モバイルユーザビリティ更新情報
モバイルのウェブサイトとアプリのユーザーエクスペリエンス(UX)は前回調査より改善されてきているが、まだ先は長い。モバイル専用のサイトは必須だが、アプリのユーザビリティスコアはそれよりもさらに高い。
編集部注:本稿において言及されているモバイル端末の分類は、米国での普及状況に基づくもので、日本国内での分類とは異なっている。タッチフォンと対置されているスマートフォンは、ブラックベリーを主に意識していると思われる。また、日本でいうフィーチャーフォンは、本稿におけるスマートフォンに相当すると思われる。呼称はいずれもオリジナルコラムの記述に基づいている。
今年を「モバイルの年」と宣言するには及ばない。モバイルの利用量やモバイルのサイトとアプリの供給の増加という意味では、去年のほうがモバイルの年だった。とはいえ、今こそがモバイルサイトのデザインを見直す時期である。今あるバージョンはユーザーエクスペリエンスの質に対するユーザーの高まっている期待を、おそらくはるかに下回っているからである。
ここではウェブ本流の歴史が繰り返されている。最初のころ、ウェブというのは実験的なものだった。したがって、やや不安定な実験的ウェブサイトも容認されていた。多数のサイトが見当違いのデザインアドバイスによって機能を損じていたが、こうしたことは初期にはよく見られることであり、ほとんどの企業はそれ以上何もわかっていなかった(なぜならば彼らはユーザビリティ調査をしていなかったからである)。しかし、現在では人々はウェブサイトには機能することだけを期待している。
モバイルもそうである。去年はアプリを使ってさえいればかっこよかったかもしれない。しかし、現在ではアプリは優れている必要がある。要求は高くなってきている。幸運なことに、新しい調査によると、モバイルのサイトとアプリのユーザビリティは向上していっている。デスクトップコンピュータからアクセスする、通常のウェブサイトのそれにはまだ遠く及ばないけれども。
ユーザー調査
我々は8回のユーザーテストを実施した。5回はアメリカで、さらに、オーストラリア、香港、イギリスで1回ずつ行った。
最初の2回のテストは2009年に実施されたが、それについては過去の記事で説明を行った。その最初の調査で、我々は携帯電話の以下の3カテゴリー全部をテストした:
- フィーチャーフォン: かなり小さい画面のついた従来型の送受話器と、主に電話をかける目的用の非常に限定されたキーパッドを持つもの。
- スマートフォン: 中程度の大きさの画面とアルファベットのフルキーボードがついた電話。
- タッチフォン: 電話機前面のほとんど全体を覆うタッチセンサー式画面のついた機器。
新しく実施した6回の調査では、3つの理由によってフィーチャーフォンを除外した:
- 最初の調査からわかったのは、わざわざフィーチャーフォンをサポートしなくてもよいとほとんどの企業に勧められるくらい、ウェブにアクセスするときのフィーチャーフォンのユーザビリティは悲惨だということである。
- 経験的に言って、ウェブサイトのフィーチャーフォンからのトラフィックはほとんどない。ウェブでのエクスペリエンスがあまりに酷く、ほとんど行かなくなるからというのもあるだろうし、過去の調査時に比べ、携帯電話の上位機種の市場シェアが劇的に上昇したからというのもあるだろう。
- 現実に、我々のモバイルユーザーエクスペリエンスコースのほとんど全員の参加者が、フィーチャーフォン向けにはデザインしていないと言っている。したがって、最新のビデオクリップ等、フィーチャーフォンについてのセミナー用資料を集める必要はないと考えた。
最初の2回のテストのタッチフォンは主にiPhoneだったが、それには原始的ではあるがちょっとしたコンピュータデバイスが付いていた。最新のテストではiPhoneユーザーもたくさんいたが、Androidのユーザーもたくさんいたし、Windows Phoneのユーザーも何人かいた。
全体では105人のユーザーでテストしたが、男性は53人、女性は52人だった。テスト参加者のうちの12%が50歳以上だったが、残りの88%は20歳から49歳の年齢に均等に分布していた。職業はファッションコンサルタントから弁理士、テレビのプロデューサーまであらゆる分野にわたっていた。
タスクは方向性のあるものから探索的なものまで様々だった:
