ウィキペディアのユーザビリティ

最初に、以下の記述はウィキペディアの素人による所感であることをお断りしておく。その意味で、ウィキペディア関連の用語について不正確なこともあると思う。

僕はウィキペディアにPFD00343というハンドルで記事を書かせてもらったり、他人の記事に加筆修正をさせてもらったりしている。ウィキペディアの記載については、内容的に信頼できないものがある、という意見もあるし、学生のコピペレポート作成の温床になっているという意見もある。しかし、内容が信頼できないのであれば、できるような水準に持っていくように関係者、特にドメインエキスパート(各分野の専門家)が協力していくべきだと思うし、学生のコピペについては、それをチェックするソフトウェアが複数の大学で開発されていると聞く。僕自身、映画を見たり、本を読んだり、展覧会にいったりと、何らかのきっかけがあった時には気軽に検索をさせてもらい、とても勉強になっていると思っている。それは、単に物知りになれるからというよりは、自分の頭の中の知識の再構造化に役に立っていると思うからだ。自分で記事を書いたりするのは、その恩返しの気持ちも込めてのことである。

そのウィキペディアについて、記事を書いたりする執筆者の立場に立つと、ソフトウェア的にはユーザビリティは低いが、ヒューマンウェア的にはユーザビリティが高いと思っている。なお、ここでソフトウェアというのは、プログラムという意味ではなく、規則や規約などの決まり事という意味である。またヒューマンウェア的に、というのは、ウィキペディアという人工物をサポートする人々の協力的態度や指導的態度など、人的支援に関わる側面のことである。

まずソフトウェア的にみると、どうすれば「ウィキペディアらしい」記事を書くことができるのか、ウィキペディアの素人にはとてもわかりにくい。先日、自分のページに掲載されているマイクロシナリオ法についての記事を作成した時にもそう感じた。

マイクロシナリオ法については、学会でもそこそこの知名度がでてきたし、使い方について質問を受けることもあるのだが、ウィキペディアには項目だけがあって解説が書かれていなかった。そのため、開発者としてちゃんと説明をしておくべきだろうと思って、新規項目の執筆を行った。ただ、あらためて新規に詳しい解説を書き起こすことはせず、既に書いておいた原稿の一部を改編して執筆し、それをアップした。

するとさっそくコメントが付いていた。そのコメントの内容をコピーしておかなかったので、記憶に頼ってその内容を書くことにするが、要するに、まず記載内容が既存の原稿の一部であることが指摘されていた。これにはまず驚いた。実に素早いタイミングで、しかも詳細な検索を行ってくれていたからだ。次にPFD00343というハンドルが黒須本人でなければ著作権侵害になるという警告が書かれていた。そこで自分のHPにその旨の記載をしたところ、翌日には確認ができたので警告は解除すると書かれていた。この素早さにまた驚いた。

なお、著作権については、図面を掲載するときの手続きがまだ理解できていない。以前、自分で描いた図面を掲載しようとしたのだが、著作権がクリアになっていないという理由で削除されてしまった経験がある。対応のしかたが分からないまま、アレアレという感じだった。

次に自分のことに関係した内容を書く場合には自己宣伝にならないように、との注意が書かれていた。どこそこを参照して、その書き方を読むようにと書かれていた。しかし、その参照の仕方が良くわからなかった。自己宣伝をしたつもりはなかったが、面倒なので全面的に削除して、新たに短い原稿を書き起こした。

これで良いかと思っていたら、書き方がウィキの書き方になっていないと書かれていた。ああ、と嘆息したが、ウィキペディアの書き方というのが良く分からない。調べれば分かるのだろうが、ともかくウィキペディアには決まり事が多く、それがあちこちに分散しているので、どうにもわかりにくい。たとえば記事の作成手順がウィザードのようになっていて、それにしたがって入力していけば記事が書けるようになっていればいいのに、などと思った。時間のあるときにちゃんと調べておこうと考えて、ちょっと放置してしまった。

それから何日かたって、何気なくマイクロシナリオの項目を見てみたら、なんと自分の書いた原稿が見事にウィキペディアらしいフォーマットに変更されていた。これにはまたまた驚いた。そしてウィキペディアを運営している人々の熱意と努力に頭が下がる思いがした。

翻って考えてみると、ウィキペディアのような百科事典は、当然ながらドメインエキスパートがそのコンテンツの執筆をすべきである。場合により、その項目の当事者が執筆することもあるだろう。しかし、ウィキペディアに執筆しているか否かに関係なく、ドメインエキスパートの母集団全体を考えてみれば、その多くはウィキペディアについては素人に近いと思うし、そのことも関係してウィキペディアに執筆することがないように思われる。言い換えれば、ドメインエキスパートの一部でありウィキペディアについてある程度、または良く知っている人だけが執筆をしているのが現状かと思う。

本来なら、ウィキペディアについて全く知らない専門家であっても、どんどんと執筆をしてくれた方が、記事も増え、その信頼性も向上すると予想される。だが実際のウィキペディアには、より多くのドメインエキスパートの参加を阻むようなソフトウェア的(前述のように「決まり事」という意味)なユーザビリティの悪さが存在している。そしてそれを救っているのがヒューマンウェア的なユーザビリティの優秀さである。願わくば、なんとかしてソフトウェア的なユーザビリティの改善策を講じていただきたい。ソフトウェアの弱点をヒューマンウェアで補うというのは、一般のソフトウェアでも見られる形ではあるが、人的負担を軽減する意味で、できることならソフトウェアに転嫁することが望ましいと考える。そのために、まずは記事作成のユーザビリティテストを実施してみる、といったことはいかがだろう。HCD-Netとしてもある程度のご協力はできるだろうと考えているが・・。

公開: 2008年12月15日
著者: 黒須教授

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