マイクロソフトのユーザビリティへの取り組み

マイクロソフトが新奇性を追い求めた結果、その製品の使い勝手が損なわれている。マイクロソフトには、膨大な数のユーザに責任ある態度を示し、もっと質の高い製品にしていくことが必要だろう。

最近はどうなのか知らないが、以前、シアトルのマイクロソフト本社には数十人から百人ほどのユーザビリティ担当者がいて、ユーザビリティ活動を熱心にやっている、と同社の人から聞いたことがある。それを聞いて、それは心強いことだと思ったのだが、さて、実際の製品のユーザビリティはどういう状況になっているかというと、実に様々な問題を内包していて、とてもユーザビリティやUX活動を熱心に行っているとは思われない。今回のコラムの意図は、マイクロソフトという会社を叩くことにあるのではなく、いまや世界中の基本ソフトとなってしまっているWindowsやOfficeをもっと質の高い製品にしてもらいたい、という気持ちにある。同社関係者はその点について誤解されぬように希望する。

Windowsのユーザビリティ

Windows 8の引き起こした騒ぎは記憶に新しいし、改めてここで繰り返し指摘する必要もないだろう。いや8.1になってスタートボタンらしきものがついたのに、操作性が依然として悪いことについては、やはり追加しておきたい。僕などは8.1がプリインストールされているパソコンを買っても、フリーウェアのスタートボタンを付けてしまっている程だ。一体、マイクロソフトは何を考えているのだろう、同社の社内体制はどうなっているのだろうと、人ごとながら気になってしまう。8.1についてユーザビリティテストをちゃんとやったのだろうか、などという素朴な疑問まで沸いてきてしまう。いや、多分やっているのだろう。しかし、そのテスト課題の設定の仕方とか結果の受け止め方が間違っているとしか言いようがない。ともかくユーザビリティの基本に立ち返って、虚心に(なんて言葉は英語にはなくて、せいぜいfranklyとかopen-mindedlyくらいしかないからそのニュアンスは通じないんだろうけど)自分たちの足下を見つめる必要がある。

8.1に関連して指摘しておくと、同梱されているIE11にデスクトップ版とスタート画面版との二つがあり、後者にはできないことが結構ある、という点についても、そうした意図が不明である。パソコン初心者だったら確実に混乱するだろう。いや、もうこの時代、パソコン初心者はいないから、少しくらいハードルを高くしても構わないだろう、とでも考えたのだろうか。

もういい加減、バージョンアップビジネスからは足を洗い、会社の規模を縮小してでも、ユーザの為になる改善を中心に活動をしていって欲しい。Windows 7はそこそこ良いOSだったのだから、7.1, 7.2という具合に、マイクロソフトは7をベースにしていくべきだった。現在、Windows 10のTechnical Previewが公開されているが、結局8をベースにしているようで、あまり良いものになることは期待できない。同社としては、新バージョンがでると聞きつけたユーザが徹夜で店頭に並んだ時代の夢をまだ追い続けているのだろうが、早く目を覚まして欲しいと思う。

Officeのユーザビリティ

Windowsだけでなく、Officeについても言いたいことは山ほどある。リボンインタフェースへの切り替えについて、僕は改善というよりは「変化」と受け止めているが、それでも現在ではそうした変化にユーザが一応適応できてきたようなので、そこまでは追求しないでおこう。

Officeについての問題点は細かい点が山積みなのだが、なぜマイクロソフトはそうした細かいことを適当としか思われない安易さで変えてしまうのだろう。一貫性というのはインタフェースデザインの大原則の一つなのに、安易に変更を加えるというのは、新規ユーザに対してならまだしも、従来から同じ製品を使ってきたユーザを混乱させる以外のものではない。

たとえば、パワーポイントのスライドの開始番号を任意の数字にする、という細かい点で、Office 2010までは「ページ設定」におかれていたダイアログが、2013では「スライドのサイズ」に変更になっている。ページ番号をページの属性であると考えればページ設定に置いたままにする方が自然だと思われるのに、何故サイズ変更なのだ。サイズと開始番号は関係ないではないか。

また、同じパワーポイント2013で、スライドサイズの標準が16:9になってしまったのも不愉快である。4:3の標準サイズに対応したプロジェクタがまだまだ多い現状で、時代を先取りしたつもりになっているのかもしれないが、デフォルトは4:3にしておくべきだったと思う。たしかにモニターは16:9のものが多くなってきているが、パワーポイントはプレゼンテーション用のソフトなのだから、プロジェクタを使ったプレゼンテーションの場面を考えるべきだろう。

こうした変更が頻繁に行われている結果、ウェブには「インストラクターのネタ帳」などのサイトが多数あり、ノウハウの伝授を行っている。こうした状態をマイクロソフトは健全な状態だとでも思っているのだろうか。

マイクロソフトのユーザビリティへの取り組み

もちろんWindows 7やOffice 2010には使いにくい点が多々残っていた。しかし、それはWindows 8を出したり、Office 2013を出したりする形で解決されるものではない。それぞれのバージョンの「改良版」で対応されるべき問題だ。

こうした当然のことが分からなくなっているマイクロソフトの現状については、腹も立つが、気の毒に思う気持ちもある。もはやマイクロソフトの時代ではなくなってきている。そのことを感じているが故に注目を浴びようとして新奇性を追求し、結果、使い勝手を損ねてしまって評判を落としている。この悪循環から抜け出ないかぎり、時代は新しいOSやオフィスソフトを求めるようになってしまうだろう。既に、官公庁や企業、大学など、マイクロソフトが「制覇」してきたユーザの規模と数は膨大なものである。そうであれば、それなりの責任ある態度を示すことが必要だろう。「そういえば昔、そういうOSやソフトがあったね」とならないよう、是非とも正道を歩んで欲しいと願ってやまない。

公開:2014年12月8日
著者:黒須教授

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