顧客ロイヤリティ

顧客中心主義の考え方からすれば、顧客ロイヤリティという言葉の使い方には注意が必要だろう。顧客が企業に心から尽くそうとする、などという発想は顧客中心主義からも大いに離反しているからだ。

  • 黒須教授
  • 2016年10月24日

NPSとSUPR-Q

UXの評価法としてNPS(Net Promoter Score)という手法が使われていることをご存じの方も多いだろう。これは「How Likely is it that you would recommend our company to a friend or colleague?」という質問に対して0から10までの11段階評定をするものである。「お友達や同僚の方に、私どもの会社を推奨してくださる可能性はどのくらいあるでしょうか」といったような意味になるのだが、これはReichheld(2003)が提案した時点では、customer loyalty(顧客ロイヤリティと訳されることもあるが、loyalityでなくloyaltyなので、ロイヤルティの方が正確だろうとは思っている)の評価のための手法であった。

現在はウェブ評価に使われることが多いのだが、NPSをウェブ評価に転用したのは、Sauro(2011)であり、SUPR-Q(Standardized Universal Percentile Rank Questionnaire)に組み込まれている。ちなみにSUPR-Qの読み方は僕は知らないのだが、多分「スーパーQ」あたりでいいのではないかと思っている。SUPR-Qには、ユーザビリティ、信用、見かけ、ロイヤリティ、全体といった内容をウェブサイトに対して評価するもので、5段階尺度が12問に11段階のNPSが1問だけ追加された形になっている。そこでのNPSは「How likely are you to recommend this website to a friend or colleague?」というもので、「お友達や同僚の方に、このウェブサイトを推薦してくださる可能性はどのくらいあるでしょうか」というようにウェブ用に書き換えてある。

しかし、現在の日本では、NPSを直接ウェブに転用することを考えたからか、SUPR-Qよりもシンプルにしてしまおうと考えたからか、11段階評価だけをウェブ評価に使っていることが多い。もっともオリジナルのNPSでの得点は、その企業の売上げと高い相関があるようで、単独尺度ながら勘所を押さえた評価尺度といえるだろう。

ただし、NPSには、折角11段階で評価を求めても、最終的には10-9点、8-7点、6-0点と3カテゴリーにわけて集計してしまうという乱暴さがあり、それなら11件法でなく3件法でいいじゃないか、という意見もある。

顧客ロイヤリティという考え方

NPSやSUPR-Qについて述べるべきことはまだあるのだが、それについては来年出る予定の近代科学社刊「人間中心設計シリーズ 評価編」をお待ちいただきたい。今回は、その元になった顧客ロイヤリティという言葉について気になったことを書いておきたい。歴史的には、顧客満足度(CS: Customer Satisfaction)に代わって顧客ロイヤリティという概念が登場したようだが、このロイヤリティという言葉が気に入らない。英和辞典でみても「忠実」「忠誠」「忠節」「忠義」といった訳語が並んでいるが、そもそもこの「忠」というのは、「臣下として主君に心から尽くそうとする心」のことである。顧客に対して企業サイドが「忠」になるのなら分かるが、この言葉の使われ方からしても、これは顧客が企業に対してもつ気持ちという意味を持っているように思う。

これは顧客に対して大変失礼な発想ではないだろうか。顧客が企業に心から尽くそうとする、などという発想は顧客中心主義からも大いに離反している。もっともloyalty cardというのは、いわゆるポイントカードのことだから、これはloyaltyという英語の訳し方の問題かもしれない。そうとすれば「顧客ご愛顧」なんていう妙訳も可能なわけで、その訳語は最低水準だが、意味としては適切になる。まあ、最初にcustomer loyaltyを訳した人は、このあたりに困って「顧客ロイヤリティ」などという中途半端な訳語を考え出したのかも知れない。

ともかく、人間中心設計やユーザ中心設計の考え方と連動している顧客中心主義の考え方からすれば、この言葉の使い方には注意が必要なように思う。ウェブについて使う場合には「ユーザ愛顧度」とか、ちょっと意訳して「ユーザ愛好度」などという訳がいいのかもしれない。そして、「NPSを使っている」と言わずに、せめて「SUPR-QのNPS」を使っている、と言って欲しい。