レビューサイトのUX

レビューサイトは、商品やサービスの体験者のUXを記述した評価を潜在顧客が知ることによって購入に至ることが期待されている。サイトによっては高い評価も低い評価もすべて閲覧可能にしてあるが、この低評価のなかには、お宝になる情報も含まれている。

  • 黒須教授
  • 2020年7月20日

レビューサイトはUXの宝庫の筈だが…

レビューサイトとは、ウェブサイトのうち、商品やサービスに関する評価が掲載されているものである。ここで取り上げるAmazonや食べログの他にも、価格.comや旅行サイト、動画サイトなど、商品やサービスに対する消費者の評価を掲載しているサイトは多い。それらのサイトにおける評価は、商品やサービスを利用したユーザ(消費者が利用した後でのことになるので、ここではユーザとなる)の経験、つまりUXを記述し評価したものであり、潜在顧客がそれを知ることによって購入に至ることが期待されている。

一般的に高い評価を得た商品は潜在顧客に選択され購入される可能性が高くなるため、食べログのように出品者がサイト運営者と密にリンクしている場合には、出品者もサイト運営者も高評価を望む傾向があり、多少のバイアスがかかる可能性が存在する。その場合、UXが報告されている筈のサイトに偽りの報告が掲載される可能性が高くなり、サイトの信頼性およびUXは低下してしまう。

しかし、Amazonなどサイト運営者が出品者と距離をおいている場合には、高い評価も低い評価もすべて閲覧可能にしてあり、多様な選択肢のなかから消費者が適切と判断したものを購入できるようにしている。こうしたレビューサイトのUXは高いものになるだろう。ただ、Amazonでも、商品提供者側が雇ったレビューライターが正体を隠して好意的な作為的レビューを書き、平均点を上げようとすることがある。時には外国人が執筆したらしく、日本語がおかしかったりすることがあるが、そうすることは却って商品への信頼感を損なう結果になるだろう。

そうした媚びへつらった評価情報はノイズでしかないが、ノイズを見分けるのに良い方法は、5段階の場合なら、★(評価値1)か★★(評価値2)の低評価のコメントを読むことだと思う。もちろん★★★★★(評価値5)や★★★★(評価値4)の評価が有用でないというわけではない。ただ、★や★★のコメントには、(たまたま不良品にあたってしまった場合も含まれているだろうが)、全体としての歩留まりの良し悪しを伺うことができるのだ。それらの低評価のレビューには、買ってしまって後悔したことや怒りを覚えたことなどが書かれている。時には競合メーカーやサービス提供サイドの関係者が故意に低評価をつけることもあるのだろうが、低評価のすべてがそうしたものとは思えない。

食べログの運用とそこでのUX

グルメサイトの一つである食べログでは、FAQにおいて次のようなガイドラインを掲載している。

そこから適宜抜粋すると

Q.有料サービスに加入しているお店に対して都合の悪い口コミを消しているんじゃないの?
A.お店にとって「都合が悪い」という理由で口コミを修正・削除することは一切ありません。

Q.お店の人がお客さんのふりをして自分のお店に口コミを投稿しているんじゃないの?
A.飲食店関係者が自分のお店に口コミを投稿することを禁止しており、該当する口コミは削除しています。

Q.お店に都合の悪い口コミは消されるって聞いたけど本当?
A.いいえ。お店に都合が悪いという理由で口コミを削除することはありません。

Q.口コミが数件しかなくて点数の高いお店があるけど信頼できるの?
A.3.5点以上のお店は、影響度を持つユーザの、高い評価の口コミが集まった、満足できる確率の高いお店です。

となっており、あくまでも信頼性の高いレビューであることを強調している。

しかし、「食べログ マイナス評価」と入れて検索してみれば、すぐに次のような記事を見つけることができる。

食べログで悪い評価の口コミを投稿すると削除されます。体験談を語る!

なかには、そうした現状に反発したyouxiangさんのように、★★★★(4.0)をつけて高評価を偽装しておき、問題指摘をコメントしている人もいる。

https://tabelog.com/saga/A4104/A410401/41000147/dtlrvwlst/B144765181/

さらに、今年に入ってから日経ビジネスが食べログの「やらせ依頼」の実態を継続的に報告している。そこでは、いわゆる口コミ代行業者による悪質な体験捏造の実態が暴かれている。業者からレビューア候補に送られてくるメールには、「ご来店、お食事頂き、食べログ投稿をして頂きたいです。点数の下限はこちらで指定させていただきます(居酒屋ですと3.5以上、寿司店ですと4.0以上でお願いしております)」とあり、さらに「ご注文は居酒屋ですとアラカルト飲み放題、寿司店ですとコース飲み放題となり、お二人様まで料金等一切かかりません」という待遇の良さ。さらに「一回のご投稿につき一万円の謝礼を銀行振り込みにてお支払いいたします」と謝礼まで出る仕掛けだ。これなら高評価をつけたくなるのも人情というものだ。しかし、実際のUXを反映していないレビューにどれだけの意味があるというのだろう。

食べログを信用しますか? やらせ依頼の全文掲載(1ページ目)(同3ページ目)

公取委がグルメサイト調査「利用者の9割が実態知らず」

これだけ叩かれているレビューシステムには、やはりどこかに問題がある、と言えるだろう。実際、筆者は、半年前、食べログの評価を信用して評価が3.5以上の代官山のレストランを予約した際、着席してからなかなかオーダーを取りに来てくれなかったり(ほぼ空席だらけだったのに)、スープが塩辛すぎて残してしまうほどだったり、その他の料理もいまひとつでガッカリして帰宅したことがあった。食べログに口コミレビューしてやろうと思ったのだが、ネガティブレビューは採用されないとか削除されるという話があったので諦めた。そんな経験がある。

Amazonで低評価が魅力につながった場合

次に★や★★という低評価が魅力発掘につながった事例を紹介しよう。Amazon Primeで放映しているBachelorの3期目の場合がそれだ。何かと世間の評判が低く、それが話題になっているということで、ちょっと覗いてみることにした。

Bachelorという番組は、一人の男性(若くして財力もあり、知的で、魅力的、ということになっている)を20人ほどの婚活女性が奪い合う様を描写したもので、過日終了したものがBachelor 3だった。濃密とはいえ、一年もたたない短期間で結婚相手を決めるのは困難なことの筈で、ちなみにBachelor 1と2のカップルはすでに破綻してしまっているそうだ。

Bachelor 3のレビューを見て驚いた。なんと、平均で★★、しかも2441人の平均である。その評価分布は下図のとおりである(2020.05.27現在)。

Bachelor 3のレビュー

★が69%とは、なんとまあ凄いことだ。しかし、それが逆に僕の好奇心を煽った。それで、飛ばしながらだけど最初から半日をかけて見てしまった。要するに、Bachelorは、番組で選んだ女性を振って、番組終了後に別の女性と引っ付いてしまったのだ。ひでー野郎だ、と思ったがこのどんでん返しは面白くなくはない。番組としては視聴者を釘付けにする要素が強く、結果的には成功したといえるだろう。

このように、★や★★の評価のなかには、結構、お宝になる情報も含まれているということだ。視聴者や体験者のUXがそこには如実に表現されている。そんなわけで、僕は★と★★のチェックを怠らないようにしている。