音声アシスタントに関する国際アンケート調査(1)
日米中の国民性の違いが利用率の違いに現れている
音声アシスタントの利用に関して日米中でアンケート調査を実施したところ、「初めて利用する」「継続して利用する」、どちらの割合も日本が低いことが分かりました。その要因として考えられる「国民性の違い」と「利用目的」について紹介します。
近年、急速な成長を遂げている音声アシスタント市場。今はまだ技術先行で広まっている市場であると言えそうですが、消費者はどのように受け止めているのでしょうか。この分野に関する知見が豊富なロボットスタート株式会社様と一緒に、イードが実施した日米中でのアンケート調査の結果を見つつ、音声アシスタントをめぐる状況について考えてみました。
ここでの「音声アシスタント」とは、スマートフォンやスマートスピーカー、PC、車載ナビ、家電等に搭載された、音声でやりとりができるサービス全般を指します(SiriやGoogle Assistant、Alexaなど)。現状では「AIアシスタント」「AIエージェント」「音声認識型のパーソナルアシスタント」など様々な呼び方がありますが、本稿では「音声アシスタント」と表記します。
株式会社イードはロボットスタート株式会社と、イードが運営する各種メディアサイトの音声コンテンツ化などで協業しています。
調査概要
- 手法
- インターネットアンケート(アンケートパネルに配信)
- 回答者条件
- 20-40代男女
- サンプルサイズ
- 日本:694s/アメリカ:362s/中国:341s
- 回収
- 性年代均等回収
- 実施時期
- 2019年12月11日~12月18日
国民性の違いが利用率の違いに現れている
三浦:今日はどうぞよろしくお願いします。では早速、音声アシスタントの利用状況を見ていきたいと思います。
まず、日本は利用率が低くて、「1回もない」人が半数を占めています。一方でアメリカと中国は少なくとも数回以上は使っている人が多くて、「日常的に話しかけている」人も4分の1いるという結果でした。
また、この結果を年代別に見たのが以下の表です。
日本は40代が「1回もない」割合がやや高いものの、思ったより年代による差は少なくて、アメリカや中国は40代でも結構使っているという結果でした。
中橋:アメリカや中国に比べて、日本の利用率がこれだけ低いのは悲しい状況だね…。20代でも4割以上が使ったことないなんて、ちょっとショック。
旭:しかも「1回もない」人が多いということは、音声アシスタントの性能云々の話以前に、もはや姿勢の問題ですよね…。
三浦:そうなんです、今回、その「姿勢」について興味深い結果が出ています。「あなたは、新しい技術を使ったハイテク製品が発売されたとき、どのタイミングで買いますか」と聞いた結果が以下です。
「真っ先に買いたい」と答えたのは、中国で37%、アメリカで24%、日本はわずか2%しかいませんでした。つまり、日本人は「新しい技術を使ったハイテク製品」に対してかなり保守的で、これが音声アシスタントの利用率の低さに影響していそうです。
中橋:こんなに違うとは。中国はかなりアグレッシブだね。アメリカより「真っ先に買いたい」人が多いんだ。
三浦:そうですね、音声アシスタントの利用率も利用回数もアメリカより中国の方が多くて、中国の人はとにかく新しいものに対して積極的なようです。
旭:まさに国民性の違いですね。あと、“声を出す”ことに対する感覚の違いもありそう。例えば中国の人は、「かかってきた電話をとらないのは失礼」っていう考えで、外でも普通に電話に出るし、公共の場で声を出して話すことに抵抗がなさそうだよね。
三浦:なるほど、それはありそうですね。あと、しゃべるのが好きっていうのもありますよね。アメリカ人も。日本人は、「(しゃべるのが面倒で)声を出すくらいなら入力した方がいい」って考える人もいそうです。
「音楽再生」が音声アシスタント普及のカギなのに、日本人は「音楽再生」をする人が少ない
三浦:ちなみに、初めて話しかけたデバイスはどこの国でも「スマートフォン」が多くて、初めてやったことは日本では「検索」、中国では「音楽再生」が多く、アメリカは「検索」と「音楽再生」が同じくらいという結果でした。
中橋:日本人は音楽再生する人が少ないね。これは結構問題だと思う。というのも、今スマートスピーカーを買う人は音楽を再生するために買う人が多いというデータがあって、逆に言うと音楽を聴かない人はなかなかスマートスピーカーを買わない。例えば「リラックスできる音楽をかけて」とか、そういった漠然としたリクエストにも答えてくれるところに音声アシスタントの強みがあるから、そこのニーズがそもそもないということだったら、ちょっと厳しいよね。
貞平:あるいは、そういうリクエストじゃなくても、単純に「〇〇(曲名)かけて」というだけでも手でやるより操作数は少ないわけだから、音声アシスタントの強みが活かされますよね。
三浦:日本人は音楽をあまり聴かないんですかね…?少し気になって調べてみたんですが、日本は世界の中でも例外的にCDが売れる国らしいです。それで音楽市場が成り立っているんだけど、でもよく売れているCDはAKB48とジャニーズな訳で、純粋に「音楽を聴く」というのとはちょっと違う気がします。
中橋:だいぶ違うよね。AKB48とかは握手券の方がメインだし。音楽を聴かないっていうのは何なんだろうね。他にゲームとかアニメとか漫画とか、音楽以外のエンターテイメントが充実しているからなのかなぁ。いずれにしろ、音楽のニーズが高まらないと、音声アシスタントの普及も限定的だと思う。
貞平:音声アシスタントは音楽のサブスクサービスとも相性が良いはずだけど、それも日本では広まってないですしね。
初めに「何をしたか」でその後の利用のモチベーションが変わる?
