音のインタフェースの識別性と同定性

音やメロディーや合成音声を使ったサウンドインタフェースは、他と違ったものであることが分かる識別性だけでは十分とはいえず、それがどういう機器のどういう状態を報知しているのかが理解できるという同定性が高いことも重要である。

サウンドインタフェース

音やメロディーや合成音声を使ったサウンドインタフェースは身近に結構多くなっている。単純なビープ音の時代から始まり、識別性と同定性を高める工夫がなされるようになり、現在では多種多様な機器に利用されている。識別性とは他と違ったものであることが分かることだが、それだけでは十分とはいえない。それがどういう機器のどういう状態を報知しているのかが理解できるという同定性が高いことも重要である。

サウンドインタフェースが必要な処理には、

  1. 待ち時間の終了を報知する場合
  2. 突然の事態の発生を報知する場合
  3. インタラクションの応答を報知する場合

などがある。1.と2.は何かの発生をユーザに伝える機能であり、3.はフィードバックである。機器やソフトウェアの設計者やデザイナーはいろいろな工夫を凝らしているが、中には報知すべきことなのにその配慮が見られないケースや、識別性や同定性が低く改善すべきケースもあ

自宅のサウンドインタフェース

音を使ったインタフェースは結構多い。僕の家の場合でちょっと考えてみた。

  • 玄関チャイム
    これはピンポーンという良く耳にする典型的パターンなので、すぐに分かる。
  • 電話
    これも典型的な音のパターンなのですぐ分かる。
  • 目覚ましラジオ
    設定した時間にラジオが鳴り出すので、すぐに目が覚めるし、それが目覚ましの音だということはすぐ分かる
  • エアコン
    単純なピーという音だけど、それが鳴るのはリモコン操作をしている時なので、機器にリモコンを向けている時だから、そのフィードバック音だとすぐに分かる。
  • 風呂
    現在の家の湯沸かし器は古いタイプのものだからか、風呂の湯がたまるとピピピという連続した音しかしない。何度も聞いているはずなのに、何故かすぐに風呂の音だと分からない。以前住んでいたマンションの風呂は、「お風呂が沸きました」というメッセージが特有のメロディーとともに流れてきて、室内のどこにいても、ああ風呂が沸いたか、と分かるようになっていた。今から考えると、あれは秀逸な音デザインだったように思う。
  • 炊飯器
    ご飯が炊けるとピピピという連続した音がする。これも何度も聞いているはずなのに、すぐに分からない。あれは何の音だ、となってしまう。
  • 電子レンジ
    所定の処理が終わるとピーと長目の音がする。これだって何百回聞いているか分からないくらいなのに、短時間の加熱でその前にいる時以外では、何の音だ、となる。ただし、レンジを使っているという記憶はあるので、ああレンジかな、とは考えることができる。
  • 冷蔵庫
    ドアを開けていてちょっと時間が経ってしまうと、ピーという警告音が鳴る。これは分かるまでにちょっと時間がかかる。
  • 洗濯機
    洗濯が終わるとピーとなる。これまた分からない。
  • 乾燥機
    乾燥が終わるとピーとなる。これも分からない。
  • パソコン(ハード)
    以前、故障した時にピー(だったと思うが)と音がして起動しなくなった。これは困ったことだけど、画面が異常な状態になっているのですぐに分かる。
  • パソコン(OS)
    Windowsについては、特にノートパソコンでは音が鳴ると周囲に迷惑になるので、コントロールパネルのサウンドですべての音を「なし」に設定している。時間のかかる処理では完了時に報知して欲しいとは思うが、たとえばファイルコピーの場合、数十GB以上のファイルのコピーのように時間のかかる場合には完了した時に音がでるようにできたらいいとは思うのだけど、小さなファイルのコピーでいちいちピーピー言われてもうるさくて仕方がないだろうから、音はなくていい。ゴミ箱を空にした時のカサッという音は気持ちがいいのだけど、無くても一向に困らない。
  • パソコン(アプリケーション)
    時間のかかる処理は、あとどれくらいで終了するかを正確に予測することができないので、音による報知が必要となる。処理が終了した時点でユニークなメロディーを流してくれる、とかすればありがたいと思う。ちなみに、CDのMP3変換に使っているiTunesでは、トレイが本体から出てくるように設定すれば、その音で処理の完了が分かるけれど、スピーカーからの音ではなく、機械的な音なのですぐそばにいても聞き逃してしまうことがある。デフラグやDVDの書き込みなどのソフトは処理時間が長いから、完了時に音がでてくれるといいのだが、音のするものには出会ったことがない。ファイルのダウンロードも時間のかかる処理なのだが、ダウンロードが完了した時に音や音声で報知してくれるソフトも少ないようだ。単に完了の表示が出てくるだけのものが殆どだ。

意図しないタイミングで発生することに対しても音の利用は有効である。たとえばメールなどの到着を知らせる音である。LINEの場合、アクティブ画面になっていないと独特のペコペコッという音がするが、音の独特さでLINEであることが分かるし、メッセージが到着したことも理解できる。音質のユニークさと相まって同定性が高くなってい パソコンの場合、処理の長さのオーダーというものが関係するだろう。数分から十分くらいのオーダーであれば、近くにいて処理の終了を確認できるが、一時間以上かかる処理となるとパソコンから離れてしまうことが多いので、音が鳴っても聞こえないことが多いだろう。

