UX指標と組織の目標の整合:ワークショップガイド

UXチームはしばしば、不適切な指標や、あまりにも多くの指標を追跡してしまう。このワークショップによって、UXの測定を組織の目標と整合させて、真に意味のある成果を示すことができる。

Miroボードテンプレート(ダウンロードリンクの1つ目)を、アップロード可能な.rtbファイルとして提供している。そのファイルを有料のMiroアカウントにインポートすれば利用できる。

この記事では、実践的な協働型のワークショップを紹介する。このワークショップは、UX指標を組織の目標と再整合させること、ユーザーエクスペリエンスと組織への効果を結びつけるような、絞り込まれた意味のある指標一式をチームが持てるようにすることを目的としている。

問題:的外れな、関連のない指標

多くのUXチームは、少なくとも意思決定者にとっては重要ではないUX指標を報告しつづける状態から抜け出せなくなっている。CSATやネットプロモータースコアのような標準的なUX指標をただ引き継いで使っていたり、習慣的にSUSを追跡していたりするのである。たとえそれが自分たちの状況に対して具体的なアクションにつながる知見を提供しないとしても、それが既定の、あるいは期待されているUX指標だと思い込んでいるからだ。

また、活用されることのないデータポイントを何十個も収集している場合もある。組織の目標と結びついていないUX指標は、UX業務の価値が過小評価されたり、誤解されたりする原因になる。UX指標が組織の目標と整合していないと、進捗が実際よりも進んでいるかのような錯覚を生み、チームを戦略的な成果ではなく、局所的な最適化へと導いてしまう。

これを避けるために、一歩下がって、こう問いかける必要がある。我々は重要なことを測定しているのだろうか。

UX指標における3つの罠

UX指標が広範な戦略的ビジネス目標と結びついていない場合、以下の3つの罠のうちのいずれかに陥りがちだ:

  1. 虚栄の罠:見た目は良いものの、ほとんど知見を提供しない指標(たとえば、NPSは高いのに解約率も高い)
  2. サイロ化の罠:ステークホルダーの賛同を得ず、UXチームだけで選定した指標
  3. ノイズの罠:誰も活用していないUX指標

チームがこれらの罠に陥るのは、通常、UXの成功とは実際にどんな状態なのか、そしてそれが組織の目標とどう関連しているのかについて、部門間ですり合わせができていないためである。UXと結びつけにくい数値は、追加の調査や具体的なデザイン変更で焦点をどこに置くべきかをわかりにくくし、その結果、UX測定を意思決定と改善のためのツールではなく、形式的な作業にしてしまう。

解決策:協働型UX指標ワークショップ

このワークショップを実施する理由

このワークショップの目的は、チームがUX指標を組織の実際の目標と整合させることにある。このワークショップによって、共通理解を築き、整合していない点を明らかにし、ステークホルダー全員で目的のある測定戦略を共同で作成できるようになる。

招待すべき人

UX、プロダクト、アナリティクス、カスタマーサポート、マネジメント層のメンバーを招待しよう。全員が同じプロダクトまたはエクスペリエンスの領域で働いていることが望ましい。

日程を組むときは、ワークショップに3〜4時間確保するとよい。

ワークショップの前に:認識のズレを明らかにする

参加者にワークショップの前に短い事前アンケートに回答してもらい、以下の点を把握しよう:

  • 所属チームの目標とKPI
  • UXがそれらの目標にどのように寄与すると考えているか
  • UXの効果を測定する上での課題
  • 可能なら追跡したい指標

この事前アンケートの設問への回答から、普段は見過ごされがちな食い違いが見えてくる。たとえば、各チームがそれぞれ異なる成果を目標に最適化してしまっている状況や、UXの役割に対する誤解、何が組織の目標に関連していて何が測定可能なのかがはっきりしていないこと、などである。

事前アンケート:ワークショップの前に、短いアンケートを実施し、所属チームの目標、KPI、およびUXの効果を測定する上での課題についてのポイントを挙げてもらう。自分のチームでも活用できるように、そのアンケートのコピーを取っておくとよい。

