電子ブックリーダーのインタフェース

電子ブックとリーダーのユーザビリティについては、画面サイズの影響や読み方、ページめくり操作など、まだ十分に検討されていない部分も多いと考える。

電子ブックについては、比較的最近No.197にも書いたが、今回はそのリーダーのインタフェースに焦点を絞って考えたい。

まず不思議に思うのは、これほど電子ブックが出回るようになったのに、電子ブックリーダーのインタフェースに関するユーザビリティ的研究がほとんどない点である。Google Scholarでサーチしてみても、あまり多くの研究が見つからない。そこで、今回は、幾つかの側面に関して、その課題や可能性を考えてみたい。

(1) コンテンツの種類と読書パターン

まずリーダーを使って、どのようなコンテンツを読むか、だが、そのためにはコンテンツを読み方によって幾つかのカテゴリーに分けておく必要があるだろう。読み方として考えられるのは、線形メディアである図書を最初から順番にシリアルに読んで行くやり方と、線形メディアであるにしても順番通りではなく、関心のあることを読んで行くやり方である。前者はシーケンシャルリーディング、後者はランダムアクセスリーディングといえる。前者の典型は小説や随想などの類いであり、時に小説の最後を最初に読んでしまうタイプの読者もいるが、基本はシーケンシャルである。漫画もそれに近いが、漫画家によってページの駒割りの仕方が様々で、原則としてページの右上から左下に進むが、ページ全体をひとつの駒に割り当てている場合もある。またページ内の駒がすべて同じ大きさであるとは限らず、シーケンシャルといっても小説の場合とは異なっている。また小説などが、文字が連続している限り特定の部分がどのページにあっても構わないのと異なり、ページが持っている枠組みは強く、紙面のサイズが小さくなったからといって、特定の駒を次のページに送るような自由度はない。

この点は電子ブックリーダーの画面サイズと関連しており、小説ではたとえばiPadでもiPodでも、画面サイズが異なっても、同じ文字サイズで読むことができる。当然、iPodの方が一画面に表示できる文字数は少なくなるが、小さなデバイスで読むからといって、文字が小さくなり読みにくくなることはない。もちろん、PDFを読む場合には、ページ内の構成が固定されているので、画面サイズが小さくなれば表示文字も小さくなってしまう。漫画の場合は、このPDFと同様に、画面サイズが小さくなれば表示サイズも小さくなるのが基本であり、可読性という点では劣悪な条件になってしまう。画面サイズが小さい場合、表示サイズは大画面の場合と同じにしておき、フリック操作によって上下左右に表示を移動して表示することもできるが、そうした操作が多発するため、読みやすいとはいえない。

さて、シーケンシャルリーディングには、その他にビジネス書のようなものもあるが、問題は、随所に納められている図表の扱いだ。現在は、図表については、それを1ページに充てて表示するものが多いが、本で読んでいるときには、本文を読みながら視線移動によって随時図表を見ることができるが、電子ブックリーダーの場合には、それはページ切り替え操作によって行うことになり、その分、煩雑になってしまう。

さて、ランダムアクセスリーディングには、まず、シーケンシャルに読むのが基本だが必要に応じて読む箇所が変化してランダムアクセスになる専門書や旅行ガイドや雑誌の場合がある。専門書や旅行ガイドの場合には、リンク機能によって、関連する箇所に移動させるようにすれば良いという考え方から、ブラウザにおけるように戻りボタンやパンくずリストのような形でナビゲーションをサポートして置けばいいとも考えられる。しかし、筆者はまだ現時点で、そうしたリンク機能を駆使した電子ブックコンテンツを見たことはない。早晩、そのような形のコンテンツが出てくるとは考えられるが、現状ではたとえば心理学の概論書でもシーケンシャルに読むしかない。また、こうした図書の場合には、付箋紙の機能も重要になる。ところがワンタッチで付箋紙を付けられる機能があっても、任意の付箋紙の場所に移動するための操作のインタフェースは、まだ十分最適化されているとは思えない。この点、紙の書籍の場合には、全体の厚さという手がかりがあり、その中における相対的な位置として任意の付箋紙の内容をある程度予想し、それを繰ってみて所定の場所にアクセスすることができる。このように柔軟な操作を可能にするためには、単なるプログレスバー上での付箋位置の表示だけでは、いまひとつ十分ではないように思う。このあたり、もう少しインタフェース機能の改善が必要といえる。

