顧客ロイヤルティ向上のための、顧客経験価値の定量的な測定と管理

ビービット 遠藤直紀氏の講演

これまで計測が難しいと言われていた「顧客経験」を定量化し、ロイヤルカスタマーを創出するCEM(顧客経験価値管理)。欧米企業ではすでに施策の導入が進んでおり、国内においても現在注目を浴び始めています。

  • 田村嘉康
  • 2015年12月11日

2015年10月7・8日、「ソシオメディア UX戦略フォーラム 2015 Fall」が開催されました。この記事では、ビービットの遠藤直紀氏による「顧客ロイヤルティの定量化」と題されたセッションの内容を紹介します。

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株式会社ビービットの遠藤直紀氏

顧客経験価値管理と顧客ロイヤルティの定量化

企業が長期的な収益をあげるためには、顧客ロイヤルティを高め、ロイヤルカスタマーを創出することが重要な戦略と位置づけられています。しかし、現実問題として多くの企業は顧客ロイヤルティを高める活動に積極的とはいえないのが現状です。その最たる要因としては、「顧客ロイヤルティの数値化」ができておらず予算を確保することが難しいということが挙げられており、これを解決する手段が必要とされます。

この記事では、これまで定性的にしか扱うことができなかった顧客ロイヤルティについて、定量化する指標とともに、PDCAサイクルとしての運用を可能とするCEM(Customer Experience Management/顧客経験価値管理)について触れます。

CEMの活動とその目的とは?

ロイヤルカスタマーの創出については、古くから企業と顧客の関係性構築が必須とされてきました。同じく顧客視点での管理指標として、CS(Customer Satisfaction/顧客満足)やCRM(Customer Relationship Management/顧客関係管理)は広く知られており、国内でも定着しています。では、それらとCEMとでは何が違うのか。それぞれの管理指標の違いを体系的に把握するためには、目的と活動の違いを理解する必要があると遠藤氏はいいます。

まず、CSですが、これは、「顧客満足の獲得」を目的とし、その活動としてはお客様との電話で得た「声」のデータをもとに不満の解消、つまりは、顕在化したニーズを満たすことに重点を置きます。これに対してCRMは顧客をデータ管理することでアップセルやクロスセル等の実施を容易にし、「顧客収益性の向上(リピート/単価向上)」を目的としています。

どちらも顧客ロイヤルティを向上させる上では欠かせないことでありますが、CEMはその最終目標である「ロイヤルカスタマーの創出」を目的としており、活動の違いとしては、「顕在化されたニーズではない、その先にある心や感情を高める潜在ニーズの充足」となります。心や感情を高める潜在ニーズとは、顧客自身が予期せぬ驚きや感動といった体験、感覚的に捉えるならばまさにサプライズを受けた時の体験に近いものです。このような顧客経験(CX:Customer Experience)を得ることにより、ロイヤルティは高まるのです。

よって、遠藤氏曰く、CEMによりロイヤルカスタマーを創出する方法とは、端的に述べると、「顧客ロイヤルティを高めるために、顧客が感じる価値を指標の変化から定量的に測定、管理していくプロセスをサイクルさせていくことである」といいます。

顧客ロイヤルティの指標はどう決める?

事業収益に対する貢献を顧客ロイヤルティがどのように示すのか、これを定量的に証明する必要があります。その上で最も重要なこととして「顧客ロイヤルティの指標」となるのですが、そこには3つのポイントがあります。

まず1つ目としては、先にも述べたように「測れないものは管理・改善できない」ため、顧客ロイヤルティの定量化が必須となります。

2つ目としては、「収益性と高相関の指標を設定」する必要があるということ。これは、CSアンケート調査の限界を解消するためです。商品やサービスの不満を解消し、満足度を高めることは顕在ニーズを高めることであり、顧客経験ありきの潜在ニーズの充足には繋がらず、結果としてはロイヤルカスタマーの創出には繋がらないのです。