- かなり具体的なタスク。例: 「あなたは今、電器店にいて、プレゼントとしてCanon PowerShot SD1100ISを買うことを考えています。そのカメラの店での販売価格は220.25ドルです。オンラインだともっと安く手に入れられるかどうかをadorama.comで調べてください」。
- 方向性はあるが、それほど具体的ではないタスク。例: (Walgreensのアプリを利用して)「あなたの肌に合うSPF 30以上の保湿剤を見つけてください」。
- オープンエンド型。しかし、サイトやアプリがあらかじめ決められているタスク。例: (China Dailyのアプリを利用して)「今日のニュースに関係する興味のある写真があるかどうか探してください」。
- ウェブ横断型タスク。ユーザーは自分が行ってみたかったところ、どこにでも行ってよい。例: (答がありそうなサイトについての指示はユーザーに与えないで)「世界一高い建物を見つけ出してください」。
合計390個の異なるタスクを参加者が実行するのを観察した。そのうち、194個はアプリケーションを指定したタスク、154個はウェブサイトを指定したタスク、そして、42個はウェブ横断型のタスクだった。
ユーザーテスト以外に、2回のダイアリー調査も実施し、日常生活で人々がどのようにモバイル機器を利用しているかを明らかにしようとした。ダイアリー調査のうちの1回はアメリカで行ったが、もう1回のほうにはオーストラリア、オランダ、ルーマニア、シンガポール、イギリス、アメリカの参加者が含まれていた。合計27人がダイアリー調査に参加し、それによってモバイルでの行動についての172人日分のデータが手に入った。ここでも、参加者の仕事は経理の担当者からアメフトのコーチまで幅広いものだった。
モバイルのユーザーエクスペリエンスは徐々に改善
我々の初版のレポートではモバイルユーザーの平均成功率は59%だった。
新しい調査での平均成功率は62%だった。良くはなっている。しかし2年間でわずか3ポイントの改善である。この改善率の低さにはがっかりするかもしれない。しかし、これは過去12年間、263件の調査で記録された、デスクトップでのウェブ利用のペースとほぼ同じである。
モバイルでのウェブ利用の現時点の成功率は、1999年のデスクトップでのウェブ利用時の測定値と同じようなものである。現在のデスクトップの成功率は84%であるが、モバイルユーザビリティがもっと急激に向上することがない限り、そのレベルに達するには2026年まで待たなければならないだろう。
62%という成功率は、行われたすべてのタスクが正確だったか不正確だったかで合理的に分類し、計算したものである。
測定されたユーザビリティは、利用したのがモバイルサイトかフルのウェブサイトかによって、大きく違っていた。(定義としては、「モバイル」サイトとはモバイル機器での利用のために特にデザインされたものである。また、「フル」サイトとはデスクトップコンピュータの画面全体での利用のために主にデザインされた通常のウェブサイトのことである)。
- モバイルサイトの成功率: 64%
- フルサイトの成功率: 58%
ここから導かれるのは、モバイルのユーザーエクスペリエンスを改善するための、1つめの、そして最も重要かもしれないガイドラインである。すなわち、独立したモバイルサイトをデザインしよう、ということである。1つのサイトにデスクトップとモバイルの両方のブラウザからアクセスすることを、ユーザーに期待してはならない。(例外はiPadのような大型タブレットを利用している人たちだろう。別件のiPadユーザーについての調査によると、彼らはフルサイトのブラウジングをかなりスムーズに行っている)。
2番目の重要なガイドラインは、フルサイトからモバイルサイト、そしてモバイルサイトからフルサイトへのリンクをはっきりと明確に表示しよう、というものである。残念なことに、検索エンジンというのは、ユーザーエクスペリンスの非常に優れたモバイルサイトを提供している企業の場合でさえ、モバイルユーザーの役に立たずに、間違ってフルサイトを示してしまうことが多い。ユーザーはページ移動を必要としない限り、携帯上でうまく機能しないサイトに放り込まれても、実際には平気なのかもしれない。検索エンジンはユーザーの検索キーワードに直接関連したページへのディープリンクを提供することが多いからである。しかし、もしユーザーがその1ページで提供する以上のことを知りたい場合、彼らはフルサイトで行き詰まれば苦しむことになる。モバイルサイトへのリンクが役に立つのはそのようなときなのである。(そして、検索エンジンがモバイルサイトを一番に示すべきだった理由もそれである)。
