UX/UI

ユーザの主体的経験を指すUXと、ユーザが製品やシステムとインタラクションする場であるUIは、言葉の次元が異なり、同列に議論できるものではない。この併記には、UIデザイナの多くがUXデザイナに変身したということと、UXというキーワードが「流行語」であったということが関係しているというべきだろう。

タイトルのようにUX/UIと二つの概念を併記することが流行しているようだ。Googleで検索したところ、なんと719,000件もヒットした。ちょっとそういう流行に疎かった僕は、先日UXに関する講演を行ったときの質疑で、UX/UIについてどう思うかと聞かれ、ん、何のことを聞きたいのだ、と戸惑ってしまった。こうした背景のあることに思い至らなかったのである。

なぜなら、UIはユーザが製品やシステムと相互作用(インタラクション)する場のことであり、UXはユーザの主体的経験のことであって、言葉の次元が異なるからで、同列に議論できるものではないからだ。この関係は、コンセントの長谷川氏のように、「UIとは機能のことを指し、UXとは結果のことを指している」ともいえるだろう。ただ、それぞれにデザインとかデザイナという言葉をつけると、UXデザインやUIデザインとなり、それぞれが実際に存在している言葉になるし、それを専門としているデザイナもいる。しかし、UXとUIは、方向や次元の異なる言葉であって、相互排他的あるいは包含的な関係ではないから、その組み合わせも存在しうる。曰く、「UIをより良いものにしようとUXデザイナががんばっている」とか、「この製品のUXがすばらしいのはUIの機能性のおかげだ」といった具合である。

ともかく、どういう経緯でこうした誤解が生じたのかを考えると、そのひとつにJesse James GarrettのUXの5階層モデル(編注: リンク先はPDF)あたりが関係しているように考えられる。そのモデルでは、ユーザニーズからビジュアルデザインに至る5つの階層のなかに情報デザインやナビゲーションデザインと共にインタフェースデザインが位置づけられている。だが、このモデルをまじめに解釈すれば、良いUXを実現するために考えねばならないファクターとしてUIが位置づけられているわけで、それをUX/UIと併記する根拠にはなっていない。

ユーザーエクスペリエンスの要素(Jesse James Garrett)
ユーザーエクスペリエンスの要素(Jesse James Garrett)

考えてみると、UXという言葉が一般に流布する以前は、UIという言葉が「前世紀」からすでに普及しており、UIデザインという言い方も一般化していた。それが「今世紀」に入ってUXの流行とともにUXデザインという言い方が一般化し、多くの「旧UIデザイナ」が新たに「UXデザイナ」に宗旨変えをした、という事情と関係しているのかもしれない。

そもそもUIに含まれるインタフェースという概念についても、その意味するところは様々に変化してきた。当初はMMI(Man Machine Interface)ということで、キーボードやマウス、ディスプレイといったものがインタフェースと考えられていたが、ISO 9241-11やISO 13407が登場したあたりから利用状況(context of use)という概念が入ってきて、インタフェースをハードやソフトから構成されるものとしてだけでなく、もっと広い概念としてとらえるようになってきた。それを拡張していけば、モノだけでなく、コトもインタフェースの重要な構成要素だということになる。そのあたりの時期がUIという表現が普及してきた時期に重なる。ただ、その当時でも、UIというのは画面デザインのことだ、などと誤解ないし狭く考えてしまう人はいた。ともかく、インタフェースという概念をモノとコトからなる広義の人工物ととらえるようになれば、それはUXという概念に接近してきたといえる。

ただ、UX白書に示されたように、UXについては時間軸が重要である。von Wilamowitz-MoellendorffのCORPUSとか、KarapanosのiScale、そしてKujalaたちのUX Curveなどという評価手法(これらについては稿を改めて紹介したい)の流れは、そうした時間軸を念頭に置いたものである。そうしたダイナミックなプロセスとしてUXをとらえた時、UIは、UXのあり方を左右する独立変数であると考えることができる。その時、UXは従属変数である。このように考えれば、活動の焦点を独立変数にあてるか、従属変数にあてるか、による違いによってUX/UIのデザインという「言い方」が成立するといえなくはない。ただ、これはあくまでもUIを広義にとらえた場合であるし、UXに対する独立変数がUIだけだと限定することにも無理がある。一つの例としては、UXにはユーザの状態も独立変数として関係してくるからだ。ユーザとUIは、使用者という主体と使用対象の関係にあり、もちろん同一ではない。そして性格や気分、生活パターンや必要性などなどの要素がユーザ側の要因としてUXに関係してくる。

こうしたことを考えると、深いレベルで考えるならUX/UIという表記には「それなりの」妥当性があるともいえるが、浅いレベルでいえば、UIデザイナの多くがUXデザイナに変身したということ、そして、その背景としてUXというキーワードが「流行語」であったということが関係しているというべきだろう。

公開:2014年5月7日
著者:黒須教授

分類キーワード:

↑次の記事:
↓前の記事: