ジャーニーマップの作成:よくある9つの質問

ジャーニーマップは、組織内に共通の土台を構築する役に立つ。しかし、マップの範囲と作成方法について疑問があったり、誤解しているUX実践者は多い。

ジャーニーマップは、組織で全体的なカスタマーエクスペリエンスを調整するための素晴らしいツールだ。ワークショップスタイルのジャーニーマップ作成のためのトレーニングコースで、我々は参加者からジャーニーマップの作成について示唆に富む質問をいろいろと投げかけられてきた。この記事では、そうした質問の中から聞かれることの多かった9つの質問に回答する。

1. カスタマージャーニーマップはいくつ必要か、カスタマージャーニーマップはペルソナや顧客セグメントごとに必要なのか

作成すべきジャーニーマップの数に関する厳密なルールはない。ジャーニーマップの作成は、プロセスとして有益である。チームメンバーの間に共有ビジョンを構築できるからだ。一般に、カスタマージャーニーマップは焦点が絞られていればいるほど良い。1つのシナリオの1つのペルソナに焦点を当てたジャーニーマップなら、明確なストーリーを伝えることができるだろう。

ジャーニーマップは、視点、つまり、出演者を常に置く必要がある。通常、出演者はペルソナと一致していて、その結果、マップにされる出演者の行動はデータに基づいたものになる。こうしたことから、ジャーニーマップは、ペルソナまたは顧客セグメントごとにそれぞれ作成する必要がある。たとえば、健康管理ツールの場合、プロバイダーまたは患者の行動をマップにしたいと思うかもしれない。だが、それぞれのジャーニーは大きく異なるはずだ。

ジャーニーマップは連続したイベントを説明するシナリオに最適だ。そのため、プロジェクトの目標によっては、1つのペルソナに対して複数のシナリオをマップにしたくなることもあるだろう。たとえば、先ほどの健康管理ツールの例では、1人の患者という出演者に対して、アカウントの登録用、治療を受けるとき用、経過観察時の指示の復習用など、複数の異なるマップを作成してもよい。こうした場合には、ペルソナだけでなく、シナリオにも優先順位を付ける必要がある。そうすることで、自分たちのプロジェクトにふさわしいジャーニーに集中して取り組むことができる。

2. ジャーニーマップの作成がリソースの使い方として有益であることをどうすればステークホルダーに理解してもらえるか

ジャーニーマップの作成では、異なる専門分野や部門の人が一緒に作業することが求められる。しかし、そうするために必要な当事者全員に深く関与してもらい、賛同を得るのは容易ではない。ジャーニーマップ作成プロセスへの参加をためらわせないようにするには、ステークホルダーには最初から参加してもらわなければならない。持っている知識がマップの作成中に役に立ちそうだったり、改善の機会が明らかになった後に支援してもらう必要がありそうなステークホルダーを特定しよう。

ステークホルダーと会うときには、ジャーニーマップを作成する価値と、マップによって達成したいことを説明する必要があるだろう。ジャーニーマップを作成することで、組織は以下のことができるようになる:

  • 意識が顧客中心に変わるので、単に独立した機能を作成するのではなく、統合されたジャーニーのためのデザインになる。
  • チームメンバー間で、顧客のとる行動と期待をすり合わせられる。
  • どの部門がそのタッチポイントを担当しているかを視覚化することで、責任を持たせる。
  • よく発生する問題に優先順位を付ける。

ビジネスケース(投資対効果検討書)を作成して、プロジェクトの承認を受けた後も、ステークホルダーには継続的に参加してもらって、彼らからサポートを受け続けられるようにしよう。彼らの知識は貴重だ。また、彼らの知見によって調査の的を絞る必要もある。

3. プロセスに誰が参加すべきか

ジャーニーマップ作成のプロセスでは、マップというビジュアル自体ではなく、ジャーニーマップを作成すること自体が最も重要であることが多い。そのため、マップは共同で作成しなければならない。マップを作成しようとすると話し合いをせざるを得ないので、結果的に、一致したメンタルモデルをチーム全体で共有できる。カスタマーエクスペリエンスの改善方法について合意に達するには、ビジョンの共有が不可欠なのである。

