パワーポイントの意味性

Sorensen教授が「講義ではPPTを禁止しよう」という一文を掲載し、反響を呼んだ。僕もPPTの意味性という点からすると反対意見に近い。PPTを使った講義が有意義になるかどうかは、PPTというツールの適否の問題ではなく、その使い方の問題だろう。

2015年4月に、DenmarkのCopenhagen Business SchoolのBent Meier Sorensen教授が、「講義ではパワーポイントを禁止しよう-それは学生たちを愚かにし、教授たちを退屈なものにしてしまう」という一文をThe Conversationに掲載し、かなりの反響を呼んだ。同様の話は以前からもあり、FacebookやLinkedIn、AmazonではPPT禁止令を出しているという

意志決定が重要な目標である社内会議でのPPTの使い方と、学生に知識を伝え考えさせる講義でのPPTの使い方は、目的も使い方も異なるから同じ土俵で論じることはできないし、さらにセールスなどでの説得的プレゼンテーションでの使い方も異なっている訳で、この問題は場面ごとに論じるべきだろう。本稿では大学の講義や学術的講演などにおける使い方(講義と講演も違った面を持つけれど、ここではまとめて扱う)について話を絞ることにする。

Sorensenが主張しているのは次のような点である。

  1. 前日までに作っておいたPPTに話が限定されてしまい、その場で脱線したり柔軟に話しを変更することができない。
  2. もともとビジネス用に作られたソフトなので、授業における学生との対話や質疑応答には向いていない。
  3. あるスライドを見過ごしてしまったりすると、学生は話しについてゆけなくなる。
  4. PPTの内容はきちんと他人にレビューしてもらったようなものではないのに、学生にとっては権威的なものと見えてしまう。
  5. PPTに箇条書きにした文章を見せるより、黒板やホワイトボードに書いていった方が柔軟性がある。

こういった理由から、彼の所属する「哲学とビジネス」という修士のコースではPPTの利用を中止してしまったそうだ。

この書き込みに対しては多数の意見が書きこまれており、賛成意見よりは反対意見の方が多くなっているが、僕もPPTの意味性という点からすると反対意見に近い。まず、この「哲学とビジネス」というコースがどのような内容かはわからないが、おそらく哲学というタイトルからするとテキストの多いスライドになっていたのではないかと想像される。テキスト中心のPPTを次々に見せられたら、たしかに学生は圧倒されてしまうだろう。

反対意見のなかにも含まれていたが、PPTを使った講義が有意義になるかどうかは、PPTというツールの適否の問題ではなく、その使い方の問題だろうと思う。上記の(1)や(2)の点は、教師の授業のやり方の問題だし、(3)は話の進め方の問題もあるし、PPTのプリントアウトを配布することで対応ができる。(4)も教師の態度の問題だし、(5)は時には必要だが、基本としてPPTを使うことのメリットを否定するものではない。そもそもPPT以前にはOHPやスライドを使っていたこともある位なのだから。

要は、PPTを使った授業や講演ではPPTだけが一人歩きをしているわけではない。あくまでも中心になるのは教師や講演者の話だからだ。そしてPPTには図表や画像など話では説明しにくいものを中心にしておく。これが基本だろうと思う。また教えたいことをダイレクトに書いてしまうのではなく、学生や聴衆に考えさせるための疑問を提示するのもいいやり方だろう。とにかく文字がぎっしり詰まったようなPPTは教室であっても講演会場であっても学会であっても最悪というべきだろう。とはいいながら、そうした原則を常にきちんと守れないのが人間であり、僕もそのうちの一人ではある。

ただ、PPTの時代になってから特に感じるようになったのは、学生や聴衆がノートを取ることが少なくなってきた点である。PPT全盛の現在ですら、たまにホワイトボードに何かを書くと学生はそれを書き写している。書いて覚えるというのは人間の基本的性質の一つといってもいいだろう。手元にPPTのプリントアウトがあったりすれば、余計にわざわざ書き込みをしようと思わなくなるだろう。その点ではPPTにはすべてを書いてしまっておくのではなく、ポイントだけを箇条書きにし、学生や聴衆にメモをとる必要性を感じさせることが大切だと考えられる。

ツールの意味性、つまりツールがそれなりの存在意義を感じられるようになるかどうかは、そのツール自体で決定されることではなく、それを利用するユーザや利用状況にある。つまり、一次ユーザである教師や講演者がどのように利用するか、間接ユーザである学生や聴衆にどのように受け止められるかを考慮し、学生や聴衆をどのように意図した状況に持ち込んでいくかが重要だといえるだろう。

公開: 2015年6月29日
著者: 黒須教授

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