3つ目は、明確に目標を定めるために、指標を1つに定めることです。これは、顧客ロイヤルティの指標として次の5つの候補があるためにほかなりません。

  • 「顧客満足度(満足していますか?)」
  • 「リピート意向(また買いたいですか?)」
  • 「推奨意向/NPS(お奨めしますか?)」
  • 「必要度(ないと困りますか?)」
  • 「顧客感動指標/CDI(感動した経験はありましたか?)」

選定基準として、「収益性(リピート率)と高相関」であり、かつ、「競合・代替の商品・サービスと相対比較が可能」であることが望ましく、結果として、この5つの中で、この選定基準を満たす指標は、「推奨意向/NPS」になることが多いと遠藤氏はいいます。

NPS実践編

ここからは、NPS(Net Promoter Score/推奨者正味比率)の使い方について端的にまとめます。

NPSは非常に単純化された指標で、アンケートにおいて「製品やサービスについてのお奨めする度合いを0~10点満点の11段階」で答えさせる聴取の仕方となります。

ここで取れた回答データより、0~6点につけた人を「デトラクター(批判者)」、7~8点を「ニュートラル(中立)」、9~10点を「プロモーター(推奨者)」と、3つのグループに分け、「推奨者の割合-批判者の割合=推奨者の正味スコア」とします。このスコアは、マイナス100~プラス100の間で表されます。

実践者として筆者も感じていることであるのですが、そもそも日本人は中庸を好む民族的な特性があり、中間意見(「どちらともいえない」、ここでは5)に回答が偏りやすく、NPSにおいては辛口な評価(マイナス)となりやすい傾向があります。また、商品やサービスのカテゴリー(または業界)によって、スコアの出方も異なるので、競合製品との比較は、同一カテゴリー(または業界)に絞ることをお勧めします。

CEMならびに指標となるNPSは、自社の商品やサービスを定点的に観測することで施策の効果を測ることができ、カテゴリー内(業界)におけるポジションについても競合と比較することでこれを可能とします。また、他の聴取項目と相関分析をすることで、ロイヤルカスタマーを創出するためのドライビングファクターを抽出し、自社の商品・サービスの向上を図ることができるので、CEMならびに指標となるNPSが有効であることには変わりありません。

(取材:株式会社イード リサーチ事業本部リサーチ事業部・田村嘉康)

関連書籍のご紹介

この講演内容に関連した書籍が、12月10日に出版されました:

売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門

著者: 遠藤直紀・武井由紀子
発行日: 2015年12月10日
出版社: 日本実業出版社
ISBN: 4534053398 / 978-4534053398

UX戦略フォーラムとは

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ソシオメディア株式会社の篠原稔和氏

UX戦略フォーラムはソシオメディアが2014年から開催している講演イベントのシリーズで、そこでは、企業の中核にUXを捉えるための組織活動を管理・運営・推進する“UX戦略”に関するさまざまな情報や議論の場を提供しています。

今回はその5回目。「メトリクスの探求」というサブタイトルで、どのようにしてUXデザインを定量的に把握・評価し、経営に活かしていけばよいのか、その知見を、この分野で活躍する国内外の7名の専門家が、具体的な事例を出しつつ紹介してくれました。

ソシオメディアは、UX戦略フォーラムを2016年以降も続けていくとのことです。メディア協賛をしているU-Siteでも、具体的な内容や日程がわかり次第、続報を伝える予定です。

UX戦略フォーラムの公式ページ

田村嘉康
著者(田村嘉康)について
株式会社イード リサーチ事業部 コンサルタント。
イードでは、前職のエージェンシーの経験を活かし、主にヘルスケアやアパレル、日用消費財領域を担当。製品開発やブランド評価に関わる調査を手掛ける。また、プロジェクトの垂直立ち上げを得意とし、他社との協力関係を作ることに注力している。