社内にある調査データを集める際には、マーケティング、カスタマーサービス、販売などの関係チームの助けを借りる必要があるだろう。こうしたチームは、カスタマージャーニーについての重要な知識を持っている。さらに、上層部や上級管理職(すなわち、変更をおこなう権限を持つ人々)にもプロセスに参加してもらう必要がある。経営陣は多くの場合、顧客にふれる機会が最も少ないので、新しい知識の共有は彼らにとっても有益である。

4. カスタマージャーニーマップの作成にどのくらいの時間をかけるべきか

ジャーニーマップは柔軟なので、ほぼすべてのプロジェクト予算や期間に適合可能である。ジャーニーマップの作成にかかる時間は手法による(たとえば、調査優先か、仮説優先か)。この2つの手法では、扱う内容と必要とする時間が大きく異なる。

調査優先のアプローチ:カスタマージャーニーをマップにする前に、顧客についての深い知見を収集する。このプロセスでは、いろいろな調査の実施に3~12週間、さらに、データ分析とステークホルダー用の資料作成のための時間も必要である。

仮説優先のアプローチ:社内のステークホルダーと1~2日間のワークショップを実施し、このワークショップによって、既存の知識と仮定に基づく仮説ジャーニーマップを作り出す。このアプローチでは、仮説マップを検証するために、続いて調査をするべきである。そして、理想としては、さらに、再検討用のワークショップを実施し、マップを修正する。その際は調査で発見された現実と仮説との間にあるどうしても避けられない矛盾が修正の根拠となる。

その問題についてあなた方にすでに深い知識があり、問題が一刻を争うものなら、速射砲的アプローチという3番目のオプションもある。この場合には、60~90分の作業セッションを開催して、問題を迅速にマップにすればよい。

あなた方の状況に最適な方法(すなわち、期間)を自分たちで選ばなければならない。ジャーニーマップ作成のビジネスゴール、制約とリソース、企業文化、ステークホルダーの人柄を考慮するといいだろう。

5. カスタマージャーニーマップのための調査データはどこで入手するのか

ジャーニーマップの作成には定性的な調査が必要だ。カスタマージャーニーのビジュアルは実際のデータに基づいているべきだからだ。つまり、顧客の実際の行動を観察し、顧客から直接、話を聞く必要があるコンテキストインタビューインタビュー日記調査のようなユーザビリティ手法がカスタマージャーニーマップの作成に必要な知見を集めるには最適である。

新たに調査をおこなう前には、既存のデータを収集すべきだ。顧客と直接やり取りする部門から情報をもらおう。それから、この情報を利用して仮説マップを作成し、既存のデータが不足している隙間部分をメモしておこう。この仮説マップが調査の方向づけをしてくれることだろう。しかし、仮説マップを共有する際には、このマップはありのままの名称、すなわち、「まだデータによって検証されていない仮説」(データはこの後、収集する)と呼ばなければならない。

外部での調査を計画する際は、多面的なアプローチを採用し、前述の手法を組み合わせよう。調査の初めから終わりまで調査結果をチームで共有することで、継続的にメンバーに情報を提供して、調査に参加してもらおう。

定性的なデータが収集されたら、アナリティクスや市場調査による定量的なデータで調査結果を補足してもよい。

6. カスタマージャーニーマップを使って、現在のエクスペリエンスを評価したり、理想的な状態のエクスペリエンスをデザインしたりすべきか

ジャーニーマップを作成すると、現在のエクスペリエンスにおけるギャップや、スムーズにいっていない部分が明らかになることがよくある。しかしながら、ジャーニーマップは、理想的な状態のエクスペリエンスをデザインするのにも役に立つ。

現在のジャーニーをマップにする場合は、顧客が組織とのやり取りを現在どのように認識しているかについて定性的な調査を実施しなければならない。こうしたマップの作成には、(たとえば、顧客インタビュー、コンテキストインタビュー調査、日記調査など)できるだけ大量の直接情報を収集することが可能な調査手法を利用することになる。

将来のジャーニーをデザインするには、競合他社のカスタマーエクスペリエンスの評価をすることが求められる。こうした情報によって、あなた方の組織が競合他社に勝てる領域や、競合他社がすでにうまくやっている領域を明らかにできる。このアプローチでは、ユーザーのニーズを明らかにするために顧客インタビューをおこなう必要があるだろう。

通常、現在と将来のエクスペリエンスをマップにして縦に並べてみるのは有益である。新製品の将来のエクスペリエンスをマップにしたら、製品の実装後にその時点のエクスペリエンスのマップを作成すれば、自分たちの作業を評価できる。または、現在のマップの感情曲線を将来のマップに重ね合わせて、改善と最適化が必要な領域を強調してもいいかもしれない。

