ICTの七不思議(前編):
ETC、SUICA、マイクロソフト、アップル

昨今のICTの世界における七不思議を、前編・後編に分けてリストアップしてみる。前編の今回は、「ETCを使わない車」「SUICAを持っていない人たち」「何を考えているのかマイクロソフト」「結局7インチを認めたアップル」の4つを取り上げる。

  • 黒須教授
  • 2012年11月27日

諸般の事情で半年ほど休載してしまった。すみませんでした。再開するにあたり、まずは昨今のICTの世界における七不思議をリストアップしてみようと思う。

1. ETCを使わない車

車を運転している皆さんは気づいているだろうが、未だに高速道路の料金所でETC専用ゲートではなく一般ゲートに行く車が結構ある。時には数台が列をなしていることもある。乱暴にたしかに最初の申込みなどはちょっと面倒だし、機器などの初期費用も1万円以上かかるのだが、設定が済んでしまえばこんなに楽なことはない。しかもETC装着車両に対する料金割引もある。

そういう時代になっているのに、未だに一般ゲートに向かう車を運転している人たちは何を考えているのだろう。想像するに、ほとんど車を利用しない、あるいは利用していても高速をほとんど利用しない、もしくは何となく面倒で、ということなのかもしれないが、ゲートでインタビューをしてみたくなってしまう。

2. SUICAを持っていない人たち

同じようなことだが、鉄道や地下鉄の駅で券売機を利用している人が結構いる。バスの料金支払いのところでもSUICAなどのカードを利用せず、現金で支払っている人がいる。これはETCとは違って地域性もあるから、そういうのは他地域から来た人たちなのかもしれない。しかし最近では結構相互利用が可能になっているのし、全部が全部他地域の人たちとも思えない。

僕はオートチャージのSUICAを使っているので、残高が減っても気にすることはない。都内では鉄道、地下鉄、バスのすべてでそれを利用している。大阪などICOCAの地域でも利用できるので、もう手放すことはできない。まあ、趣味なので各地域のカードを10種類くらい持ってはいるが、それは別の話。ともかくICカードを利用していない人たちが、どんな理由や事情があって切符を買ったり現金を支払ったりしているのか、これまたインタビューをしてみたいケースである。

3. 何を考えているのかマイクロソフト

このコーナーではこれまでマイクロソフトはインフラ提供者であり、メジャーであるという理由から、何回か批判めいたことを書いてきた。しかし、Windows 8を使ってみて、なんだか、その行く末が心配になり、同情心すら沸いてきてしまった。マイクロソフトよ、もっとがんばってくれないと困るよ、と。

これまでもMEやVistaで「失敗」をしてきたが、近年Googleなどに押されて活路が見いだせずにいたマイクロソフト。Windows 7はそこそこ良いOSだと思うが、8を使ってみた印象として、他社を追いかける形でタブレット端末をリリースし、しかもそれに適合したOSを汎用OSとして出してしまったのは、明らかにマーケティングの失敗だと思う。

画面の雰囲気が変わるのはまあ許そう。しかし、たとえばスタートボタンを無くしたのは従来からのユーザに少なからず困惑を引き起こしている。また、右側にでてくるチャームは、たまたまインストールしたマシンが27インチのワイドモニターを縦にして二台横並びにしているものだったのが災いして、右下隅にカーソルを置いてチャームを表示させてから、そこにカーソルを移動しようとしていると、途中でカーソルがふらふらすると到達する前に消えてしまったりする。ま、こんなユーザがいるなんてこと、考慮していなかったんでしょうね、マイクロソフトさん。しばらくいじっていて、コンパネ操作やネットワーク設定などもでき、まあそれなりに使うことができるようになったが、最初のバリアは予想外に高かった。

ネット記事を検索してもWindows 8に対しては批判的な意見が明らかに多い。新規ユーザのことだけを考えて、従来ユーザを切り離しても構わないと考えたのだろうか。操作の一貫性というユーザビリティ原則を忘れてしまったのだろうか。しかたなく電机本舗のClassic Shellを導入して事なきを得たが、まったく何を考えているのか、本当に心配だ。

4. 結局7インチを認めたアップル

iPadがでたとき、新しいモノ好きの僕はすぐに購入した。しばらくの間、つまり初期利用期間のUXとしては、うむ綺麗な画面だ、タッチ操作についても文字入力を除けばまあ悪くないな、仕事には使えないがエンターテイメントには使えるな、と思って、YouTubeの動画やCDからMP3にした音楽を移しこんだり、Kindle Reading Appsを導入して電子ブックを読んだりして楽しむことを「試みた」。iPad2が出たときもすぐに購入した。

しかし使っていて感じたのは、ちょっとでかすぎて重すぎるな、ということだった。10インチというのは、見ている分にはいいのだが、持ち運びをしようとすると大きいのでカバンが必要になる。寝っ転がって手に持って見ようとすると重すぎてしばらくすると横起きにすることになった。うーん。

それまでもiPod touchやKindleなど、多数の端末を使ってきたが、音楽と電子ブックについてはiPodに戻ってしまった。やはりポケットに入るあの大きさと軽さは使い勝手がいい。今でも電車の中などでは青空文庫をiPodで読んでいる。

そんな時、SamsungからGalaxy Tabが出た。7インチとiPadより小さい。表示が小さくちょっと重たいのが難点だが、収納性はいい。特に7インチという大きさは、男性に限られるかもしれないが、片手で持ってKindleを読んだり、持ち運んだりすることができる。ウェイストポーチにも入る。以来、iPadは棚に収まり、Galaxy Tabを持ち歩くようになった。

そうしたら、その後になってアップルからiPad miniがでてきた。8インチディスプレイと大きさへのこだわりを残してはいるが、それなりにGalaxy Tab的な使い方ができる。これ、もしかして10インチのiPadはSteve Jobsのこだわりだったんじゃないかという気がしてきた。UX的には10インチのiPadは優れた点はあるが、ユーザビリティ的には7インチあたりが優れていると思う。要するに、1996年にアップル社に復帰し、まもなくユーザビリティセクションを廃止した(そのおかげで僕の友人はアップルをレイオフされてしまったが)Steve Jobsの(非ユーザビリティ的)唯我独尊的アプローチの結果なのではないか、ということだ。たしかにその多くは話題になり、それなりの成功も収めたのだが。

やはり、もっと柔軟に、そしてユーザの利用状況をきちんと考慮して製品イメージを作るというアプローチが、マイクロソフトならずアップルにも欠けていた、ということではないだろうか。アップルには感情的にユーザを引きつける魔力があり、それはUXマーケティングという点で優れたものだとは思うが、ともかくこの4項については反発を感じられる方も多いことと思う。ま、お許しあれ。ついでながら、個人的にはJobsのような信念のある頑固親父って嫌いではありません。

後編: イアホンマイク、3Dテレビ、リモコン

Photo By MJ/TR (´・ω・)