「なぜ」から始める:組織におけるUXの役割

ファシリテーターは、UX指標は組織の戦略と結びついていないことが多い、という問題を明確にするところから、ワークショップを開始するとよい。

たとえば、ユーザビリティの評価は上がったのにコンバージョンが低下したケースや、満足度スコアは改善したのにサポートコストが横ばいのままであるケースなど、いくつか例を挙げるといいだろう。

つづいて、参加者のアンケート回答を使用して、以下について議論するとよい:

  • UXが最も大きな効果を発揮するのはどの領域だと考えるか。
  • その効果は現在、組織内の他のメンバーが認めている、あるいは評価している方法で測定されているか。

単なる指標ではなく、組織の目標にひもづける

次に、参加者に所属チームが注力している目標とKPI(アンケートの設問1と2への回答)を共有してもらう。その後、全員で協力して以下を行う:

  • 関連する目標(および目的)をカテゴリーに分類する(たとえば、収益、顧客維持など)。
  • 関連するKPIをカテゴリーにまとめ、それらを目標に結びつける(たとえば、販売数、リピーター数など)。
  • 重視している点の食い違いを明らかにする。
  • 現在測定しているが、目標とKPIに関連していないUX指標を特定する。

この作業を行うことで、現在のUX指標のどれが共有された重点事項に整合しているのか、あるいは、結びついていなかったり、関連がなかったり、矛盾しているのかがわかる。

UXによる貢献と不足を特定する

前の手順でまとめた目標とKPI、そして現時点の測定状況を用いて、以下について参加者に議論してもらおう:

  • UXは各目標に具体的にどのように貢献しているのか。たとえば、目標がサポートコストを削減することである場合、セルフサービスフローを反復的に改善し、ユーザーがサポートに連絡せずに回答を見つけられるようにヘルプセンターのデザインを変更することで、UXが貢献できるかもしれない。
  • 上記の効果を裏づけるUXの証拠とはどのようなものか。たとえば、定量的なユーザビリティテストで、ヘルプセンターの情報アーキテクチャを改善した後、再デザイン前は参加者の40%が有人サポートを必要としていたのに対して、参加者の70%が有人サポートを必要とせずに回答を見つけたことが示されるかもしれない。
  • 現在の指標にどのような不足があるのか。たとえば、サポートチケットの件数は追跡していても、ユーザーが問い合わせ前にまず自己解決を試みたかどうかを測定する指標がない場合がある。そのため、UXの変更によって、サポートへの依存が変わったのかどうかが不明確である。
  • 収集されているが活用されていない指標はどれか。たとえば、サポートとのやり取り後、毎回、顧客満足度アンケートの評価が収集されていても、そのデータが問題の種類別に分類されることはほとんどなく、ヘルプセンターのデザイン変更と結びつけて振り返られることもほとんどない。スコアは指標ダッシュボードに並ぶだけで、UX改善が特定のタスクにおけるユーザーの不満を減らしたかどうかを理解するための分析には用いられていない。

次に、ワークショップの参加者がアンケート回答で挙げた課題を改めて取り上げ、他にも不足点やニーズがないかを明らかにしよう。

  • 現在、UXの効果を測定する上で難しい点は何か。
  • 組織内のどこで、UXの取り組みや成果が見えにくくなっているのか。

UXの貢献と不足点について議論することで、不可欠だが測定されていないものと、測定されているが重要ではないものを区別できるようになる。

重要な指標を定義し、優先順位を付ける

次に、これまでに議論した組織の目標とKPIに紐づく可能性のあるUX指標案を挙げてもらおう。アイデア出しのきっかけにし、定義を明確にするために、我々のUX指標フラッシュカードの印刷版またはデジタル版を参加者に渡すとよい。

一般的なUX指標の参照用のセット。指標選定の指針になるよう、定義と推奨されるユースケースを一緒に載せている。チームで活用するため、印刷用バージョンやMiroボードテンプレートをこの記事の末尾からダウンロードしてほしい。

