにはステップがほとんどないし、含まれる操作の数も最低限である。回答者はタスクの説明から認知レベルですぐ、そこでのゴールを推測できるようになっている。つまり、課題の解決のために回答者に求められているのは、明示されている基準を適用することであり、進捗の確認はほぼ必要ない(たとえば、回答者は自分が適切な手順を採用しているかとか、解決に向けて前進できているかなどについて、チェックする必要はない)。コンテンツと操作を特定するにはシンプルに一致させるだけでよい。すなわち、求められているのは、アイテムをカテゴリーに割り当てるなどのシンプルな推理のみで、情報を対比させたり、統合させたりする必要はない」。

前述の“全員に返信する”タスクに必要なのが、レベル1のスキルである。レベル1のタスクの他の例は、「John SmithからのEメールをすべて見つけてください」である。

レベル2=成人人口の26%

レベル2の人ができることは次のとおりである。「このレベルのタスクで通常、要求されるのは、一般的なテクノロジーと特定のテクノロジーの両方の利用である。たとえば、回答者が新規のオンライン入力フォームを利用しなければならないこともありうる。また、課題の解決にはページやアプリケーション間の移動が必要だ。そして、ツール(たとえば、ソート機能など)を利用することで課題は楽に解決できるようになる。タスクには複数のステップと操作が含まれている。課題のゴールを回答者が設定しなければならない場合もある。とはいえ、満たすべき基準は明示されているのだが。進捗の確認をしっかりとする必要がある。予想外の結果や手詰まりになる可能性があるからだ。タスクでは不正解の選択肢を排除するために、アイテム間の関連性を評価しなければならないこともある。情報の統合や推理が必要とされるかもしれない」。

レベル2のタスクの例は、「去年の10月にJohn Smithから送られてきた、持続可能性関連の書類をあなたは見つけたいと思っています」である。

レベル3=成人人口の5%

もっともスキルの高いこのグループの人ができることは次のとおりである。「このレベルのタスクで通常、要求されるのは、一般的なテクノロジーと特定のテクノロジーの両方の利用である。課題の解決にはページやアプリケーション間の移動が必要だ。そして、解決に向けて進んでいくには、ツール(たとえば、ソート機能など)の利用が要求される。タスクには複数のステップと操作が含まれている。課題のゴールを回答者が設定しなければならない場合もあるが、満たすべき基準は明示されていることもあれば、そうでないこともある。進捗の確認は通常、しっかりとする必要がある。予想外の結果や手詰まりになる可能性が高いからだ。タスクでは不正解の選択肢を排除するために、情報の関連性と信頼性を評価しなければならないこともある。情報の統合や推理がかなり必要とされるかもしれない」。

前述の会議室についてのタスクに必要なのが、レベル3のスキルである。また、レベル3のタスクの他の例は、「先月、John Smithから送られてきたEメールのうちの何%が持続可能性についてのものだったかをあなたは知りたいと思っています」である。

コンピュータを使えない=成人人口の26%

4つのスキルレベルの数字を合計しても100%にならないのは、かなりの人数の回答者がタスクをまったく試みていないからだ。コンピュータを使えないからである。OECD全体では、26%の成人がコンピュータを使うことができなかった。

全体の4分の1もの人々がまったくコンピュータを使えないというのが、デジタルディバイド(情報格差)のもっとも難しい部分だ。この問題の原因は、コンピュータが多くの人にとって依然としてあまりにも複雑すぎることが大きい。

国ごとのテクノロジースキル

OECD全体に向けてデザインしているわけではない、とあなた方は言うかもしれない。あなた方が住んでいるであろう豊かで恵まれた国々のみを対象にデザインしているというわけだ。なるほど。しかし、以下のグラフ(もっとも高いスキルレベルの人、すなわち、あなた方のような人の数で昇順に並べ替えている)に示されているように、もっとも豊かな国々について調べてみたところで、結論はたいして変わらない:

