Appleに学ぶこと

Jobsの時代までのAppleには我々は学ぶところが多い。Appleの歴史を振り返ってみると、コンセプト重視、デザイン重視という姿勢でその独自なスタンスを明確にしてきたといえるだろう。

Steve Jobs亡き後のAppleについては、その方向性や経営状況について必ずしも芳しくない情報が流れてくるが、少なくともJobsの時代までのAppleには我々は学ぶところが多い。

Appleの歴史を振り返ってみると、初期の頃はソフトウェアを含めたユーザインタフェースの独自性とその質の高さで顕著な功績を挙げたが、以後は、ユーザインタフェース面で重要な貢献があったというよりは、コンセプト重視、デザイン重視という姿勢でその独自なスタンスを明確にしてきたといえるだろう。

第一のポイント: コンセプトの明示

8ビットマイコンの時代のAppleは、Xerox PARCが開発し蓄積してきたインタフェース資産を巧みに継承し、ユーザインタフェース重視のApple、使い易さのAppleという評価(イメージ)を勝ち得た。Appleが1989年に出版したHuman Interface Guidelines: The Apple Desktop Interfaceという書籍には、そのユーザインタフェース設計の思想が明確に打ち出されていて、一時はインタフェース設計のバイブルとも見なされていた。いいかえれば、このガイドラインは、Xerox PARCが明示的に体系化して示さなかったインタフェース設計コンセプトをきちんと外化し、それに独自の考え方をプラスしたものといえる。その考え方は、現在のiOS Human Interface Guidelinesにも継承されているが、その内容は基本的には1989年のガイドラインと同じであり、継承性や首尾一貫性があるという点では評価できるものの、1989年当時ほどの影響力はもっていない。

このように、パソコン事業の出発点でインタフェースについての設計思想を明確にしたという点で、Appleは使い易い、使いやすさならApple、というイメージが定着することになったが、これは戦略として結果的に大きな成功を収めたといえるだろう。他方、MicrosoftはAppleの「真似をして」Windows 3.1をだしてMS-DOSから脱却し、以後のWindowsへの道を歩み、経営的には成功を収めたものの、イメージ戦略という点ではAppleに二歩三歩遅れをとったといえる。このコンセプトの明示という点は、Appleに学ぶべき第一のポイントである。

こうしたAppleに対し、Microsoftは、マウスやキーボードなどの入力デバイス、そしてXboxやSurfaceなどの機器にも手を出しているが、基本的にはソフトウェア企業という姿勢を根底に持ち続け、パソコン本体のハードウェア開発は他社に任せるという方針をとってきた。結果的にこれがAppleに対する経営的な優位性をもたらすことにはなったといえるだろう。Appleも1990年代にはハードウェアについて互換機を容認する方向を打ち出しUMAXなどからSuperMacなどの製品がでてきたものの、短期間でそれを中止して、ハードウェアの自社販売という姿勢を明確にした。この方針の違いは、ソフトウェア資産の多いWindowsに有利に働いた面もあるが、近年のようにGoogleなどから無料で使えるソフトがいろいろと公開されるようになると、業務系は別にして、特にWindowsに有利な状況とは言えなくなっている。

第二のポイント: デザインの重視

このあたりの時期から、同社のコンセプト重視、デザイン重視という姿勢が鮮明になってきたといえそうだ。もちろん初期のMacの愛らしいデザインは、その「使い易い」ソフトウェアと相乗効果を出したといえるが、デザインへの注力が著しくなってきたのはこの時期からである。要するにハードウェアを自社開発し、見た目でも独自性が分かるように、という開発コンセプトを打ち出したのだ。唐沢なをきの「電脳なをさん 愛憎版」を読んでいると、そうしたAppleのやり方がおちょくりを交えて描かれていて興味深いのだが、たしかにCube型を出したり、花柄iMacを出したり、カラーバリエーションを出したり、Mac miniを出したり、といろいろとハードウェアのデザインで特徴を出そうと模索していたことが思い出される。そして、この時期になると、ユーザインタフェースの設計思想は過去の継承に留まり、新たな特徴はあまり打ち出さなくなっている。

Macintosh 128K
(by Grm wnr from All About Apple museum)
iMac G3 Flower Power
(by Michael Gorzka; trimmed)
Power Mac G4 Cube
(by Christine und Hagen Graf)

Appleのデザイン重視は、しかしながら、並みのものではない。試行錯誤の時期を経た後の現在、シンプルにして印象的な機器デザインは、なまじの工業デザイナーにできるものではない。その質の高さと同時に、白を基調としたデザインも同社を特徴づけるものとなっている。そして、その方針は未だにブレていない。これは、携帯オーディオプレーヤのiPod、スマートフォン分野でのiPhone、タブレット端末におけるiPadのいずれにも共通する特徴、いや方針である。この方針のブレのないことは、Appleに学ぶべき第二のポイントである。

こうして見てくると、コンセプトは不明瞭で、また他社追随のことが多く、デザインは都度変更されてしまう日本メーカーとの違いは明らかである。ただ、第二のポイントは、下手をすると唯我独尊やマンネリズムに陥りかねず、これからのAppleにとっては課題となるところだろう。

公開:2015年1月15日
著者:黒須教授

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