その他には、辞書や地図などもあるが、これらは既に電子書籍としてではなく、別なアプリケーションないしはウェブのサービスとして提供されているので、電子ブックリーダーの対象から外してもいいだろう。しかし、たとえば電子教科書や小説、専門書、ビジネス書等々を読んでいる場合、辞書を併用したい場合や、地図で位置を確認したい場合がでてくる。こうした時、Kindleのリーダーソフトでは、当該単語を長押しすると辞書が起動されて上書き表示されるようになっているが、辞書を利用したいすべての場合、そうしたインタフェースで良いかどうかは更に調査する必要がある。たとえば日本人が英語の本を読んでいる状況だという前提で、常に英和辞典が起動されるのが良いとは言えず、時には英英辞典で調べたいこともあるだろう。また、百科事典的な記載を求めている場合もあるだろう。起動する辞書や事典の種類を瞬時に切り替えられるようなインタフェースにしておかないと、そうした読書パターンには対応できない。

さて、コンテンツの種類と読書パターンについてざっと考えてみただけで、既に紙面は尽きかけている。その他の課題については、以下にざっと触れておくだけにしておこう。

(2) 併読という行動パターン

人間は、一冊の本が読めればいいとは限らない。小説などではそれでいいかもしれないが、専門書を調べているような時には、関連した図書を開くことも多い。そのとき、対象図書を切り替えて表示させるインタフェースでは、いまひとつ両者の連携操作が円滑でない。ブックリーダーを複数利用するというやり方もあるが、折角電子的な情報を読んでいるのだからブックリーダー間でブルートゥースなどを使って有機的に連動してくれると有り難い。

(3) 画面サイズ

コンテンツの種類との関係は既に述べたが、さて、電子ブックリーダーの画面サイズはどのくらいの大きさが基本的に望ましいといえるのかも再考の余地がある。現在の電子ブックリーダーは携帯性を重んじたものが多いため、画面サイズは比較的小さいが、文書の基本サイズがA4になっていることを考慮すると、その程度の大きさの画面を持ったリーダーが(もしかすると)一番読みやすい、ということになるかもしれない。読みやすさと携帯性の間にはそうしたトレードオフがあるが、デスクの前にいてわざわざ電子ブックを利用するかどうかという問題も関係してくる。デスクの前にいれば、20インチ以上のパソコンモニターで閲覧できるわけであり、電子ブックリーダーではなくパソコンを利用する人が多いだろうと思われる。したがって電子ブックを利用する状況や場面の調査と、電子ブックリーダーを利用して読書をするであろうコンテンツの種類の調査とを連動的に行う必要がある。電子化だからといってすべての書籍データを電子ブックリーダで閲覧するようになるとは限らない。パソコンと電子ブックリーダの使い分けに関する知見が必要だ。

(4) ページ操作

ページめくりの操作については、様々なリーダーソフトの間で画面のどちらか半分の任意の位置におけるタップ操作、もしくはフリック操作によってページがめくれるようになっている。そのときの画面表示は単純に切り替わってしまうものから、ページがカールし、しかも影まで付いて立体的に切り替わっていくようなものまであり、リーダーソフトの開発関係者がかなり力をいれているだろうことは分かる。これについては、現状でいちおうの最適化がなされているとも考えられるが、紙の書籍でしばしば行われるページをぱらぱらと送ってしまう操作(フリップ操作とでもいえばいいのか)のインタフェースはまだうまくできていない。フリップをしている時、人間は一応それぞれのページの内容を見ている。その程度に内容を見ながら、しかし、早いスピードでページ移動ができること。これも電子ブックリーダで適切に実現したい内容のひとつである。

(5) その他

このように、電子ブックとリーダーのユーザビリティについては、まだ十分に検討されていない部分も多く、ユーザビリティ関係者の一層の関与が求められていると考える。

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公開:2012年5月23日
著者:黒須教授

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