「同期」がどうして流行っているのか

一見敷居が低そうに見える「同期」という操作。しかし、これが実はわかりにくい。PCとプレーヤでそれぞれ操作したときに、どっちからどっちに何がコピーされるのか。そしてiTunesの場合、ライブラリというのはパソコンのどこにあるのか、という点だ。

  • 黒須教授
  • 2012年1月31日

 iTunesを利用したiPodやiPad、iPhoneへの同期という操作は、android携帯や音楽プレーヤなどでも広く使われている。しかし、この同期という概念は、従来のパソコンで一般的だったコピー操作に比較して、本当に分かりやすくて使いやすいものといえるだろうか。ちなみに、「同期」と「わからない」でネット検索(Google)すると4,640,000件もでてくる。結構、困っている人は多いのではないかと思う。

 提供しているメーカーの側では、パソコンと端末を「自動的に同期してあげる」のだから、ユーザは深く考える必要もなくユーザビリティが高いはずだ、と思い込んでいる節がある。しかし、もともとハイテク弱者であるが故にユーザビリティの世界に入ってきた僕にとっては、やはりとてもとても敷居が高い。

 一番わかりにくいのは、どっちからどっちに何がコピーされるのか、という点。次にわかりにくいのは、iTunesの場合、ライブラリというのはパソコンのどこにあるのか、という点だ。

 一昔前の音楽プレーヤでは、パソコン操作で一般的なコピーという概念を使っていた。これは、僕のようにCDからMP3をパソコンのハードディスクにため込んでいて、そのなかで音楽プレーヤに移して街中で聞けるようにしたい曲を選択的に音楽プレーヤに移したいユーザにとっては、とてもシンプルで分かりやすかった。要するにハードディスクにある曲のなかから選んだものを外部ディスクとして認識されている音楽プレーヤにコピーするだけで良かったわけだ。これなら音楽データが移動する方向も明確だし、パソコンのハードディスクから音楽プレーヤに音楽データが移動するのだ、ということが簡単に理解できた。

 しかし、同期、である。二つの機器があったとき、その内容を同期すると、二つの内容が同じになる。こう書くと簡単のように思えるが、たとえば、機器Aの側には元はXYの二つのデータがあって、それを機器Bと同期して、機器AB両方にXYのデータが入ったとする。ここまではいい。しかし、機器Aの側でYを削除し、機器Bの側でXを削除すると、機器AにはXが、機器BにはYが残ることになる。さて、ここで同期をするとどうなるか。

 そのときのユーザの気持ち(意図)にはいろいろなケースが考えられる。機器AではYを削除したかったが、それを復活したいので機器Bに残っているXを持ってきたい場合、反対に機器BではXを削除したかったが、それを復活したいので機器Aに残っているYを持ってきたい場合。その他、である。まず最初のケースの場合、ユーザの意図としては、機器AにXYが入れば良くて、機器BはYだけでもいいという場合もありうるし、いや両方をXYにしたいというケースもありうる。2番目のケースでは、同様に、機器BにXYが入ればよく、機器AはXだけでもいいという場合もあるし、両方をXYにしたいという場合もありうる。

 この場合、同期という処理が、「あるものはある状態にしておく方向」なのか「ないものを無い状態にしておく方向」なのかによって結果が異なるだろう。前者なら、機器Aにも機器BにもXYが入る結果になるが、後者なら何も無くなってしまう結果となる。

 また削除を行った日時が重要になるという考え方もある。それがユーザの意図を表すと考えるとそうなる。その場合、機器Aから機器BにXYをコピーした日時より、それぞれの機器で削除を行った日時の方が新しい。となると、削除したことが優先され、何も無くなってしまう結果になっても仕方ない。

 ややこしい話を抜きにしても、iTunesに例をとると、たとえばiPodを2台持っていて、一つはPops、もう一つはClassicsにしたいとすると、ライブラリーをどのようにしておけばいいのかが分からない。こんなこと、一昔前と同じコピー処理をするやり方なら訳は無い。

 今日は、何を間違えたのか、ライブラリの中の音楽データすべてに“!”がついてしまった。ようするにファイルの実体を消してしまった形になってしまったようだ。それなのにお化けが“!”付きで残っていることにどういう意味があるのか理解できない。しかたなく、またパソコンのハードディスクからデータをライブラリに取り込んだ。ライブラリに取り込む操作はコピーと同じなので、それはもちろん理解できるのだが、ライブラリという概念そのものも理解しがたい。おそらくどこかの段階で表示されたのだろうが、システムドライブのどこかにあるのか、それすら分からない。アプリの側であまり勝手な概念を作り出されてしまうのは困る。パソコンの概念だけで処理ができた方がありがたい。

 まあ、僕にはこのようにわかりにくい同期操作なのだが、iTunes関連製品やアンドロイド端末など、同期操作を取り入れた機器が氾濫している現状だから、もしかしたらわかりにくいと怒っているのは僕のようなハイテク弱者だけなのかもしれない。しかしハイテク弱者にも分かりやすくしましょうね、というのがユーザビリティ活動の基本的姿勢だとすると、やはりこれは問題だと言わざるを得ないだろう。このあたり、メーカー担当者はどのようにお考えなのだろうか。