ファシリテーターは、指標が目標に対するUXの「実際の」影響を反映しているか、そして現実的に追跡できるかを、参加者が評価できるように議論を導く必要がある。また、ステークホルダーがその指標を進捗の証拠として、あるいは、優先順位づけや追加の調査、デザインの意思決定のための判断材料として認識するかについて検討しよう。ここでのゴールは、完璧な指標や多数の指標を見つけることではなく、UXが組織の優先事項にどのように貢献するかを真に示す、目的が明確で実行可能な少数の指標を定義することである。

参加者が不適切な指標を推してくるときの対処法

ワークショップの参加者やステークホルダーは、それらの指標がUXの品質をきちんと反映していなかったり、戦略的な目標に結びつかないにもかかわらず、測定が容易な指標やお馴染みの指標をなお推してくることがある。

こうした提案は、退けるのではなく、たとえば次のような深堀りの質問をするといいだろう:

  • この指標は、人々のエクスペリエンスについてどういうことを教えてくれるのか
  • この指標は、改善が必要な点を特定するのに役立つのか
  • この指標は、追加の調査やデザイン変更によって我々が影響を与えられる成果を反映するのか

同じ意図、または近い意図を捉える代わりの指標を提示することもできる。たとえば、ステークホルダーがネットプロモータースコアの収集にこだわる場合、重要なタスクの成功率と満足率でそれを補うことを提案しよう。そして、それでもだめなら、その指標を試験的に運用してみるよう促すとよい。つまり、提案された指標と、それよりも目標への整合性が高い指標を並行して一時的に追跡し、調査計画、優先順位づけ、デザインの意思決定、そしてUXの効果を定量化して伝達する上で、どちらがより有用かを確かめるのである。

また、定量的な専門知識を持つワークショップ参加者(データアナリストや統計に詳しい定量的UXリサーチャーなど)に最終的な指標をレビューしてもらい、それらが明確に定義され測定可能であるかを確認し、組織の目標やKPIに整合していることを検証してもらおう。

指標を活用される場所に組み込む

最後のステップは、指標を記録に残すだけでなく、追跡され、活用されるようにすることである。

チームが以下の点を決められるように短い計画アクティビティを進行しよう:

  • 各指標をどのように収集し、どのように追跡するか。頻度はどれくらいか。
  • 指標をどこでレビューするか(たとえば、スプリントレビュー、ロードマップ検討会など)
  • 指標を意思決定にどのように活かすのか(たとえば、バックログ項目やOKRの優先順位づけ)(訳注:OKRとは、目標(objectives)と主要な成果(key results)を設定する手法)
  • 指標が組織の目標と結びついた状態を保つために、あるいは変化する優先事項とユーザーニーズを反映するように進化させるために、指標の追跡とフォローアップを行う責任者は誰か。

指標の実際の使い方を計画しておくことで、参加者が先を見据えて、指標が、意識され目標に合ったものでありつづけるようにでき、スプレッドシートに埋もれたり、楽しいワークショップで一度話し合っただけで忘れ去られたりすることを防げる。

ワークショップの締めくくり

以下の点を振り返って、セッションを締めくくろう:

  • 選定された指標と、その理由。
  • 整合していない点がどこで明らかになり、解消されたか、または未解決のまま残っているか。
  • 新しいUX指標のセットを、継続中の業務にどのように組み込むか。

たった今、皆で共同作成した測定計画は変化するものだと参加者に改めて伝えよう。目標とプロダクト戦略が進化するのに合わせて、UX指標も進化すべきだからだ。

結論

UX指標は、ユーザビリティの統計や顧客満足度スコアだけではない。UXが組織にもたらす価値を反映し、それと結びついているべきである。したがって、部門間の協働なしには、誤ったことを測定してしまって、最も重要なことを見失いやすい。ワークショップ形式は、チームにとってUX指標の選定の仕切り直しの機会になる。組織の目標と結びついていない測定を、組織の目標に整合し、何を測りどう判断に使うのかが明確な、目的のある測定に置き換えられるからだ。また、UXがデザイン機能であり、「さらには」組織の成功に戦略的に寄与するものであると認識されるようにもしてくれるのである。

無料ダウンロード

記事で述べられている意見・見解は執筆者等のものであり、株式会社イードの公式な立場・方針を示すものではありません。