携帯電話のユーザインタフェースの最適化-社会関係資本の最大化を目指す

  • 黒須教授
  • 2007年10月1日

現在の携帯電話には多彩な機能が搭載されている。

  • 通話:二者間通話、三者以上通話、テレビ電話、国際電話
  • インターネット:電子メール、ショートメール、交通情報取得、ナビゲーション、音楽や画像のダウンロード
  • 時計:時刻表示、目覚まし、ストップウォッチ
  • カメラ:静止画、動画
  • カレンダー:カレンダー表示、スケジュール管理
  • 学習支援:辞書、電卓
  • 電子マネー:Edy、モバイルスイカ
  • 健康管理:万歩計
  • エンタテイメント:音楽プレーヤ、テレビ、ラジオ、ゲーム
  • メモ:テキストメモ、音声メモ
  • アドレスブック:電話番号、メールアドレス、住所、属性情報
  • データ交換:外部カード、USB、赤外線通信、ブルートゥース通信

ざっとリストアップしてもこれだけのものがある。当初は自動車電話として移動型電話機として登場した携帯電話であったが、現在では小型携帯型情報端末として位置づけられるようになっている。

これだけ多機能になってくると、そのインタフェースの最適化やユーザビリティの向上が必要になる。リモコンやマイコン搭載の各種機器が多機能化した時と同じような配慮が必要となる。そうした配慮は、これまで主に機器単体、もしくは複数機器間連携として扱われ、主に人間工学や認知工学の視点が重視されてきた。ボタン形状や大きさや色とそのレイアウト、ラベルの付け方という基本的な操作部分に関するものから、ある機能を実行する際のボタン操作シーケンスやそれにともなう画面表示、さらに基本画面の構成や表示文字の大きさなどが、そうした基礎的な検討の対象となってきた。そのため、携帯電話を操作している時の運指情報を小型カメラで撮影したり、アイカメラを使ったり、拡大した画面部分を使ったペーパープロトタイピングなどのアプローチが行われてきた。

携帯電話が個人ユースである限り、そうした検討はいちおう十分な結果をもたらす。前述の機能のうち、個人ユースのものとしては、時計、カレンダー、学習支援、電子マネー、健康管理、エンタテイメント、メモなどだ。カメラやアドレスブックやデータ交換は他人との関わりに関係してくるので、純粋な個人ユースとはいえない側面がある。さらに、通話やインターネットは社会への窓口であり、そのユーザインタフェースの最適化は人間工学や認知工学の観点からだけでは十分に最適化することはできない。そこに導入されるべきは、そうした機器を利用する背後にひろがる社会的関係である。

社会学や経済学で使われている人間関係資本(social capital)という概念は、そういう意味での携帯電話のインタフェースの最適化に一つの視座を与える。この概念にはさまざまな定義があるが「社会における人間関係を最適化することで、社会の効率性や有効さを高める社会的ネットワーキングという仕組み」のことと言っていいだろう。ここにでてくる効率性や有効性はISO9241-11に登場するユーザビリティの下位概念であり、いいかえれば「人間関係を最適化するためのユーザビリティの高い社会的ネットワーク」ということもできる。

こうした観点から携帯電話のインタフェースの最適化を考えると、(1) 最適な人間関係とはどのようなものか(当然、その社会関係の目標や規模、成員の特性などによって変化する)、(2) それを支える社会的ネットワークとして用意されているもの(携帯電話を含むコミュニケーションメディア全般)の人間関係支援の現状と課題、(3) 人間関係支援としてのユーザビリティの高いインタフェース(機能性を含む)のあり方、を検討することが必要といえる。

たとえば高齢者の携帯電話利用が通話とメールに偏っており、他の機能はほとんど使っていないという時、彼らは携帯電話をもっぱら社会関係資本充実のために利用しているといえる。したがって、彼らが満足できるような人間関係の目標状態と現在の状態を比較し、それに対して現在の携帯電話のインタフェース(機能を含む)にどのような過不足があるか、設計上の課題があるかを探ることは重要である。

ユーザインタフェースの設計最適化の問題は、こうした社会的な視点からも行う必要がでてきている。いつまでも個々の機器の外面や内面ばかりにこだわっていてはいけないだろう。その機器とそれをとりまく利用状況(当然それは社会状況や人間関係を含む)との関係に注目しなくてはいけない。