図
16~65歳の人のコンピュータスキルの分布
凡例(上から):レベル3:強力、レベル2:中程度、レベル1:低い、1未満:とても低い、コンピュータが使えない
(スカンジナビアは、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンの平均である。イギリスは、イングランドと北アイルランドの人口加重平均値になっている。なぜならば、スコットランドとウェールズはこの調査に参加していないからである)。

コンピュータをまったく使えない人の数は国による差が大きい。しかし、スキルが最高レベルの人の数の差はごくわずかにすぎない。

あなた方=上位5~8%

私が一番言いたいのは、あなた方、読者の皆さんはコンピュータスキルの最上位であるレベル3にほぼ間違いなく入る、ということだ。アメリカではこうした高いコンピュータスキルを持つ人は全体の5%のみで、オーストラリアとイギリスのこのレベルの人は6%、カナダと北ヨーロッパ全体ではそれが7%に増え、シンガポールと日本ではさらに増えて、レベル3の割合は8%となる。

つまり、強力なテクノロジースキルをもった人は、どの先進国の出身であろうと、その国の人口のわずか5~8%を占めるにすぎないのだ。上で引用されている、OECDによるレベル3のスキルの定義を思い出してみよう。その内容とは、暗示されている基準をもとに、自分のゴールを設定したり、コンピュータを使いながら予想外の結果や手詰まりを打開したり、不正解の選択肢を排除するために情報の関連性や信頼性の評価をしたりすることを検討できるというものだった。できそうだと思ったのではないだろうか。そして、もちろん、これをやれるのがレベル3なのである。

ここで重要なのは、アメリカの人口の95%、北ヨーロッパの93%、アジアの先進国の92%の人はこうしたことができないということを覚えておくことだろう。

あなた方はこうしたことができるわけだが。人口の92~95%の人には無理なのである。

このシンプルな事実から学べることとは何か。それは、あなた方はユーザーとは違う、エリート層向けのデザインをしているのでない限りは、ということだ。(そして、もし仮にそういう人たちをターゲットにしているとしても、たとえば、エンジニア以外のB2Bオーディエンスはあなた方のところの具体的な製品についてはあなた方よりもずっとわかっていない。つまり、あなた方はあいかわらずユーザーとは違うのだ)。

何かについて簡単だ、とか、「ユーザーは、こんなシンプルなことは自分たちのWebサイトなら必ずできる」とあなた方が考えているなら、それは間違っていても不思議ではないだろう。

ほとんどのユーザーができること

幅広い消費者をターゲットにしたいなら、ユーザーのスキルとしてはレベル1で規定されている内容を想定すれば間違いない。(しかし、成人の14%のスキルはさらに低いし、コンピュータをまったく使えない大勢の人を無視していることも覚えておかねばならない)。

要点をまとめると、レベル1のスキルとは以下のとおりである:

  • 課題解決のために必要な情報やコマンドにアクセスするためのページ移動はほとんどあるいはまったく不要
  • タスクにはステップがほとんどないし、必要な操作も最低限
  • 課題の解決のために回答者に求められているのは明示されている基準の適用のみ(暗示されている基準はない)
  • 進捗の確認(たとえば、ゴールに向けて前進しているかをチェックしなければならないなど)はほぼ不要
  • コンテンツと操作の特定はシンプルに一致させるだけでできる(情報の変換や推理は不要)
  • 情報の対比や統合は不要

これ以上複雑なものになると、あなた方のデザインはレベル2か3の人にしか使えないものとなる。つまり、アメリカの人口の31%、日本とイギリスの人口の35%、カナダとシンガポールの37%、北ヨーロッパとオーストラリアの38%にしか、あなた方はサービスを提供できない、ということなのだ。繰り返しになるが、国によるばらつきは次のような全体的な結論に比べると、たいした問題ではない。つまり、徹底的にシンプルにしよう。そうしないと、人口の3分の2の人々はあなた方のデザインを利用することができないのだ。

(一般の人の認知スキルについて、さらに詳しくは、我々の1日トレーニングコース「人の心とユーザビリティ」にて)。

参考文献

OECD (2016), Skills Matter: Further Results from the Survey of Adult Skills, OECD Skills Studies, OECD Publishing, Paris, France.