続・虚業の人間中心設計とClarkの産業分類

ISO 9241-210におけるサービスという用語の導入への批判を切っ掛けとして、改めてサービスについて調べ、考えつつある僕だが、その成果を皆さんと共有したいと思う。今回は、Clark, C.による産業分類についてである。

  • 黒須教授
  • 2013年3月13日

前々回に虚業の人間中心設計を書いたが、Twitterなどで予想していなかった反応が多くちょっと驚かされた。その多くは「虚業」という表現を使ったことに対するものであり、サービス業などを虚業、すなわち「投機取引など、堅実でない事業。実を伴わない事業」(広辞苑)という「一般的な」意味で解釈され、驚かれた方が多かったのだと思う。

注意して読んでいただければ分かると思うが、僕が使った「虚業」というのは、梅棹忠夫の「情報産業論(情報の文明学 中公文庫所収)」の用語を借りたもので、いわば、形あるモノに関する実業と形のないコトに関する虚業という対比的な使い方だった。決して堅実性が無いというニュアンスを込めたものではなかったので、誤解された方々にはご理解をいただきたいし、同時に、自分としても言葉遣いの難しさを感じさせられた。

さて、ISO 9241-210におけるサービスという用語の導入への批判を切っ掛けとして、改めてサービスについて調べ、考えつつある僕だが、その学習の成果をリアルタイムで皆さんと共有したいと思う。今回は、梅棹が引用していたClark, C. (1905-1989)による産業分類についてである。

幸い、彼の”The Conditions of Economic Progress” Macmillan and Co. の第一版(1940)と、第三版(1957)が入手できた。第二版は手元にないが、少なくとも第一版と第三版は全面的に改定されており、ほとんど別の本になっている。

最近の本のように、ビジュアルな紙面構成になっていないし、索引も充実していないので、該当する箇所を見つけるのに手間取ったが、1940年の第一版には、次のように書かれているのを見つけた。

“Primary industries are defined as agriculture, forestry and fishing; secondary industries as manufacturing, mining and building; the tertiary industries include commerce, transport, services and other economic activities” (p.7)

この箇所には他から引用した旨が記載されていなかったから、通説どおり、この産業の三分類はClarkが考えだしたものと言って良いだろう。なお、ウィキペディアのClarkの項では、第三次産業として情報通信業が含まれていたりするが、少なくとも当時は情報通信業はまだ発展していなかったので、その説明には、総務省による日本標準産業分類の考え方が混在しているように思う。

なお、彼は、経済学を定義するなかで”Economics is defined as the study of the production, distribution and exchange of all those goods and services which are usually exchangeable, or are actually exchanged, for money”(p.1)としており、商品(goods)とサービス(services)とを対比的に扱っており、そこから梅棹の実業と虚業という対比的な概念が生まれてきたのだろうと推察される。

1957年の第三版では、三分類について、9章(p.490-491)で多少詳しい説明が書かれている。

まず、第一次産業は、天然資源を直接、即時的に利用するもので、農業、畜産業、漁業、林業、さらにボーダーラインとして鉱業が含まれている。

第二次産業は、製造業であり、天然資源を直接利用せず、大規模で連続的プロセスに基づいて交換可能な商品を作り出すプロセス(注 プロセスが二度でてくるが直訳した)である。その特性としては、必要に応じて材料や製品を遠方にも移送できることである、としている。

第三次産業は便宜的にサービス産業と表現できるもので、建築や建設、輸送や通信、流通や金融、専門的サービス、公務や防衛、個人的サービスなどが含まれる。いいかえると、サービス産業という用語は非常に広義に使われている訳である。

Clarkの考え方は、まず自然に取れるものを第一次産業とし、次にそれらを原料として加工し、製品ないし商品とするものを第二次産業とし、残りをすべて第三次産業と括っているようなところがある。これは、製造業が主体であった20世紀中盤には適当な考え方だったかもしれないが、情報通信業などが発達し、第三次産業の比率が高まってきた現代にそのまま適用させるのはいささか無理であるし、それをすべてサービス業と一括してしまうのも強引である。

その意味で、2002年の時点で改訂された新標準産業分類(現在は2007年の改訂版がある)では、それまでの旧標準産業分類でサービス業とされていたもののなかから独立な大分類とされたものが多数ある。これについては次回に述べたい。

Original image by: Cliff