  • 電話による音声応答 この話は、識別性や同定性からはちょっと外れるのだが、コールセンターなどに電話をすると、最近はたいてい合成音声で何々なら1を、何々なら2を、、、何々なら6を押してください、という具合になっている。さらにそれが二段階になっていて、その後、ようやくオペレータにつながる場合もある。自分のやりたいことが何番に該当するかを考えていて聞き逃してしまい、もう一度最初から聞き直す羽目になることもある。また、音声の途中でボタンを押すとそれを受け付けてくれないものもある。困ったものだと思う。このあたり、Siriも使いものになる水準になってきた現在なら、そろそろ音声認識でお客の要望を聞いて認識し、合成音声で確認してオペレータにつなぐようにしてくれてもいいのではないかと思ってい

公共場面のサウンドインタフェース

公共の機器やシステムの場合は単純なピー音ではなくメロディーや合成音声などを使っていることが多い。

  • JRの駅の音楽
    登場した時、結構話題にはなったが、さて現在、どこまで利用者にとって有効なものになっているのだろう。山手線の高田馬場駅の鉄腕アトムのメロディーはユニークなのですぐに分かるが、それ以外の駅のメロディーは、聞き覚えはあっても、どの駅かまですぐには同定できない。都内の私鉄や地下鉄でメロディーを使っているところはなかったと思うので、JRを利用しているかどうか程度は認識可能だが、メロディーがなくなったらそのことが分からなくなるようではちょっと困るメンタルな状態というべきだろう。さらに駅はアナウンスが多く、それと混ざってしまうと喧しくて仕方ない。アナウンスについては男声と女声を番線によって使い分けたりしていて、そのあたりの配慮は有用だと思うのだが、いずれにせよ、このメロディーについては識別性や同定性以前に有効さが疑問である。
  • エレベーター
    ドアが開いた時に到着した階床を合成音声で教えてくれるものがあるが、これは有用だと思う。複数の乗客がいて、複数の階のボタンが押してある場合には特に、現在どの階に着いたのかを確認する手段が必要だ。それが液晶表示の番号くらいしかないのでは困る。勤務先のエレベータは合成音声の案内がなく、違う階で降りてしまい、あわてて戻る人が結構いる。
  • 銀行のATMや郵便局の口座振替機
    これは合成音声だらけである。以前、ある銀行で預金残高まで合成音声で言ってくれるATMに出会ったことがあるが、当然、それはすぐに見かけなくなった。それ以外のガイダンスについては、特に操作に難儀する高齢者などには有効だろう。音声の途中でも入力を受け付けてくれるので、僕はいつもその音声の先回りをするようにタッチ操作を急いでやって遊んでしまったりする。
  • SUICA
    改札でタッチした時にピッと甲高い音を出す。タッチしたつもりでちゃんとタッチしていないこともあるからフィードバックは必要だし、周囲環境が騒然としていることが多いからある程度の音量は必要だが、新宿駅の朝の改札などはピピピピピとあちこちで音がしてうるさい。これについては、タッチが不確実だったりしてエラーになった時にだけピピーとなるようにしても問題はないと思うのだが、どうだろう。

識別性と同定性

さて、記憶力の悪さという恥をさらすようなことにはなるが、自宅の風呂、炊飯器、電子レンジ、冷蔵庫、洗濯機、乾燥機のピー音は識別性が悪いし、どの機器なのかを同定することが、少なくとも66才になった僕には困難である。普段使いの機器でありなが、この始末である。同様の悩みをもっている人、特に高齢ユーザも多いのではないかと思う。

識別性について言うなら、反復するピーか、長目のピーか、短いピーかという識別はできても、それが機器を同定することにつながらない。こうした機器のフィードバック音にメロディーや音質の違いを導入することは、すでに試みられたのだろうか。そして、それがあまり評判が良くないということで、すべて単純なピー音になってしまったのだろうか。自分で購入して使っている機器でないとなかなか分からないので、メロディーを使った機器がこれまでにあったのかどうか、今でもあるのかどうかを知らない。

しかし、風呂の湯沸かし報知の場合のようなケースを考えると、同定性の高いメロディーや合成音声メッセージを使ってくれてもいいように思う。なぜメロディーや合成音声による同定性の向上を考えてくれないのか、設計担当者の意見を聞いてみたいものだ。価格が上昇するからだろうか? メロディーくらいだったらたいしたコストアップにはならないだろうに。

べき論

さて、まとめとして、どのような場合にどのようなサウンドインタフェースが望ましいかを考えてみたい。

  1. 待ち時間の終了を報知する場合
  2. 突然の事態の発生を報知する場合
  3. インタラクションの応答を報知する場合

このような場合にはサウンドインタフェースが望ましいし、コスト的に許されるなら、メロディーや合成音声メッセージを出すようにした方が識別性や同定性の向上に有効だろう。

今回の記事では、色々な事例を並べてしまったが、改めてこれらを整理して、ガイドラインとしてまとめた方がいいかもしれないと思う。

公開:2015年9月7日
著者:黒須教授

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