ICTの七不思議(後編):
イアホンマイク、3Dテレビ、リモコン

昨今のICTの世界における七不思議を、前編・後編に分けてリストアップする。後編の今回は、「イアホンマイクが条例違反にしかならないこと」「やはりマイナーな3Dテレビ」「いまだに使いにくいリモコン」の3つ、そして、番外編を1つ取り上げる。

前編: ETC、SUICA、マイクロソフト、アップル

5. イアホンマイクが条例違反にしかならないこと

運転中の携帯電話の利用は道交法違反になるが、イアホンマイクを使えばいい、と一般に思われている。ただ、地方によっては東京のようにイアホンマイクも禁止されていることがあるが、それは道交法ではなく条例による。

携帯がスマートホンになって画面操作が基本となると、特に視線が道路状況よりも画面に集中するのでそれを法律で禁止したのは理解できる。しかし注意というのは視覚の問題だけではない。メンタルリソースの配分に関する問題も大きい。だから、イアホンマイクを使っていても話に夢中になると、運転操作に配分されるリソースが減少し、視線は前方を向いていても見落としが発生し、事故につながる可能性がある。こんなのは注意の心理学や人間工学の基本である。それなのに、なぜイアホンマイクは道交法で禁止されないのか。不思議なことだ。

もちろん両耳をカバーする通常のイアホンは聴覚情報を遮断してしまうので以ての外であり、イアホンマイクで両耳イアホンを使っているものはない。しかし、車両と同時に考えておかなければならないのは自転車である。以前から軽車両ということで自転車がお目こぼしになっていて、右側通行をしたりしていても警察官が注意しないことを不満に感じていたが、最近よく見かけるのは若い人が両耳イアホンをつけて自転車を運転しているのが多いことだ。これは明らかに危険であるのに、それは注意されることも少ないし、罰金の対象にもなっていない。世の中、不合理に満ちている、そんな気持ちになる。

6. やはりマイナーな3Dテレビ

話題になった3Dテレビ。当初から両眼視差によってもたらされる奥行き情報と、調節や輻輳によってもたらされる奥行き情報との間の矛盾によって視覚系が混乱し、疲労しやすく、また画面酔いを起こしやすいと主張してきたが、事実、消費者も3Dテレビに飛びついたという状況ではなかった。もちろん短時間であれば両眼視差によって構成される立体空間は楽しいものであり、映画の大半をDVDやBDで自宅で見ている僕も、3D映画は映画館で楽しんでいる。たかだか2時間のことだけど、それでも結構疲労感は残る。

さて、3Dテレビの利用に関する実態調査の結果が公開されている。これによると、購入したユーザの不満は「3D映像を自由な姿勢で見られる」点に関するものだった。なお、この調査の項目には、画面酔いに関する項目は含まれていないので、その点についての実態は分からない。ともかく、テレビを見るときのユーザは「自由な姿勢」で見ることを望んでいるし、実際、寝転がったりして見ていることも多いということだ。両眼視差は左右の目の情報のズレによるものなので、眼鏡をかけていても正立していないと立体視は生じない。これはメーカーがユーザの利用実態を予想しきれていなかったことの証だろう。

僕が20代の頃から立体テレビというものは話題になってきたが、視聴状況の不自然さから予想して、メジャーな製品にはなり得ないだろうと思ってきた。言葉は悪いが「金持ちの道楽」程度、テレビは他にも幾つかあります的な家庭に導入されるようなものじゃないかと思っている。まだ対応番組が少ないから、そのことが不満になるような状況だが、対応番組が増えたとしても、画面酔いやその他の不満が募るだけではないだろうか。

7. いまだに使いにくいリモコン

ヒューマンインタフェースやユーザビリティの研究会や学会の発表で、使いにくい機器として研究対象に取り上げられることの多かったリモコンだが、問題は全く改善されていないように思う。

機器ごとにボタンの配置や形状、リモコンに割り当てられている機能などに違いがあり、ユニバーサルリモコンもでてきたものの、結局、各社が独自に、しかも機種ごとに違うリモコンを出すという状況は変わっていない。インタフェースの一貫性などというお題目はどこかに置き忘れられた状況だ。しかも、しばしば指摘される問題として、リモコンがどこに行ったか分からないという問題についても一般的な解は示されていない。

これだけユーザビリティが問題にされていながら、問題が一向に解決されていないという例も少ないのではないか、と思うほどである。

番外編: スマホでサクサク入力する人たち

さて七不思議を書いてみたが、まだいろいろと不思議はある。その一つ、特にこれまでの否定的な観点でなく肯定的な観点からの項目をここで追加しておきたい。

それは、スマートフォンのあの小さなキーボードでサクサクと文字入力をしてしまうユーザがいることだ。2001年にNHKのクローズアップ現代に出たときのテーマが親指族だった。生一発取りの番組だったが、いきなり親指で携帯電話のキーを押しまくる映像を見せられ、国谷さんから「どうですか」と言われた時は、正直に「すごいですね」と言わざるを得なかった。まあ、それではコメンテータの役を果たさないので何とか色々と喋ったのだが、ともかく携帯時代からユーザのスキルの上達については驚かされる。

ISO 9241-210では落とされてしまったが、ISO 13407には人間中心設計の原則として「ユーザーと技術に対する適切な機能配分」という項目があった。この説明をするときにはいつも、人間には適応力があるが、設計はそれをあてにしてはいけない、と言っていたのだが、それにしても適応力の凄さを見せつけられた感じだった。

キーがタッチパネルになったスマートフォンでは、小さな画面キーボードがでてきて、僕のように不器用で指が大きいと、つい隣のキーに触れてしまうのだが、そんなこともなくすらすらと入力している人を見ると、すごいもんだ、と思ってしまう。彼らの技能について人間工学的にもっと分析してみたい気もするが、残念ながら今は時間がない。ともかく七不思議のおまけとして書いておく意味はあるだろう。

Photo by: espensorvik

公開:2012年11月29日
著者:黒須教授

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