共用品のユーザビリティ

  • 黒須教授
  • 2000年8月14日

ユニバーサルデザインと共に使われる言葉に共用品という概念がある。ユニバーサルデザインの定義として「誰にでも公平かつ自由に使用でき、容易に使用方法や情報が理解でき、無理なく安全に使えるようなデザイン」(現代用語の基礎知識2000年版)というものがある。また共用品については「なんらかの身体的な障害・機能低下がある人も、ない人も、共に使いやすくなっている製品やサービス」という定義がある。両者を比較すると、「誰にでも」という部分を「身体的な障害・機能低下がある人」と解釈すれば、両者は同じ方向をめざしている、と考えることができる。

これは基本的には適切な考え方であり方向性である、といえるのだが、「誰にでも」という部分が本当にすべての人を包含しているのか、という点と、果たしてそうしたものがすべての場合において可能なのか、という点については、常に吟味をしていく必要があろうと思う。

まず、「誰にでも」という部分だが、universalという英語の意味を辞書(American Heritage)で調べると、1として Of, relating to, extending to, or affecting the entire world or all within the world; worldwideという語義が載っている。これは世界すべてを指しているもので、この意味からすると、理想的にはユニバーサルデザインの対象範囲はこの世界に暮らすすべての人々、ということになる。いずれ「我ら地球人」という考え方が実践されるようになれば、こうした意味でのユニバーサルデザインが実践されることになるかもしれないが、少なくとも当面は、この実現はむつかしいだろう。とすると、当面の目標としては、2として掲載されているIncluding, relating to, or affecting all members of the class or group under considerationという意味での共通性を考慮することになるだろう。しかし、ここで注意しなければならないのは、under considerationという部分である。この意味でuniversalという概念を捉えるなら、考慮の対象に含めるならば考慮するが、含めないならば考慮しない、ということになるからである。言い換えれば、ユニバーサルデザインが目指す共用品を利用する人々の選定に関しては、ある意味での恣意性が作用しうるということである。

実際、共用品といいながら、共用可能なユーザの範囲というのは、それぞれの製品によって異なっている。ISO13407の表現を借りるなら、想定されたユーザ(intended user)として想定しているか、いないかによって、想定された範囲に含まれなかった人々はバッサリと切り捨てられてしまっているのが実態である。

もちろん、症状も程度も質的にまた量的に異なる様々な人々に対して、すべてが利用可能な製品を作るというのは技術的に、またそもそも原理的にきわめて困難である、という事情も分からないではない。その意味では、共用品という概念は、従来のバリアフリーというアプローチでは採算性がないために、実現の見通しが立たなかったような製品を少しでも実現するための便宜的な概念である、と解釈すべきなのだろう。つまり現実的に問題をとらえる視点に立って、企業側の採算性と利用者側の利便性との間の妥協点として成立した概念である、という事情があったし、またあり続けるであろう、と考えるのが適切であろう。

この意味では、共用品という言葉の耳に心地よい響きに惑わされてはいけない。これはあくまでも現実的な妥協の産物であり、特にユーザの立場からは、少しずつでもその対象ユーザの範囲を拡大していくように、企業側に要求しつづける努力をしていかなければならないのである。企業の立場からすれば、自分たちのところはユニバーサルデザインを指向しています、そしてそれをこれこれの製品によって「実現」しています、と言いたいところだろうし、またそうしたアピールを行ってもいる。しかし、ユーザとしては、それがどの範囲のユーザには利用可能であるかを認識し、同時に、どの範囲のユーザには利用困難である、あるいは利用不可能であるかを認識することが必要なのである。

実際問題として、住宅や日用品の類については、ユニバーサルデザインの実践活動は比較的良く推進されつつあるように思う。しかし、情報機器や通信機器などコンピュータを応用した製品については、その機能の複雑さと、それにともなう操作の複雑さに対して、ユニバーサルデザインの実現はかなりの困難さを伴っている。こうした製品の共用化がどのようにしたら実現可能か、どのユーザまでを次の段階での共用化の範囲として含めていくか、という点については、企業側の努力も必要であるが、それを動かす動機付けを高めるためにユーザとしても努力を続けて行かねばならないだろう。