ICレコーダのインタフェース

  • 黒須教授
  • 2003年2月24日

最近ICレコーダの普及がめざましい。テレビのニュース番組でも、歩きながら大臣に突き出されるのが、最近ではマイクロホンでなく、ICレコーダになっているのをしばしば見かけるようになった。もちろんちゃんとした記者会見ではマイクロホンを使って録音しているようだが、その先がテープレコーダのままかどうかは分からない。もしかしたらICレコーダにつながっているのかもしれない。そのくらい最近はICレコーダが普及しているということだ。

ICレコーダの特徴は、まず小型軽量であること、そして録音時間が長いことだろう。音質については、内蔵マイクで我慢できなければ外付けでいいものを使えばいい。さらに録音したデータはデジタルデータとしてパソコンでの処理が容易だし、音声認識ソフトにかけることもできる。またデジタルだから、ランダムアクセスで、任意の場所の頭出しをすることも容易である。これだけの特徴があるのだから、特に会議や会話の記録という場面では普及しないわけがないだろう。

私もインタビューデータの記録に、昔はカセットテープレコーダやマイクロカセットレコーダを、そして最近までMDレコーダを使っていたが、今ではICレコーダに完全に切り替えてしまった。もう数台を買い換えてきたが、ようやく定番といえるものに出会うことが出来た。

それはO社の製品で、デジカメでは厳しいことを書いてしまったO社だが、このICレコーダに関しては特に賞賛に値すると思っている。

いろいろと評価すべき点はあるのだが、まず一番大きいのは、メモリーデバイスを使っている点だろう。この製品ではスマートメディアを使っている。スマートメディアについては将来は消えてしまうだろうという評価もあるので、他のメモリ媒体を使った方がよかったのかもしれないが、ともかくこうした媒体を使っているために、記録容量はユーザの判断で増量することができる。スマートメディアでは128MBまであるので、それを使えば音質のいいSPモードで20時間50分の録音ができる。メモリ媒体を使っていない機種の場合、価格が上がることを心配してメモリ容量を限定しているのだろうが、自分でそれを増加させられない点で不自由さが生じてしまう。容量の点だけでなく、メモリ媒体であることで、それをPCカードアダプタに入れれば、パソコンへのデータの移動がドライブ間のコピー操作だけで簡単にできる。USBケーブルも付属しているが、それを持ち歩かないでもパソコンへのデータ移動が容易なわけだ。パソコンでの音声データの管理が一般化しつつある現状を考えると、メモリ媒体を選択した決断は、ユーザの利用状況に対する配慮が適切であったといえるだろう。

次に本体デザインと基本操作の容易さを指摘することが出来る。たとえばT社の製品の場合、録音ボタンが側面に小さく付いている。正面にはサーチと再生と停止ボタンだけがついている。ICレコーダの機能を再生中心に考えたのかもしれないが、やはりICレコーダでは録音が基本機能というべきである。したがって録音ボタンが正面に大きく設定されているO社の製品の方が利用目的にかなっているといえよう。O社の製品の場合、再生ボタンが反対に側面についている。こうした考え方はT社の製品でも同様なのだが、録音と再生を間違えて押してしまうことを防止する効果があるといえる。

これらの製品に対してS社の製品は操作性が悪い。正面には消去やインデクスなど、あまり高頻度で使用しないボタンが付いている。これは細長い本体デザインとも関係しているようで、それを握った状態を考えると、高頻度で使用するボタンは側面に配置した方がよいと考えたためと想像される。その考え方は分からないでもない。しかし、問題は再生や停止、サーチに関するボタンである。この製品ではこれらの機能を側面にあるシーソースイッチに集約している。しかも、二方向のシーソーでなく、横押しもできるし、縦方向に押すこともできるという、自由度の高いスイッチに集約しているため、まず操作がわかりにくい。またあまりに操作の自由度の高いスイッチであるため、縦方向に押して再生をするつもりでたとえば上方向に押してしまってサーチになってしまうことがある。さらに、横押しという操作は本体を握った状態でやりやすいものではない。これに比べるとO社の製品ではサーチは側面の単純シーソーになっていて、わかりにくくなりようがない。

スマートメディアを使っているために上面積が大きくなっており、液晶サイズが大きく、ボタンもゆったりと配置できるO社の製品と、可能な限り小型化を指向したためスイッチの配置に苦労しているS社やT社の製品を同列で比較するのはフェアではないかもしれない。しかし、ICレコーダの基本的な目的や利用状況を考えているという点では、やはりO社のこの製品はユーザビリティが高いといえる。

もちろん本稿は、市場にでまわっているすべてのICレコーダを比較したものではなく、たまたま私が購入したうちの三機種を比較したものであり、フェアな比較にはなっていないと思う。しかし、要はICレコーダという製品について、使用目的や利用状況に配慮した製品づくりをしているかどうかを問題にしたかったつもりである。その点は各社の関係者にご理解いただきたい。