サービスのユーザビリティ

ユーザビリティという概念は、これまでは主に製造業の間で使われてきた。情報通信機器や電気製品、自動車などの業界には、ゆっくりではあるが着実にその考え方が浸透してきつつある。そうした背景をふまえて、今後はユーザビリティの概念がサービス業にも拡大していくべきだと考えている。

特に、銀行のATMや駅や空港などでの自動発券機や改札機などの公共機器の場合には、サービスという観点でユーザビリティを考えることが必要である。個人的に利用されたり、家庭内で利用されたりする場合には、機器を使うのはその所有者や家族であり、他人ではない。しかし、サービス業の場合には、機器を介したサービスは、サービスの提供者とサービスの享受者という他人どうしの間で行われる。したがって、単に機器のユーザビリティが高いだけでは、利用者、つまりサービスの享受者は満足することができず、サービスを提供するシステム全体のユーザビリティが高くなければならない。

たとえば銀行のATMについては、公共端末であることから、車いす利用者や視覚障害者の利用に対する配慮、高齢者や子供に対する配慮が各メーカでなされてきて、単体としてのユーザビリティはかなり高い水準になってきている。しかし、遅い時間に行ったり日曜や祭日に行くと、ATM端末のコーナーが閉まっていることが多く、また自行のカードしか受け付けないということも多い。これではいくら単体としてのATMが使いやすくても、利用者はそのメリットを享受することができない。また保安上の理由から、ATMは銀行もしくはコンビニといった場所にしか設置されていない。東京23区内のように人口が密集した地域では、ちょっと歩けばそうした場所に行くことが出来るが、人口の拡散した地域では、ATMのある場所にゆくだけで一苦労である。さらに、銀行の本支店に設置されているATMでは、利用者は一本の待ち行列を構成し、先頭の人から空いた機器に行くことが出来るようになっている。しかし、スーパーに設置されているような場合には、そうした列の誘導がきちんとできておらず、時間のかかるユーザの後ろについた人は自分の不運を嘆くことになるし、他方、時間のかかる処理をしているユーザは後ろの人の視線に背中を射抜かれることになる。このように機器単体のユーザビリティだけでなく、その運用の仕方、つまりサービスという面についてもユーザビリティを考えることが必要である。

また航空券の発行という場面を考えてみると、ここには複数の機器や複数の関係者が関与しており、単一の機器のユーザビリティを高めるだけでは対応しきれない。たとえば航空券を旅行代理店に買いにゆくと、担当者がでてきて希望の日時と目的地に関する情報を検索し、代金と引き替えにチケットを渡してくれる、あるいは後日郵送してくれる。出発の当日になったら、そのチケットを持って空港に行き、チェックインカウンターで搭乗券に交換してもらい、ここで往きの便の座席が確定する。しかし帰りの便については、現地であらためてチェックインをしなければならないし、航空会社によってはいまだにリコンファームをしなければならないこともある。このような複雑な手続きは、航空会社の勝手な都合で決められているものであり、利用者の側からすれば、お金を払って申し込んだ時点で座席も決めて欲しいし、搭乗券がもらえてしかるべきだといえる。ましてやリコンファームのような仕組みはすぐにも撤廃すべきである。ついでに書いておくなら、マイレージサービスについては、自己申告をしないとマイレージが加算されない仕組みになっている。このあたりもサービスの不足している部分といえよう。

こうした意味で、航空会社には、まだユーザビリティという意識が希薄であるといえる。つまり、利用者のゴールを効果的に効率的に、かつ満足できるように達成することを基本的な目標にしていないのだ。利用者からすれば、航空券の購入プロセスも電車のチケットを購入するプロセスと同じように簡単であるべきである。

国内便の場合、最近はインターネットで申し込んでおくと、空港に行ってから自動チェックイン機にクレジットカードを入れ、そこで座席も選択でき、搭乗券を手に入れられるようになっている。このやり方はだいぶ改善されたものといえるが、まだ電車並みに簡単になっているとはいえない。航空機の場合には、チェックインした乗客は飛行機の出発を遅らせてでも一人残らず乗せなければいけないというような規則か伝統があるようだが、それが搭乗券を手渡すタイミングを遅らせているのだとすれば、むしろ全体的なサービスのあり方を考え直すべきだろう。旅行代理店でお金を払えばあとは添乗員任せ、というパッケージツアーの安楽さに比較すると、一般のチケットの扱い方はサービスのユーザビリティという点で大いに改善されるべきものである。

これらの例に見られるようなサービスのユーザビリティは、これから銀行や鉄道会社や航空会社だけでなく、デパートや自治体など、さまざまな場所で真剣に考えられねばならない。

公開: 2003年1月27日
著者: 黒須教授

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