旭:日本で一番多い「検索」については、単に知りたいことを聞いてみたら、一発回答ではなくて「検索結果の表示」になってしまった、っていうケースもありそうですね。
三浦:確かにそういうケースはありそうですよね。実は今回、「初めて音声アシスタントを使ったときの性能に対する印象」も聞いているんですが、「検索」をした人は「とても性能が良い」と感じた人の割合が他に比べて低いという結果が出ています。
中橋:なるほど、面白い結果だね。
三浦:逆に、「電話をかける」や「音楽再生」をした人は「とても性能が良い」と感じる人が多い。
貞平:当然と言えば当然だよね。電話とか音楽再生とかは手でやるより簡単にできるし、基本的に意図した通りの反応をしてくれるんだから。
旭:僕の経験では、たまに違う曲がかかりますけどね。でもこれを見ると、日本人は音声アシスタントの不得意なこと(検索など)をやっている人が多い訳で、満足度が低くてもある意味当然だよね。
三浦:そうですね。あと今回、初回利用時の性能への印象が良い人ほど、使い続ける人が多い(「日常的に話しかけている」人が多い)というデータが出ています。
つまり、音声アシスタントの得意なことをやった人は良い印象を持つし、その後使い続けるモチベーションを持つにもなる。逆に音声アシスタントの得意なこと以外のことをやった人は「性能はイマイチ」と感じるし、あまりメリットも感じないので、使うのをやめてしまいがち、ということだと思います。
旭:最初に何をやるかって結構大事ですね。
三浦:そうですね。サービス提供側がうまく音声アシスタントの得意分野に誘導してあげることも大事かもしれないですね。
「使い慣れる」まで使ってもらうことが大事
三浦:今回、音声アシスタントを日常的に使っている人には“使い続けている理由”を、使ったことはあるけれど、日常的には使っていないという人には“使い続けていない理由”を聞きました。
使い続けている理由で多いのは「慣れると便利だから」「手で操作するより便利だから」、使い続けていない理由は、機能の問題よりも「手で操作した方が早いから」という回答の方が多かったです。ちなみに、この「手で操作した方が早いから」という回答は、10回以上使ったことがある人では割合は低くなっていました。つまり、使い続けることで使い慣れてきて、より音声アシスタントを便利に感じるようになるという好循環がありそうです。逆に、使い慣れる前にやめてしまうと、結局「手でやった方が早い」と結論づけてしまう。だから「音声シスタントの普及」という観点から見ると、使い慣れるまで使ってもらう、ということが大事そうです。
まとめ
今回、以下の内容が話題に上りました。
- 音声アシスタントの利用率は、アメリカと中国は高く、日本は低い。日本は半数が1回も使ったことがない。
- その背景として、日本は「新しい技術を使ったハイテク製品」に対して保守的であること、公共の場で声を出すことに抵抗があることなどが考えられる。一方アメリカや中国(特に中国)は、新しいものに対して積極的であり、公共の場で声を出すことに抵抗がなく、おしゃべり好きであることなどが影響して、利用率が高いと考えられる。
- 音声アシスタントを使って「音楽再生」をすることが音声アシスタント普及のカギであると考えられるが、日本で音楽再生をする人は少ないというジレンマがある。
- 音声アシスタントを、その得意領域(電話や音楽再生など)で利用した人は音声操作をすることのメリットを感じるので、その後使い続けるモチベーションを得る。一方で、得意領域以外(検索など)で利用した人は「手で操作した方が早い」と結論づけてしまう人が多い。
次回も引き続き、同じメンバーで音声アシスタントをめぐる状況について考えてみたいと思います。
レポート販売のお知らせ
この記事で紹介した日米中のアンケート調査に加え、今回自動車用の音声アシスタント5機を対象に200問の問答実験を行い、各機の評価を行いました。2つの調査の詳細なデータを販売いたしますので、ご興味のある方は以下までご連絡ください。なお、ご購入いただいた場合、ご希望に応じて報告会を行います。
弊社プレスリリース:イードとロボットスタート、自動車向けAI音声アシスタントに関する調査テストを実施