アプリはサイトに勝る
モバイルサイトは有効だが、モバイルアプリはさらに効果が高い。測定された成功率はモバイルアプリ利用時には76%で、これはモバイル専用のウェブサイトで記録された64%よりもずっと高い。
もちろん、モバイルのサイトよりもアプリを構築するほうが費用はかかる。なぜならば、プラットフォームごとに違うバージョンをコーディングしなければならないからである。したがって、資金が十分にあるとき、あるいは特にモバイルユース向けのサービスを提供するのであれば、モバイルのアプリケーションを構築することを特に勧めたい。
ほとんどのユーザビリティガイドラインが確認された
我々のモバイルユーザビリティレポートの初版には85個のデザインガイドラインが含まれていた。このうちの83個は最新の調査で確認され、1個は多少修正され、1個は削除された。これまで何度も言ってきたように、ユーザビリティのガイドラインは長年にわたって非常に安定した状態を保つ。なぜならば、それは主に人間の行動によって決まるものだからである。(修正されたガイドラインはFlashの利用に関連したもので、他のほとんどのユーザビリティガイドラインに比べ、テクノロジーへの依存が大きいものだった)。
メインのニュースは何かって? それはモバイルユーザビリティレポートが初版から第2版になり、デザインガイドラインが85個から210個に増加したことである。これは我々がモバイルユーザビリティについてより詳しくなったからというのもあるし、要求が増えてきているからというのもあるだろう。サイトとアプリは間違いなく良くなってきており、許容されるユーザーエクスペリンスの水準が上がっているため、デザイナーが従うべきガイドラインの数は増えている。
とりわけAndroidのアプリはずっと良くなった。プラットフォームの市場シェアが伸びたことにより、企業がAndroidアプリの品質により投資するようになったからだろう。
また、前回調査時に比べて、ユーザーは水平方向のスワイプにより気づくようになってきた。水平スワイプというジェスチャーは、デッキ(deck-of-cards)やカルーセル機能を「フリップ」するためによく利用されるものである。しかし、それでもスワイプはモバイルのコンテンツを操作する他の大半のやり方に比べると発見されにくいので、スワイプが可能なときには視覚的キューを入れることをお勧めする。そうでなければ一度も行われない可能性もあり、あなたがたが提供しているもののほとんどは見逃されることもありうるだろう。また、曖昧なスワイプも避けるべきである。同じスワイプのジェスチャーを同一画面の別のエリアにある別のことのために使用してはならない。このアドバイスはモバイルフォンやタブレットのユーザビリティに対しても同じであるが、このことからわかるのはこの2つのジェスチャーベースのプラットフォームが類似しているということである。
マウス主導のデスクトップのデザインとジェスチャー主導のタッチスクリーンのデザインの間の違いをここで考察してみるのは興味深いことである。デスクトップのウェブサイトには水平方向のスクロールは避けるという説得力のあるガイドラインがある。しかし、タッチスクリーンでは水平方向のスワイプは問題ないことが多い。実際、モバイル機器のユーザーはカルーセルを通り抜けるためには水平方向にスワイプすることを考えるのが普通である。言うまでもなく、これはプラットフォームが違えば要求されるユーザーインタフェースのデザインも違うというメタガイドラインのもう1つの例である。繰り返すが、これこそがモバイル機器での利用時にモバイルサイトがフルサイトよりも良い成績をあげる根本的な理由である。
モバイルのデザイン = 小さく、そして的を絞る
モバイルのサイトやアプリを成功させるためのガイドラインとしてはっきりしているのは、小さな画面のためにデザインする、ということである。哀しいことに、そうしてないものもあるため、いまだにユーザーが自分たちの指よりも相当小さい、ごく狭いエリアを押すのに苦労するのを目にする。ファットフィンガーシンドロームはこの先何年も我々について回るだろう。
2つめのポイントはもっと概念的なものであり、人によってはより受け入れがたいものである。つまり、画面が小さいときには、モバイルのユースケースにとってもっとも重要なものだけに機能の数を制限しなげればならない、ということである。