知的所有権の運用のユーザビリティ

他人の著作物を公開目的で利用しようとすると、許諾の手続きは煩雑で、場合によってはとてつもない金額の料金を要求されることもある。芸術や学問の成立を危うくしたり、質を低下させたりしないためにも、許諾手続きの簡便化と、適正な料金設定を主張したい。

今回は、知的所有権(知的財産権)に関するシステムの運用について書くことにする。システムのユーザビリティということになる。

知的所有権といった考え方は、鉄の利用で有名な古代ヒッタイトで、その製法を国家的機密にしていたというあたりに始まるらしいが、制度的にはベネチア共和国で開始されたのが最初のようで、かなり古い歴史を持っている。権利意識そのものは、原始時代からの領土争いや、動物の縄張り行動にも見られるように、生物にとってその生存に係わる重要なものとして認識されていた。

それが有形物あるいは有体物だけでなく、無形のものにも権利が及ぶという考え方がでてきたのは、人間の認識システムのあり方を考えると、自然なことと言えよう。そもそも権利というものが「目には見えないもの」であり、牧場の牛の焼き印のような可視化を行わなくても、「それ」がそこに存しているという認識の仕組みは、目に見えている以上のものによって世界を構築してしまう人間の認識システムというものの本質に係わることといえる。

大上段に振りかぶった前振りを書いたが、今回書きたいのは実に卑近な話に関係している。いま、勤務先である放送大学の印刷教材や放送教材を作成していて、特にテレビ用の放送教材はインターネットのストリーミング配信も行うということで、学内関係者の著作権に関する問題意識が極めて高い。

しかし、社会的には好ましいことなのだろうけれど、教材の作成者の立場からすると不自由きわまりない。他人の著作権に関する写真や図版を利用しようとするときには、当然ながらその許諾を取ることになるが、その手続きの煩雑なことといったらない。まず連絡先が分からないことがある。連絡先が分かっても回答がこないことがある。回答がきても利用料金が折り合わないことがある。いったい、こんなことをしていて学問の進歩とか十分な教育なんてありうるんだろうか、というほどに制約だらけの世界なのだ。

教場でいろいろな資料をその場限りで使用する場合には制約は薄いが、放送大学の場合は、教材が放送され、さらにネットでも配信されるため、デジタルにコピーされ再配布されてしまう可能性もある。だから余計に神経質になるのだが、こうした知的所有権のシステムの運用の姿が現状のままでいいとは思えない。

友人のAaron MarcusがSciFi映画にヒントを得た未来のインタフェースデザインに関する論文を書こうとして、映画の画面のコピーの利用許諾を申請したら、とてつもない金額を要求されたという。彼は、学会でも使ってあげれば宣伝になるだろうに、どう考えているのか分からん、と憤慨していた。

以前マッドアマノが、フォトモンタージュの作品について、元になった写真の著作権者から訴えられ、結局50万円を支払うという事件があった。コラージュとかパロディというカテゴリーのアートには、常にそうした「危険性」があるといえる。それと同様に、教材というものにも、常にそうした「危険性」が備わっている。ここで「危険性」というきわどい表現をしたのは、そうしたものを使わないことによって、コラージュやパロディ、あるいは教材という芸術や学問のカテゴリーの成立が危うくなったり、質が低下してはこまる、という気持ちからだ。

もちろん、著作権を無視しよう、と主張したいのではない。そうではなく、その手続きをもっと簡便にしてもらうこと、料金として適正な金額を設定してもらうこと、の二点を主張したい。

もちろん、何らかの作品や展示物などを作成する苦労とそのための人員工数、さらにもちろんその原アイデアを呻吟して作り出したプロセスなどを考えると、それなりの金額を要求してくることにも、筋が通っていないとはいえない。しかし物事、程度問題である。その写真なりを自分の著作物であるかのようにして世間に出してしまうことはたしかに問題で、その点でコラージュやパロディと学術的引用を同レベルで語ることはできないが、学術的引用に対する低廉な使用料の設定基準がきちんと社会的に整備される必要はあるように思う。

じゃエッセイはどうか、ブログはどうか、小説はどうなのか、などという話になるので厄介ではあるが、少なくとも教材、研究発表はその発表の場が明確であれば、他と区別することができる。そして、使いたいものについて、ブラウザでチョッチョッとクリックすれば著作権処理が完了し、口座から自動引き落としになる・・そんなことにならないだろうか、というのが僕の新年の初夢、ということになる。

Original photo by Jordanhill School D&T Dept

公開:2013年1月21日
著者:黒須教授

分類キーワード: