イノベーター理論(1) - 理論の概略

消費者層全体を、商品購入の態度によって、イノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガードの5つに類型化した、ロジャースのイノベーター理論。この理論について、3回に分けて考える。まずは、その理論の概略を見ていく。

ロジャース(Rogers, E.M.)のイノベーション普及理論(Diffusion of Innovation Theory)は、むしろイノベーター理論として知られているが、当初、同名の書籍(Diffusion of Innovations)は1962年に刊行され、その後何回もの改訂を経ている。この理論の影響は大きく、1976年の論文でロジャースは既に1800もの関連した論文が出ていると書いているほどである。

この理論の元をたどると、文化人類学の伝搬主義(diffusionism)に遡り、さらにS字型の累積曲線の考え方はフランスの社会学者タルド(Tarde, G. 1903)に遡ることができるとされている。それはともかく、この理論が著名になったのは、すべての人々から構成される正規分布を、イノベーター(Innovators, 革新者)、アーリーアダプター(Early Adopters, 初期採用者)、アーリーマジョリティ(Early Majoritiy, 前期追随者)、レイトマジョリティ(Late Majority, 後期追随者)、そしてラガード(Laggards, 遅滞者)とに類型化したことによると言って良い。世間は単純なモデルを好む傾向があるが、そうした要求にとてもマッチしたのだといえる。

さらにロジャースは、教育環境における新技術採用のデータにもとづいて、イノベーターが全体の2.5%、アーリーアダプターが13.5%、アーリーマジョリティが34%、レイトマジョリティが34%、ラガードが16%になると仮定している。このカテゴリー分けは、経験的に様々な分野で先導者がいたり保守的な人間がいたりすることから、多様な領域に適用されることになった。ただ、これらのカテゴリーは相互に(特に境界付近で)明確な区分けがあるわけではなく連続的なものであるし、またこの数値は、正規分布を標準偏差単位で切った値にすぎず、細かい数値を問題にする必要はないだろう。なお、タルドの提唱したようなS字型の曲線は、累積正規分布の曲線を求めれば出すことができる。

このモデルの妥当性を巡る議論のなかで、ロジャース(1963)はイノベーターの特性について、特に反対の極にあるラガードとの比較によって、次のような特徴リストを挙げている。

  • イノベーターは、一般に若年である。
  • イノベーターは、教育や社会的評価や収入において、比較的高い社会的ステータスを持っている。
  • イノベーターにとっては、個人的でなくコスモポリタン的な情報源が重要である。
  • イノベーターは、コスモポリタン的である。
  • イノベーターは、オピニオンリーダーとして影響を及ぼす。
  • イノベーターは、仲間や自分自身によって逸脱傾向があるとみなされている。

これに対し、ウールたち(1970)は、反対側のラガードについて統計的分析を行い、ラガードは、イノベーターと比較した場合、それほど極端に違っているわけではなく、ただし、収入(ラガードは低い)とブランドロイヤルティ(ラガードはその傾向が高く、特定のブランドに拘りやすい)、家族の人数(ラガードは少人数の傾向がある)といった点で差異が認められたとしている。

ただ、前述したように、一般的な見方として、世の中には進歩的な人々と保守的な人々がいるという通念があり、それがマーケットにおいてイノベーターを重視すべきだという見方につながっていることは否定できないだろう。イノベーターを攻略し、その動向がアーリーアダプター、さらにアーリーマジョリティと流れてゆけば、市場を支配できるという考え方である。

さて、次回は、ラガードの生き方という点に焦点をあててみたい。

参考文献

  • Rogers, E.M. (1962) “Diffusion of Innovations” (2003年には第五版が出版されている) Free Press
  • Rogers, E.M. (1963) “What Are Innovators Like?”Theory Into Practice, 2(5) pp. 252-256
  • Rogers, E.M. (1976) “New Product Adoption and Diffusion” Journal of Consumer Research
  • Tarde, G. (1903) “The Laws of Imitation” (Trans. by Parsons, E.C.) Holt
  • Uhl, K., Andrus, R. and Poulsen, L. (1970) “How Are Laggards Different? An Empricial Inquiry” Journal of Marketing Research 7(1), pp. 51-54

シリーズ「イノベーター理論」

公開:2014年1月14日
著者:黒須教授

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