バスの乗降インタフェース
鉄道やバスなどの公共交通機関は身近なものであり、誰にとっても使いやすいものでなければならない筈のものだが、地域に密着して発達してきたという経緯があるために、地域ごとの特殊性があり、全国的に見ると、さらには世界的にみると、様々なバリエーションがあり、そのインタフェースには一貫性が確立されていない。
特定の地域の中で暮らしている分には、そうした問題は特に意識されないし、高齢者でも子どもでも、ごくあたりまえのように利用しているが、ビジネスや観光で旅行をすることになると途端に面倒なものになってしまう。
たとえばバスの乗り降りをとりあげると、まず前乗り後ろ降り、前乗り前降り、後ろ乗り前降りなどの基本形の違いがある。東京都内のバスは基本的に前乗り後ろ降りだが、浜松市のバスは後ろ乗り前降りであり、静岡市のバスでは、同じく後ろ乗り前降りであっても、乗る位置が最後尾にある。したがって静岡市のバスでは、混雑している時に短区間で降りる客は、立っている客の間を押し分けて前方に行かねばならず、あまり適切なインタフェースになっているとはいえない。また熱海市のバスは前乗り前降りになっているが、これは降りる客が全員降りてしまわないと、乗車ができないわけで、乗降に時間がかかり、これまたあまり合理的なやり方とは思えない。
こうした乗降の仕組みについて、一貫性がないためにエラーが発生することもある。先日、静岡大学の受験があり、多数の受験生が各地からバスに乗って大学までやってきた。だが、その中の何人かは、バスの前に立ち、降りる客が終わるのを待ってそこから乗ろうとして運転手に注意されてしまっていた。
料金の支払い方にも様々なタイプがある。現金を使う場合でも、東京の23区内のように定額料金の場合には、乗る時に支払ってしまう。これは前乗り後ろ降りという乗降形態とも関連しているわけだろう。ちなみに定額料金をとっていて後ろ乗り前降りの形態をしているバスは聞いたことがない。定額料金でないと、一般には、乗車の時にチケットをとり、その番号とバスの前方に表示される料金表の番号を照合して、自分に必要な料金を知るというシステムをとっていることが多い。このやり方は長距離を走るバスの場合には不可避的なものであろうし、特定区間を行き来するような地元の人間にとっては特に料金表を見るまでもないことであろうが、新規ユーザである旅行者にとっては時に失敗の原因になることがある。私も、長岡市のバスでチケットを取り忘れて運転手に詰問されてしまったことがある。また始発のバス停ではチケットを発行しないシステムもあり、そのことを知らずにうろうろしてしまったこともある。
チケットを利用して支払いをするときも、熱海市のように、チケットと現金を一緒に投入してしまう方式のところもあるが、浜松市では、最初にチケットを入れ、次に同じところに現金を投入する。これを間違えて同時にチケットと料金を入れてしまうと運転手に怒られることになる。
チケット方式の場合には、原則として小銭への両替をする機械がおいてあるが、それは両替であって料金の支払いにはならない。東京では、乗車時に紙幣を入れると釣り銭が出てくるため、浜松市で同じように考えて出てきたお金を取って降りてしまおうとして運転手に注意されたことがある。
ただし、東京でも一部の非定額料金システムの場合は、乗車の時に降車するバス停を運転手に告げ、それに見合った料金を前払いするという形態をとっていることがある。これだと原理的にはインチキをする客がいても分からないことになってしまうが、そのあたりは運転手が監視しているのだろうか。
バスにもプリペイドカードが普及してきたが、その使い方にも多様性がある。東京のバスや都電では、乗車時にカードを入れる。それだけである。しかし、浜松市ではカード利用者もチケットをとり、下車時にはチケットを入れ、それからカードを入れて料金を引いてもらうやり方になっている。他方、静岡市では、カード利用者は乗車時にカードを特別の記録機に通す。これによってカードに乗車記録が残るため、降車時にはカードを通すだけで済む。この点では浜松方式より静岡方式のインタフェースの方が優れているといえる。
バスの料金支払い方法にはこのように多数のバリエーションがあり、さらに定期券や回数券なども様々な方式を採用していて、その組合せを考えると、相当数の異なるインタフェースがあることになる。こうした現状は異邦人にとってはなかなか辛いものであるが、それを一挙に全国共通にしようとしても、バスの構造設計から変えなければならない面もあるし、まず当分は現状そのままで運用されてゆくことになるのだろう。その意味では、異邦人に対して適切な情報提供をする必要があると思うのだが、その点での対応は大きく遅れているのが現状である。