7. 非営利団体で働いているが、カスタマージャーニーマップの作成は自分たちの組織にはどう適用されるか

一般的には、顧客ライフサイクルの中心に、顧客が購買決定をおこなうコンバージョンポイントは存在している。非営利団体の場合は、サイトの訪問者があなた方の組織をサポートすることを決定したときがコンバージョンポイントである。あなた方のサイトの場合は、顧客中心ではなく、寄付者中心のはずだからだ。

勤務先がB2B、B2C、非営利団体のいずれであれ、ジャーニーマップの作成の仕方は同じだ。どの環境でも、出演者とシナリオに優先順位を付ける必要がある。非営利団体が最初に作るジャーニーマップは、あなた方の組織に初めて寄付することにした寄付者、というペルソナのものかもしれない。

同様の回答が、あなたが政府機関で働いている場合にも当てはまる。「カスタマージャーニーマップの作成」という言い方を我々はしているかもしれない。しかし、視野を広げてほしい。自分たちが何かを販売しているかどうかにこだわらず、ターゲットオーディエンスを「顧客」と見なせばよい。

8. リモートチームはどんな点に留意すべきか

リモートチームであってもジャーニーマップの作成は可能だ。ただし、リモートワークという環境では、ジャーニーマップ作成時の一般的な課題(合意の形成や反復の難しさなど)がより強調されてしまうことが少なくない。

ジャーニーマップ作成プロジェクトを進めるには、複数の部門にやり取りをしてもらい、共同作業をしてもらわなければならない。こうしたことは顔を突き合わせての会議でおこなうと最もうまくいく。だが、リモートチームの場合は、関係者全員の入った1つのメールスレッドで延々とやり取りするよりは、まだ電話会議のほうがいいだろう。

また、ジャーニーマップ作成プロジェクトが終わったからといって、マップが最終的に確定したというわけではない(上記の、将来と現在のマップについてを参照)。ジャーニーマップは反復されなければならない。そうすることで、システム変更がおこなわれた後であっても、その時点のエクスペリエンスと一致したものになるからだ。そのため、リモートチームの場合は、楽に編集やコメントができるツールを選ぶことが極めて重要だ。以前書かれた、カスタマージャーニーマップのリモート作成についての記事では、ジャーニーマップ作成時の3つの作業段階のためのデジタルツールと、チームに適したツールを選択する際に考慮すべき要素を説明している。

9. ビジュアルの作成にはどんなツールを使うべきか

マップの審美性についての検討を始める前に、必ずデータの統合を終わらせておこう。ビジュアル重視の姿勢は、美しいが不備のあるカスタマージャーニーマップにつながるおそれがある。

利用するツールが何であれ、プラットフォームによって閲覧と共有がすぐにできるようになっているかを確認しよう。チームの半分のメンバーしかアクセスできないようなツールを選んではならない。共同作業を可能にするツールだけを検討の対象にするとよい。そうすれば、チームメンバーがお互いにドキュメントにコメントしたり、編集したりできる。

UXの専門家がジャーニーマップを作成するために利用できるツールは増加し続けている。MicrosoftのPowerPointやVisioのような古典的なツールなら、ほとんどのチームメンバーが利用できるはずだ。ただし、こうしたツールにはライブコラボレーション機能がないので、チームメンバーの手元にあるドキュメントが最新バージョンではないというリスクがある。一方、MuralやSmaplyのようなオンラインツールなら、マップを共同で作成できるし、デジタルの中間生成物にもすぐアクセス可能だ。しかし、UXの専門家以外のメンバーがこうしたツールにあまり慣れていない可能性は高く、そうしたメンバーはこの新しいインタフェースの使い方を習得しなければならない。

どのツールが自分たちのプロジェクトに最適かを検討する場合は、チームの規模と分散状況、追加データの統合の有無、そしてもちろん、予算について考えるといいだろう。

結論

ジャーニーマップの作成に関して、駆け出しと熟練した専門家の両方のために、我々はさまざまな記事を書いてきた。過去に書かれた記事は以下のとおりである:

ジャーニーマップ作成について、さらに詳しくは、我々のトレーニングコース「Journey Mapping to Understand Customer Needs」にて。