未来の政治システム

政治のシステムには、さまざまな点で人間中心的に設計されていない部分が残されている。民主主義を基調としているとはいっても、選挙というプロセスで、あるいは意見集約や意志決定というプロセスで、まだまだ改善すべき余地がある。

たとえば選挙は、民意を反映するための重要なプロセスである。しかし、公約の提示ひとつをとっても、それは選挙の時点での公約にすぎない。選挙の後で新たな問題がでてきた時に、選出された議員がどのように行動するかについては制約する仕組みがない。いってみればお任せであり、選挙民は選挙の時点での公約や演説の内容から、それを予想することしかできない。また、複数の公約を提示しているとき、その大半が許容できても、許容できない公約が入っていたとき、どのように判断するかは難しいところである。積極的でやる気にみちた公約をしている一方で、非常に好戦的で対外的に摩擦をおこす可能性が考えられる候補者に対してどう対処するかは難しい。

こうした問題は、間接民主制を採用しているから発生するものである。意志決定権を委譲するための選挙だからこうした問題がおこるのだ。間接民主制は、情報集約技術が低い時代の産物である。挙手をカウントするには100-200人が限度だろう。紙の投票を集計するには何日かを要するので、頻繁にそれを実施するわけにも行かなかったろう。しかし、今では情報通信の技術によって直接民主制を実現することも可能になってきた。インターネットを利用した直接民主制の提案が出されるようになったのは、やはりそれなりの時代背景があるといえる。

ただし、一気に直接民主制に移行する前に、現在の間接民主制を改善する余地はある。現在は複数の候補者に対して択一式の選挙が行われている。そのために票の割れを予想することが政党にとっては重要なポイントになっている。魅力的な候補が二人いたときに、両方を立候補させてしまうと票が割れ、最悪の場合、二人とも落選ということがありうる。こうした点に選挙の際の駆け引きが生じるのだが、そんな駆け引きが発生する状況がまともなものとは思えない。

こうした問題も紙ベースの投票における情報集約の技術的制約によって生まれたものと考えられる。ICTを利用せず、紙を使うにしてもマークシートという手があるだろう。これを使えば新しいやり方を導入することも可能なはずだ。たとえば、自分が良いと思った候補者にはすべてマークを付けることを許容したらどうだろう。アンケート調査でも択一式ないし特定の数だけ○を付けさせるようなやり方があるが、それとは違って該当する項目にすべて○をつけさせるやり方もある。回答する側からすると、前者は項目全体をながめ、それから項目にウェイト付けをして、最終的に最上位のもの、あるいは上位から指定された数だけ項目を選出することになるが、どうしても感覚的には無理をさせられているという印象が残る。それに対して、自分の気持ちに該当するものすべてに○を付けるのは自然である。選挙においてもこうしたやり方を導入することで、より自然な民意の反映ができるようになると考えられる。

一方、政策決定のプロセスはどうだろう。ネットを利用した直接民主制によって市民が重要と思う案件については、市民の直接投票によって決定する、というやり方が将来の一つの形として考えられている。これに対して、リーダーシップは時として民意と異なる方向を選択することがある、ということも言われている。

この点の是非を判断することは難しい。市民が、彼らに対して大きな負担を要求したり、その意向に反するような政策に対して賛成することは少ないだろう。しかし長期的に見て、民意がすべて正しい選択をするとは保証できない。ここに民主政治の分岐点がある。すべての市民が適切な政治的能力を持っていると考えるのが民主主義ではない。判断能力は知的能力の一つであり、それは多次元の正規分布をすると考えられるだろう。そのとき、平均値で決定を行うことが民主制であり、人間中心の政治であると考えるか、能力の優れた人間(現実の政治家の能力とは別の問題として)の判断に委ねることが逆説的ながら民主制の一つの形であり、結果的に人間中心の政治をもたらすと考えるか、という分岐がある。この問題は難しい問題だが、少なくとも今の現実はそのどちらとも言えない。「優れた」という点をどのようにして判定するか、その点に対してどのように合意形成をするか、そうした問題が解決しないうちは、決断をすることは難しい。しかし政治は決断を必要とする。その意味で、当面は、民意主導型の選択肢を選び、その結果に対しては市民が責任を取る、という方向の方が適切かと思われる。

いずれにしても、こうした人間中心の政治においてICTの果たす役割は大きい。ただし、そのためには個人認証の技術、暗号化の技術、プライバシー保護のための技術の発達が必要である。ユーザブルな政治というものは、そうした技術の発展によって可能となるだろう。

公開:2003年6月23日
著者:黒須教授

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