鉄道のアクセシビリティとユーザビリティ

最近、San FranciscoでCaltrainとBARTに乗って、そのユーザビリティとアクセシビリティに注意してみたので、今回はそのことを書くことにしよう。

アクセシビリティ

Caltrainの駅のホームにはスロープが用意されていて、車椅子利用者が車椅子を停めておく場所が大きなサインで表示されている。また、車椅子を車両に乗せるためのリフトが用意されており、そのリフトを使う場所が普通のホームより少し高めに設置されている。その意味では車椅子利用者に対するアクセシビリティはかなり整備されているようにも思えるし、さすがアメリカだとも思ってしまうのだが、そもそもどうしてリフトなんかが必要なんだと考えてみると、結果的にはこうした対応がバリアフリー的な措置だったのではないかと思えるのだ。

Caltrainのホームはみな地面から低い位置に作られている。だから車両の入り口との間にはかなりの段差が生じてしまう。またCaltrainの列車は二階建てになっていて、そのドアには3段程度の階段がある。だから列車の空間に入っただけではだめで、車椅子を階段を上がった場所に移動させる必要がある。リフトはそうした既存車両に対する対策として考えられたものと思われる。

BARTの場合は日本の電車に近い形になっていて、改札フロアからホームまでのエレベータがあり、ホームと列車の間には段差がなく、しかもギャップも小さくできている。またPowell駅などは地下に設置されているが、改札フロアから地上までもエレベータがある。ただし、エスカレータはしばしば故障しており、さてそれに近い頻度でエレベータが故障した場合の代替手段はどうなっているのか、気になった点ではある。

このように車椅子利用者に対するアクセシビリティはかなり考慮されているが、視覚障害者用の黄色い点字ブロックのホームにおける配置は、CaltrainとBARTで異なっている。特にBARTの場合には、幅がひろく、その片側はホームの端までいっており、これでは転落の危険があるではないか、と思えるようなものだった。点字ブロックの有効性とその適切な使い方については、改めて議論が必要なのではないか。

次に大きなスーツケースを持っている旅行者などへの配慮だが、エスカレータが整備されてはいるものの、そもそも日本より高い頻度で故障しているうえに、日本では上りを修理している時は下りのエスカレータを上りにするような配慮がなされることもあるのに対し、上りが故障していればそのままで、長い階段を重いスーツケースを引きずらねばならないことが多い。改札口については、さすがにSF空港駅では大きなスーツケース用の幅広い改札が用意されているものの、その他の駅には用意されておらず、タイヤが二つしかないスーツケースを横向きにして狭い改札口をカニ歩きしなければならないこともある。この点でいまひとつ、という印象だった。

ユーザビリティ

まず券売機。CaltrainではZoneごとの料金体系になっており、どのZoneからどのZoneまでいくかを選択する形になっている。したがって現在の駅と目的の駅がどのZoneにあるかを、壁に貼ってある地図であらかじめ調べておかないと利用できない。操作手順としては、Zoneを指定した後に料金が表示され、料金を入れる。つまり基本的には誘導型の対話形式になっていて、比較的わかりやすいといえる。しかしBARTでは、最初にお金を入れ、それから目的の駅までの料金になるように1ドル単位か5セント単位で減算していくというインタフェースになっている。つまり、ここでもあらかじめ必要な料金は別途料金表を見て調べておく必要がある。日本のようにすべて画面インタフェースでは処理できないのだ。これはちょっと慣れないと使いにくいもので、外国人の僕がアメリカ人からクレジットカードでどのように切符を買えばいいのか質問され、手伝ってあげることになったほどである。

日本では、プラットホームにある駅名表示には、かならず現在の駅名と隣の駅名が書いてあるが、たとえばCaltrainでは、San FranciscoとかSan Joseという具合に、方向を示す表示が書かれているだけである。次がどこなのかをあらかじめ知っておくか、地図を持って搭乗する必要がある。それでも、方向が書かれているだけまだマシということなのだろうか。

社内でのアナウンスでは、次の停車駅を案内してくれるのはいいのだが、Caltrainでは「Millbrae next」のように、駅名が最初に発音される。日本だったら「次は池袋、池袋です」というのが普通だろう。英語でも「Next stop, Philadelphia」のような言い方があるはずだ。人間の注意のメカニズムを考えたときにはこのように駅名を後に言う方が適切である。つまり「次は」という出だしによって注意が喚起され、それから「池袋」を聞くので聞き落とす可能性が少ない。さらに日本の場合にはたいてい二度繰り返されるので、さらに聞き落としが少なくなる。それに対しCaltrainの場合には、無音の状態からいきなり駅名がでてくるので、えっ、今なんて言った、ということになる。こういうアナウンスのユーザビリティというのは見落とされがちな部分かもしれないが、ユーザビリティ関係者は世の中にある人工物、すなわちハードウェア、ソフトウェア、ヒューマンウェア(サービス)のいろいろな側面に注意を向け、問題提起をし、改善のための努力をしていく必要があるだろう。

公開: 2009年6月12日
著者: 黒須教授

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